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妊娠中に破傷風トキソイドを打っても良いのか? [医学関連]

 以前の破傷風の記事にコメントを戴いたので、再度記事をアップします。質問された方の希望により質問文は公開しておりません。妊娠中にちょっとした怪我をして、産婦人科で相談したのですが、外科に行けと言われ、外科では消毒だけしてもらい、皮膚科に行けと言われたと言う事です。破傷風のワクチンについて誰もきちんと理解をしていないという事が分かりますね。私も完全に知っているわけではありませんが、頑張って勉強しなければと思いました。

 結論から言うと、妊娠中に破傷風トキソイドを打っても問題ありません。というか、アメリカの資料では、毎回妊娠時にワクチンを打つように推奨されています。日本にはないようですが、Tdapという種類のワクチンです。

 Tは破傷風、Dはジフテリア、Pは百日咳です。aは知らなくて良いです(と言うか私も知らない)が百日咳のワクチンのタイプです。wと言うのもあるようですが、現在はaPしか作られていません。Tdapの小文字は、そのワクチンの量が少ない物で、大人になるとワクチンの量は少なくて良いようです。よって、Tdapとは、破傷風に関しては子供と同じ量のワクチンが入っているが、ジフテリアと百日咳は少なめの三種混合ワクチンだという事です。

 こちらの資料を読んでいただけば良いのですが、長文かつ英語なので、、、、、、、「Prevention of Pertussis, Tetanus, and Diphtheria with Vaccines in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)」という名前の資料で、日本語にすれば「アメリカにおける、ワクチンによる百日咳、破傷風、ジフテリアの予防:アメリカ予防接種諮問委員会の推奨」です。アメリカのCDCと言うお役所が出しています。日本語にすれば、アメリカ疾病管理予防センターという物で、厚生労働省みたいなものでしょう。
 CDCがこう言っていると言えば、水戸のご老公様が言ったかのような権威のあるお役所です。本当に信じて良いのかは疑問を呈している人がいますが、まあ、私はははーっ!となります。以下の先生はCDCガイドラインが大好きで、三度の飯より大好きな先生のようです。


CDCガイドラインの使い方 感染対策: 誰でもサッとできる! (You Can Do it!)

CDCガイドラインの使い方 感染対策: 誰でもサッとできる! (You Can Do it!)

  • 作者: 矢野 邦夫
  • 出版社/メーカー: メディカ出版
  • 発売日: 2019/02/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 以下のように書かれています。ACIPは米国予防接種諮問委員会のことです。

 ACIP recommends that providers of prenatal care implement a Tdap immunization program for all pregnant women. Health care personnel should administer a dose of Tdap during each pregnancy, irrespective of the patient’s prior history of receiving the vaccine.

Guidance for Use

 Tdap should be administered between 27 and 36 weeks’ gestation, although it may be administered at any time during pregnancy. Available data suggest that vaccinating earlier in the 27–36 week time period will maximize passive antibody transfer to the infant.

 Tdap may be simultaneously administered with an inactivated influenza vaccine to pregnant women.

 If a woman did not receive Tdap during her current pregnancy and did not receive a prior dose of Tdap ever (i.e., during adolescence, adulthood, or a previous pregnancy), then Tdap should be administered immediately postpartum. If a woman did not receive Tdap during her current pregnancy but did receive a prior dose of Tdap, then she should not receive a dose of Tdap postpartum.


日本語がいい方はこちら


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どんな資源にも限りがあります。セファゾリンの供給不足について。 [医学関連]

 セファゾリンという点滴の抗菌薬が使えなくなっています。

 理由は色々ですが、原料となる薬を作っている会社が、その原料となる薬、原薬を作らなくなったのが大きな原因のようです。私も知りませんでしたが、多くの薬は原薬という物をどこかから(外国の会社が多いようです)買って作る事が多いんだそうです。そして、その原薬を作っている会社はそれほど数が多くなく、その会社が作るのを辞めてしまうと、世界中の国が困るという事です。

 他の理由としては、セファゾリンという抗菌薬をいくら売っても、もうけがあまりないのだそうで、そう言う薬を私企業が売り続けるかと言えば、、、、、、、

 セファゾリンという抗菌薬は私が生まれて初めて処方した薬です。最も基本的な薬の一つで、日本中で相当沢山の量が使われています。

 そのセファゾリンが手に入らなくなるとしたら、一体どうなるのか?と言うことを今回は書いておきます。

 点滴の抗菌薬が必要だと判断し、セファゾリンが良いだろうと考えても、セファゾリンが使えなかったら、別の薬になりますよね。当然ですが、別の薬も突然沢山の注文が入れば、製造が追いつきません。多くの抗菌薬がなかなか手に入らなくなっているのだそうです。点滴がダメなら飲み薬でもないよりは、、、、、、と言うことになり、飲み薬の抗菌薬も使えなくなるかも知れません。

 よって、セファゾリンの供給が再開するまでの最低ここ数ヶ月は抗菌薬の使用が制限される事になります。普段抗菌薬の適正化に興味がない医師であっても、興味を持って、必要ない人への抗菌薬投与は控えざるを得ない状態になったのです。

 つまりこういう事です。

 「風邪をひいてしまいました。いつもの抗生物質をお願いします」と言っても、出してもらえなくなります。

 「いつも出してくれたじゃないですか!」と言っても、「もともと無意味だったし、今抗菌薬が手に入りにくい状態なんだよね、、、、、、」と言われるかも知れません。

 医師は患者さんの言うことを鵜呑みにしているわけではありません。常に耐性菌のこととか、こう言った有限な資源の有効活用について考えているのです。

 セファゾリンの供給が停止したことは、多くの患者さんに不利益が及ぶ可能性もありますが、もっと多くの患者さんに不利益を及ぼす可能性がある抗菌薬の不適切使用について、多くの人が考えるきっかけになって良かったのかも知れません、、、、、、、と誰かが言っていました。

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急に血圧が上がると脳梗塞を起こしやすいのか? [医学関連]

 このブログでもよく取り上げていますが、患者さんの血圧が高くなると心配になる人が多いです。例えば、昼は血圧が130ぐらいだったのが、夜に測ったら200あったとします。心配だから診て欲しいと看護師さんから連絡があったり、患者さんが受診したいと電話してきたりします。

 しかし、血圧が高いだけであれば、少なくともその日の夜は問題ありません。血圧が長期間(何週間も)のは問題となる恐れがありますが、今だけ高いのは問題ありません。

 例えば、脳卒中を起こすのではないか?と言う不安が出てきますが、例えばこちらのリンクをお読みください。こちらには、血圧が上がったために脳梗塞を起こすと言う証拠はないと書かれています。
 もちろんですが、起こさないと言うエビデンスもないのですが。現在のところ血圧が高いだけで大きな問題になる事はありませんので、血圧を下げる事もしません。

 そもその夜中に血圧を測る事さえしなければ、、、、、、、、と当直の時には思います。が、御心配であればいつでも御相談ください。

 また、息が苦しくて血圧が高いとか、頭が痛くて血圧が高いとか、そういう場合には緊急受診が必要ですので、その場合にも遠慮なく病院を受診してくださいね。

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さっさとゾフルーザ出せや!と言われた時に医者が考えていること [医学関連]

 そろそろインフルエンザもピークを過ぎたと言われているようですが、まだまだインフルエンザにかかる方はおられます。そしてソフルーザという新薬の記事は世の中にあふれています。きっと患者さんはインフルエンザと診断されたら、このゾフルーザという薬を出してもらえると信じて病院を受診するのだと思います。しかし、処方しない医師もいますし、そもそもゾフルーザを採用していない(病院に置いてない)病院もあります。何故こんなことが起こるのか、医師側の本音を書いてみます。患者さんの気持ちに寄り添うのはもちろん大切ですが、医師は何を考えて日々働いているのかを是非知ってください。

 たまには、患者さん側から医師の気持ちに少しでも寄り添って頂ければ嬉しいです。

 インフルエンザの患者さんに治療が必要かどうか?と言う事も今まで何度か書いてきましたが、ここではそれについては述べません。なぜなら長くなるからです。

 と言う事で、熱が出て喉が痛くて病院を受診したところ、、、、、、

 イケメン医師 「インフルエンザの可能性が高いですね。」
 患者 「今話題のゾフルーザという薬を出してもらえるのですね!」
 イケメン医師 「いえ、タミフルが良いと思いますので、タミフルをお出しします。5日間朝晩1錠ずつ飲んでくださいね。そして、熱が下がってから二日以上は出来るだけ外出は控えてください。もちろん会社に行ってはいけません。」
 豹変した患者 「何だって!何でゾフルーザ出さへんのや!!」

 患者さんは申し訳ないですが、たぶん自分のことしか考えていません。もちろん、それで良いです。ゾフルーザの方が早く熱が下がると聞いているし、1回飲んだだけで良いと聞いている。良いことばかりじゃないか!早く熱が下がれば楽になるし、仕事にも早く行けるじゃないか!!

 しかし、医師はそれも大切だとは認識しつつも、別のことも考えています。

まず医師法から。


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救急車と消防車を同時に見かけたら [医学関連]

 皆さんは救急車と消防車が同じ方向へ向かってサイレンを鳴らして走って行くのを見たことがありますか?火事の現場でけが人が出ているんだなと思うかも知れません。確かにそのような場合もあります。

 しかし、PA連携というものの場合があります。PA連携とはこちらのページを参考にして戴くと良いですが、消防車と救急車が連携して救助にあたることです。つまり重症な患者さんの現場に向かうんだなと思ってください。

 救急隊の方は原則3人で活動します。医療ドラマを見ていただけば分かりますが、救急の現場には多くのスタッフ(ドラマでは美男美女、実際は、、、、、、、、)がいます。それだけの人が必要なのです。しかし、救急隊は3人で少なすぎますので、応援を呼ぼうという事です。消防隊の方も基本的な救助の方法は学んでいますので、協力して少しでも早く患者さんを病院へ運ぼうという努力の賜です。

 リンク先にも書いてありますが、消防隊が先に現場に着くこともあります。消防署によっては1時間に1件以上の救急要請がある場合もあります。救急要請が1件あれば、救急隊の方たちは平均して1時間消防署を離れます。1時間に1件以上の要請があれば、つまり消防署に戻れないという事で、食事はもちろんトイレも行けません。どうしても必要な場合には、外で済ます必要があります。よってコンビニによったり、病院に搬送した後に病院で済ませたりしています。

 多くの人の努力によって、我々の生活は成り立っているんだと理解していただくとともに、消防隊、救急隊の方を見かけたらねぎらいの言葉をかけてあげてください。もし、コンビニなどで見かけてもコンビニで休んでいるんじゃない!などと怒らないようにしてくださいね。また、病院の待合室などに座っていることもありますが、休んでいるのではなく、色々な事務手続きをしているので、こちらも怒らないでくださいね。

ちなみに、無理矢理アンガーマネージメントに繋げてみます。


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破傷風についてのご質問への答え [医学関連]

 このブログで破傷風について時々書いているせいか、ご質問を色々戴きます。今回はこちらの記事に戴いたご質問のお返事という事で記事を書かせていただきます。どきんちゃんさんからのご質問です。破傷風について興味を持って戴き大変感謝申し上げます。

1. 目が覚めて(意識が戻るに従って)筋の緊張が解けているなら、破傷風ではないと考えていいでしょうか?精神的なものと考えていて大丈夫ですか?

 破傷風はすごい病気で、痙攣止めを使っても痙攣が止まらなかったり、骨が折れるぐらい痙攣したりする人もいるようです。よって、現在このようにネットに書き込めるのであれば、破傷風ではないと考えて良いと思います。
 精神的な物かどうかは、私には専門外なので分かりません。すみません。

2. 白血球数が低い場合、発症はしていないと言えても、感染もしていないとまで言えるのでしょうか?

 白血球は検査の正確さとしては高いとは言えないので、白血球数で破傷風の感染の有無を判断することは出来ません。破傷風は診断がとても難しいです。ましてや感染していないという事は難しいです。破傷風菌は炎症を起こしませんから、感染していても分からないと思います。
 しかし、どきんちゃんさんが現在お元気であるので、感染はしていないと言えます。何故そう言えるかと言うと、時間が経っているからです。医師の診察を受けた時には、誰も破傷風になっていないと言えないのですが、可能性は非常に低いので、どきんちゃんさんを安心させようと、そのような説明をされたのではないかと想像します。

3,5日も経ってから受けたワクチンは、今回の件に対する予防にもなるのでしょうか?(先生のブログを読ませて頂いて、5日後なら遅すぎると言うことではないかな?と不安になっているのですが・・・)

 5日後でも受けることは良いことだと思います。今回の予防になるかどうかと言うと、ならないかも知れませんが。すでに発症していないと考えられますから、今後の予防にはなりますので。

4,「ブースター効果は20年以上経っていても期待できる。ブースター効果は、1週間以内で抗体価が十分に上がるもの。」という旨の情報をインターネットで見たのですが、本当ですか?本当なら、私の場合もワクチンから1週間後まで大丈夫だったら、その後も安心してしまっていいのでしょうか?

 ブースター効果は30年という意見もあります。よって本当だと思います。
 ブースター効果の定義を調べたのですが、よく分かりませんでした。基礎免疫がある人に対しては、ブースター効果を期待してトキソイドを打つことになっていますから、1週間以内どころか数日で抗体価が充分上昇するのだと理解しています。これについては証拠は今のところありません。
 医師向けのテキストで「外傷式診療ガイドライン第5版」P.283(へるす出版)に、ブースター効果により血清抗体価が上昇するには、4日以上かかるという記載がありました。

5,傷が、そのときの土いじりでついたものでなくても、ぱっくり割れた指先の傷が出血までしていなくても、少しプランターの古い土がついたくらいでも、破傷風は考えられるのですか?考えすぎですか?

 破傷風はどんな傷でも発生します。1割程度の人は怪我をした覚えがないと言うデータもあります。よって、破傷風の予防注射は全ての人がしておくべきであり、10年ごとにワクチンを打ちましょう!と言うキャンペーンをアイドルの方などにしていただきたいぐらいです。
 しかし、破傷風は年間100人ちょっとの発生数です。こちらのページによれば、12月9日までに122人が発症しているとのことです(2018年12月20日閲覧)。頻度が非常に低いので、それほど怖がらなくて大丈夫です。しかし、我々医療従事者は頻度が低くても注意しなければなりませんから、我々は予防注射した方が良いですよとお話しします。なぜなら破傷風はすごい重症な病気だからです。
 宝くじで1億円当たったらどうしよう?福山雅治さんと街でばったり出会ったらどうしよう?と言う事と同じ感じです。まず当たりませんが、でも当たった時のことは考えますよね。

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クリスマスには英語で医学の勉強はいかが? [医学関連]

 英語の勉強をしようと思うと、どうしても続きませんよね。何ででしょうね。

 面白い物を読めばきっと続くだろうと思います。医療関係の方なら、面白い医学文献があれば読むのではないでしょうか?

 それならクリスマス特集だね!ということで、BMJのクリスマス特集をご覧になってください。

 イギリス医学会雑誌という雑誌があります。英語ではBritish Medical JournalなのでBMJと略されています。この雑誌は世界五大医学ジャーナルの一つと言われていて権威が高いのですが、何故か毎年12月13日になるとクリスマス特集として、様々な論文を載せます。どう言う文献かと言うと、イグノーベル賞を狙っているかのような内容です。

 過去には、ナースステーションにおけるチョコレートの生存期間を調べた研究とか、ジェームズボンドは飲み過ぎだとか、男女の営みをMRIで撮像したとか、とにかく、興味深い論文が発表されています。

 今年もやはり13日に発表されています。是非ご覧ください。

 ゴルフをする医師の割合は外科系に多く、整形外科医が一番高かった。
 生物医学分野の文献に絵文字を使うべきか?
 クリスマスには心筋梗塞になりやすい?

 などなど他にもあります。是非是非、クリスマスにはシャンパンでも飲みながら、医学の勉強をしてみてはいかがでしょうか?


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ジェネリックとは? [医学関連]

 ジェネリックという言葉があります。だいたい広まってきていると感じていますが、簡単に書いてみます。

 薬は先発品と後発品(ジェネリック)の二つに分けられます。以下のような感じです。

 DDと言う病気の治療薬として、秋元製薬がAKB48錠を開発したとします。これは様々な成分が含まれていますが、主な成分としてマユユキリンナトリウムという物質が入っています。この薬を開発するのには相当なお金がかかるためかと思いますが、しばらくはマユユキリンナトリウムという成分の薬は秋元製薬以外に発売が出来ません。

 しかし、一定の期間がたつと、その独占権はなくなり、申請してきちんとした製品だと認められれば、どの会社でも発売することが出来るようになります。これが後発品、ジェネリックです。これに対してAKB48錠は先発品と呼ばれます。独占権がなくなった途端、色々な会社からゾロゾロと発売されるようになるので、以前はゾロと言われていました。今もそう呼ぶ先生がいます。

 例えば、吉本製薬からNMB48錠とか、SME製薬からNogizaka46錠などが発売されます。これらの会社は開発費がかからないので、先発品よりも安い値段で発売出来ます。薬の効果は先発品とほ同じとされています。

 本当に効果が同じなのか?と言う疑問、そして印象を医師は持っているのですが、どうも違うようです

どうしてジェネリックを使うの?


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治療の有用性の評価の一つ、NNTのお話。 [医学関連]

 ワクチンとか色々な治療の話をする場合、NNT、ワクチンであればNNVと言う言葉を聞くことがあると思います。今日はその言葉の説明です。病院でも、「この治療のNNTはいくらなのですか?」と医師に聞いても大丈夫です。ただ、NNTがない治療もありますので、分からないと言われても、その医師がダメな医師と言う事ではありませんので、注意してください。

 NNTは「number needed to treat」と言う英語の略です。直訳すれば「治療するために必要な数」です。NNVは「treat」ではなく、「vaccinate」です。ワクチンを打つと言う意味ですね。一人の人を治療するためには、何人にその介入を行えばいいかと言う指標です。この指数が低ければ低いほど有用な治療です。また、NNTが100以下であれば医学的には意味があるとされています。

 例えば、DDと言う病気があり、発症すると約10%の人が重症になり、社会生活に困難をきたすとします。ここで、DDになった人に対して、ある治療をすると、重症になる割合が5%に減ったとします。確率が半分になった訳です。確率が半分になったと言っても、50%が25%、2%が1%ではだいぶ違いますよね。よって、この治療がどのぐらいの効果を出しているのかを考える指標の一つとしてNNTがあります。これは絶対リスク減少の逆数と定義されています。

 DD重症化の場合、10%が5%に減っていますので、絶対リスク減少は5%(あるいは0.05)です。これの逆数をとりますので、1÷0.05あるいは100÷5=20です。DD患者さん20人に対してこの治療を行うと、そのうち1人がその治療の恩恵を受け、DDの重症化が防げると言うことです。90%の人はどっちにしても重症型DDになる事はありませんし、5%の人はどちらにしてもDDの重症化は避けられません。よって、95%の人にはこの介入は意味がないのです。

 しかし、今目の前にいるDDの患者さんが重症化するかどうか誰にも分かりませんし、社会生活が送れなくなる人が10%も出る可能性があるのは医学的には重大な問題です。よって、一般的にはすべてのDD患者さんに治療を行います。結果として、95%の人が重症型DDにならず社会復帰が出来ると言う事です。しかし、本当に治療の効果があった人は、重症化しなかった人のうち、5÷95=5.2%だけです。そして、誰がこの5.2%の人かは分かりません。

 ええっ!!20人に使って1人しか意味がないの??19人は無駄に治療を受けるって事!!と思いますよね。そうなんです。しかし、意外に思うかもしれませんが、NNTが20は、かなり有用な治療です。結構な治療がNNT100近いですよ。それじゃあ、それらの治療は受けたくないと考えるのは問題ありません。しかし、あくまで医学の世界では、NNTが100未満は意味がある治療と考えています。つまり、絶対リスク減少が1%以上なら意味があるのです。

 病気の頻度が31.1%だったのが30%になった。
→ほとんど変わってねえじゃん!あなたは正しいです。しかし、医学的には意味があります。

 病気の頻度が2%だったものが0.9%になった。
→もともとそんな頻度が少ないんだったら治療いらなくね?あなたは正しいです。しかし、致死的な病気であれば、やはり意味があります。

 最後にワクチンの効果を紹介しておきます。こちらの研究によれば、インフルエンザワクチンを打たないと2.3%の人がインフルエンザになるのに対して、インフルエンザワクチンを打つと0.9%に減少するそうです。絶対リスク減少は1.4%なので、NNVは100÷1.4=71.4となります。100以下ですから意味があると考えられます。
 しかし、71人にワクチンを打つと、そのうちの1人はワクチンの恩恵を受けますが、70人の人はワクチンの恩恵を受けないのです。そんなに利益がある人が少ないの?ワクチンを打たなくてもたったの2.3%しかインフルエンザにならないの??だからワクチンを打ちたくないと言う考えは正しいです。
 しかし、繰り返しますが、NNV(ここではワクチンの話をしていますからNNTではありません)が100未満は意味があります。

 また、ワクチンは個人の事だけを考えているわけではないので、NNVだけで判断してはいけません。集団としてワクチン接種をしていなければ、ワクチンを打ちたくても打てない人への感染を減らす事が出来ないからです。ワクチンは自分のためだけに打つ物ではないのです。「他の人の事なんて知らない!」「俺はワクチンなんて打たないぜ!」と言う方は仕方がないです。ただし、もし他の人からワクチンで予防できる病気をもらっても文句は言わないでくださいね。

 今日本では風疹が大流行しています。妊婦さんが風疹にかかると、先天性風疹症候群と言う病気になる可能性があります。産まれてくる赤ちゃんには何の責任もありません。耳が聞こえなかったり、長生きできなかったりするようです。「俺は風疹のワクチンなんて打たないぜ!」と言う人が風疹にかかってしまい、たまたま近くを通った妊婦さんに感染させてしまう、、、、、、、、どうお考えになりますか?

 こちらも繰り返しますが、ワクチンは自分のためだけではないのです。

NNTがないとは?


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インフルエンザワクチンは有効です。 [医学関連]

 インフルエンザワクチンの季節がやってきました。そしてワクチン反対派の方の活躍の時期でもあります。この先生が言われていることが分かりやすいと思いましたのでリンクをはっておきます。

 さて、ワクチン反対派の方にお願いします。御自分が打たないのは自由ですし、ワクチンを打たない権利もあると思いますから、どうぞ打たずにお過ごしください。そしてインフルエンザの流行時にはマスク、手洗いをきちんとしていただき、体調が悪くなったら人と接触しないようにしてください。きちんと義務を果たした上での権利だと思います。

 そして、ワクチンを打たないと言う考えを他の人に勧めないでください。あなたは医療の専門家ではありません。ワクチンを打たない方が良いと人に言う行為は、保健指導と言う行為にたぶんなります。保健指導は、医師か保健師以外には認められていない行為です。業として行わなければ問題はありませんが、SNSに書いたり、多くの人に伝えることが業に当たらないかと言えば難しいのではないでしょうか。一般的に考えても、もしワクチンを打たないことで、あなたの意見を信じた人が何か健康上の不利益を被った場合、あなたは責任をとれるのでしょうか?

 ちなみに、私はすでに月曜日にインフルエンザワクチンを打ってもらいました。

 一つだけ書いておきますが、インフルエンザワクチンを打つと病院がもうかる(のだとして)と言うのは、それがワクチンを勧める理由ではありません。

 もうかるかどうかは私は経営者ではないので分かりません。それから、ボランティアではないので、利益はきっとあるのだと思います。そして、儲けていけない理由はないと思います。正当な行為をして利益を得るのは問題ありません。

 インフルエンザワクチンを打つのは大変です。例えば職員に接種する場合は、、、、、、、、体温を測り、問診表に記入してもらい、問診表を見ながら確認し、カルテにオーダーを入力して、注射を用意して、実際に注射して、、、、、、、カルテに入力することは決まっていますので、事務の人が代行で入力し、医師は話を聞いて、隣の部屋で看護師さんや研修医の先生がうって、、、、、、、ワクチンを打つ診察室の前には行列が出来ます。感染対策委員長の先生は、ワクチン担当の医師を探すのが大変そうです。

 患者さんの場合でも、通常の診察の合間、あるいは別ブースを設けて行うのは大変です。決して楽をして儲けられる仕事ではありません。人件費を考えたら赤字なのではないかと感じるぐらいです。

 出来ればワクチンはしなくて良いようにしたいです。しかし、必要だからやっているのです。


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