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さっさとゾフルーザ出せや!と言われた時に医者が考えていること [医学関連]

 そろそろインフルエンザもピークを過ぎたと言われているようですが、まだまだインフルエンザにかかる方はおられます。そしてソフルーザという新薬の記事は世の中にあふれています。きっと患者さんはインフルエンザと診断されたら、このゾフルーザという薬を出してもらえると信じて病院を受診するのだと思います。しかし、処方しない医師もいますし、そもそもゾフルーザを採用していない(病院に置いてない)病院もあります。何故こんなことが起こるのか、医師側の本音を書いてみます。患者さんの気持ちに寄り添うのはもちろん大切ですが、医師は何を考えて日々働いているのかを是非知ってください。

 たまには、患者さん側から医師の気持ちに少しでも寄り添って頂ければ嬉しいです。

 インフルエンザの患者さんに治療が必要かどうか?と言う事も今まで何度か書いてきましたが、ここではそれについては述べません。なぜなら長くなるからです。

 と言う事で、熱が出て喉が痛くて病院を受診したところ、、、、、、

 イケメン医師 「インフルエンザの可能性が高いですね。」
 患者 「今話題のゾフルーザという薬を出してもらえるのですね!」
 イケメン医師 「いえ、タミフルが良いと思いますので、タミフルをお出しします。5日間朝晩1錠ずつ飲んでくださいね。そして、熱が下がってから二日以上は出来るだけ外出は控えてください。もちろん会社に行ってはいけません。」
 豹変した患者 「何だって!何でゾフルーザ出さへんのや!!」

 患者さんは申し訳ないですが、たぶん自分のことしか考えていません。もちろん、それで良いです。ゾフルーザの方が早く熱が下がると聞いているし、1回飲んだだけで良いと聞いている。良いことばかりじゃないか!早く熱が下がれば楽になるし、仕事にも早く行けるじゃないか!!

 しかし、医師はそれも大切だとは認識しつつも、別のことも考えています。

 医師法という法律があります。その第一条は以下の通りです。

 「医師は、医療及び保健指導を掌ることによつて公衆衛生の向上及び増進に寄与し、もつて国民の健康な生活を確保するものとする。」

 良く条文をかみしめてください。医師は国民の健康を守るためにいるのです。あなたの都合であなたの病気を治すのではありません。国民はあなただけでなく、高齢の方も生まれたばかりの赤ちゃんも、元気な人も寝たきりの人も全て含みます。その全ての人を守るのが医師です。これをまず認識してください。

 最初にお金の話をします。医療費は毎年増え続けていて、そのお金はどこから来るかと言えば、税金と皆さんが払った保険料から来ています。もちろん有限です。日本は先進諸国中、医療費の対GDP比が最も低いとされていて、まだまだ医療費が増えても良いんだと言う人もいますが、増えればどうなるかと言えば、皆さんの負担が増えるという事です。
 そんな中、無駄な医療費が使われていたら皆さん怒りますよね。だから多くのサービスとは違って、医療は基本自分でサービスを選ぶことが出来ません。医師が必要だと判断したのであれば、まあ仕方ないよね。皆で出したお金から7割ぐらい出してあげようよ!となっているわけです。インフルエンザだからゾフルーザを出せと言うのは、本当は通らないのです。
 ちなみにゾフルーザは他の薬に比べて高いので、全てのインフルエンザの患者さんにゾフルーザを出せば、医療費は増えてしまいます(もちろんインフルエンザの医療だけで医療費が増えるわけではありませんが)。よって、安い薬にしたり、元気な人には薬はいらないという判断をしたりしているわけです。

→医師は目の前の患者さんを診ている時に、医療費の破綻の心配もしているのです。

 感染症の薬(この場合には抗ウイルス薬)は女性へのプレゼントと似ていると私はいつも言っています。女性にいつも同じものをプレゼントしても効果はありません。そして、全ての女性に有効なプレゼントもありません。相手によって薬を使い分ける必要があります。
 インフルエンザの薬はいくつかあって、ゾフルーザばかり使っていると、ゾフルーザが効かない場合が出てきます。これは感染症の薬の宿命です。多くの健康な人は、たぶんあまり問題にはならないでしょうが、お子さんとか持病があるとか、高齢の方は、色々な薬を使っても効果がない場合に、決め手となるお薬が必要です。しかし、その時に決め手となる薬が効かなかったら、、、、、、、、と言う事も考えています。例えば、ラピアクタという点滴のインフルエンザの薬は、飲んだり吸入できない患者さんにはラピアクタしかありませんので、飲んだり吸入が出来ない患者さん、つまり重症な人に取っておきたいと考える医師もいます(もちろん、気軽に点滴している先生もいて、それを非難するつもりはありませんが)。
 抗菌薬では特に、定期的に出す薬を変えている医師もいます。その方が薬が効きにくい菌が出にくいと言われています。今日はAと言う薬、来月はBとか。昨日来れば希望の薬がもらえたのに〜と言う事もあります。

→医師は目の前の患者さんを診ている時に、他の患者さんの事も考えているのです。

 一回飲めば良いという事は利点であると同時に欠点でもあります。1日2回飲む薬は、半日ぐらいで有効な血中濃度でなくなるから、朝晩と飲むわけです。つまり薬が早く消えてなくなると言う事です。副作用が出た場合、多くは血中濃度が下がれば副作用も消えますから、その点は安心です。しかし、1回飲んだだけで良い薬はなかなか血中濃度が下がらないという事ですから、もし副作用が出た場合、副作用が長く続く可能性があります。

→医師は目の前の患者さんを診ている時に、副作用が出た時の事も考えているのです。

 インフルエンザの薬は熱が続く期間を約1日短くする効果があります。この約1日短くすると言う事は事実ですが、これが「1日も」なのか、「たった1日」なのかは判断になります。インフルエンザの薬を飲んだから死亡する人が減るとか、他の人に感染させないとか、そう言うデータはないようです。患者さんは「1日も」と考えるでしょうが、医師は「たった1日」と考えているかも知れません。医師は死亡したり入院したりする人のことも考えています。薬には副作用もありますから、副作用が出ることも考えると、たった1日短くなることが有用だとは思えないという場合もあります。医師は不利益を考えることが多いですので、「たった1日」と考える人の方が多いのではないでしょうか。そして、薬の効果は100%出るわけではありません。薬を飲んだら熱が翌日に下がった!と言う人は、もしかしたら、薬を飲んでいなくても下がったかも知れないのです。副作用が出た人はもしかしたら、薬を飲まなかったら同じ期間で熱が下がって副作用がなかったかも知れないのです。
 静岡県内で高速道路の最高速度が120km/hになるとのことですが、たった20km/hしか早くならないのか、20km/hも早くなるのか、、、、、、人によって様々ですよね。そして、その為に事故が増える可能性も否定は出来ません。そうなると、100km/hで良いんじゃないの?と言う人だっています。

→医師は目の前の患者さんを診ている時に、患者さんとは違う解釈をしているかも知れません。

 そんな!こんなつらいのだから、自分だけには出してよ!と言うあなた。そう言う人はあなた一人ではないのです。多くの患者さんが来院されて診察をしながら、多くの患者さんに同じようにゾフルーザは出せませんと説明する医師も困っているんです。予約なしで診察してもらえる国はすごく少ないんですよ。

 まあ、どうしてもと言うのであれば、自費であれば、医療費の心配はなくなりますから、まあいいですよ。その代わり、全部で1万円は超えると思いますよ。3割負担すれば良いだけの日本の医療制度が、世界の中でどれほど素晴らしい制度か実感できると思います。

 と言う事で、インフルエンザになった場合、どうしても薬が欲しいと言うのであれば、お医者さんとよく相談してくださいね。ネットに書いてあることが全てではない(ネットの情報の中には嘘もたくさんありますからって、このブログも似たようなものか〜)ので、目の前のお医者さんを信頼してお話ししてくださいね。必ず真摯に対応してくれるはずです。


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