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低体温の心肺停止患者さんに処置を控えるべきか? [CPRの基礎]

 低体温の患者さんは代謝が低下しているために薬はやってはいけないとか、電気ショックも効果がないからダメとか、色々なことが言われています。講習会で低体温の患者さんのシナリオを出すと、そういった質問が出て、色々困るので(講習会で一番伝えなければならないこと以外の事に注目されるのはよくないです)避けるべきかと思います。

 しかし、質問されたら応えなければなりません。「この心停止の患者さんが低体温だったらどうしたらいいんですか?」と。

 私の答えは以下の通りです。

 低体温は気にせず普通に治療しましょう。
 もちろん、低体温があれば体温を上げる治療を並行して行う必要があります。
 体温をどうやって上げるかは別の機会に勉強してください。

 理由を書きます。

 まず、色々説明すると、ややこしくなります。特に受講生の方がお医者さんだと、興味のあるところなので、注目が心肺蘇生ではなく、低体温になってしまいます。よって「低体温でも蘇生のやり方は同じです。体温が上がるまで蘇生を続けてください」と伝えましょう。そして、抗不整脈薬を投与する事を考慮する前に心拍再開するか、ショックが不要の心停止(心静止か無脈静電気活動)にしましょう。そうしないと、抗不整脈薬は低体温に使っていいの?とか、また深みにはまってしまいます。

 今は講習会ではないので、解説します。

 まず日本のガイドラインには、何と低体温の心肺停止の記載がありません(治療的低体温と溺水の記載はあります)。

 しかし、救急蘇生法の指針ー医療従事者用2020のP.87には以下の記載があります。
 「中心部体温30度以下では電気ショックに反応しないことが多いので、初回の電気ショックに反応しない場合は、質の高いCPRを行いながら復温を図る。」
 「アドレナリンなどの血管収縮薬は、30度を超えるまで復温してから投与することが望ましい。中心部体温が30度を越えていても代謝速度が低下していると考えられるので、復温できるまでは薬物の投与間隔を2倍程度に延ばす必要がある。」


改訂6版 救急蘇生法の指針2020 医療従事者用

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 ヨーロッパ蘇生協議会のガイドラインには以下のようにあります。
 体温が30度以下
  電気ショックは3回までで、その次のショックは体温が30度を超えてから。
  アドレナリンは投与しない。
 体温が30度以上
  電気ショックは通常と同じ。
  アドレナリンは投与間隔を6-10分に延長。
 ヨーロッパだけ他の記載と異なることを書いていますね。

 AHAのガイドラインには以下のようにあります。
 It may be reasonable to perform defibrillation attempts according to the standard BLS algorithm concurrent with rewarming strategies.
 復温治療を行いながら通常のBLSアルゴリズムに従い電気ショックを行うことは合理的である。

 It may be reasonable to consider administration of epinephrine during cardiac arrest according to the standard ACLS algorithm concurrent with rewarming strategies.
 復温治療と並行して通常のACLSアルゴリズムに従って心肺停止中にアドレナリンを投与することは合理的である。

 最後にUpToDate"Accidental hypothermia in adults(成人の偶発的低体温)"です。
 Given the lack of evidence regarding management of ventricular arrhythmias in hypothermic patients, it is reasonable to treat patients in cardiac arrest according to advanced cardiac life support (ACLS) guidelines, including defibrillation and administration of epinephrine 1 mg intravenously (IV).

 低体温患者における心室性不整脈の管理に関するエビデンスが不足しているため、心停止の患者を通常のACLSガイドライン(電気ショックやアドレナリン1mgの投与)に従って治療することは合理的である。

 Evidence to support drug therapy prior to successful rewarming is limited and consists primarily of animal studies. A systematic review of these studies found that vasopressor therapy had a higher association with return of spontaneous circulation than antiarrhythmic medication, such as amiodarone. There was no advantage to using intermediate or high-dose epinephrine (45 mcg/kg or 200 mcg/kg).

 体温を上げる前の薬剤投与を支持するエビデンスは限られており、主に動物実験のデータである。これらの研究の系統的レビューによれば、血管収縮薬の投与は、アミオダロンのような抗不整脈薬と比較して心拍再開率を高めるとされている。アドレナリンの投与量を増やす(45 mcg/kgまたは200 mcg/kg)ことに利益は認められない。

 よって、低体温時でも普通に蘇生をしましょう。講習会のシナリオに低体温を出すのはベテランになってからにしましょう。


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