SSブログ

治療の有用性の評価の一つ、NNTのお話。 [医学関連]

 ワクチンとか色々な治療の話をする場合、NNT、ワクチンであればNNVと言う言葉を聞くことがあると思います。今日はその言葉の説明です。病院でも、「この治療のNNTはいくらなのですか?」と医師に聞いても大丈夫です。ただ、NNTがない治療もありますので、分からないと言われても、その医師がダメな医師と言う事ではありませんので、注意してください。

 NNTは「number needed to treat」と言う英語の略です。直訳すれば「治療するために必要な数」です。NNVは「treat」ではなく、「vaccinate」です。ワクチンを打つと言う意味ですね。一人の人を治療するためには、何人にその介入を行えばいいかと言う指標です。この指数が低ければ低いほど有用な治療です。また、NNTが100以下であれば医学的には意味があるとされています。

 例えば、DDと言う病気があり、発症すると約10%の人が重症になり、社会生活に困難をきたすとします。ここで、DDになった人に対して、ある治療をすると、重症になる割合が5%に減ったとします。確率が半分になった訳です。確率が半分になったと言っても、50%が25%、2%が1%ではだいぶ違いますよね。よって、この治療がどのぐらいの効果を出しているのかを考える指標の一つとしてNNTがあります。これは絶対リスク減少の逆数と定義されています。

 DD重症化の場合、10%が5%に減っていますので、絶対リスク減少は5%(あるいは0.05)です。これの逆数をとりますので、1÷0.05あるいは100÷5=20です。DD患者さん20人に対してこの治療を行うと、そのうち1人がその治療の恩恵を受け、DDの重症化が防げると言うことです。90%の人はどっちにしても重症型DDになる事はありませんし、5%の人はどちらにしてもDDの重症化は避けられません。よって、95%の人にはこの介入は意味がないのです。

 しかし、今目の前にいるDDの患者さんが重症化するかどうか誰にも分かりませんし、社会生活が送れなくなる人が10%も出る可能性があるのは医学的には重大な問題です。よって、一般的にはすべてのDD患者さんに治療を行います。結果として、95%の人が重症型DDにならず社会復帰が出来ると言う事です。しかし、本当に治療の効果があった人は、重症化しなかった人のうち、5÷95=5.2%だけです。そして、誰がこの5.2%の人かは分かりません。

 ええっ!!20人に使って1人しか意味がないの??19人は無駄に治療を受けるって事!!と思いますよね。そうなんです。しかし、意外に思うかもしれませんが、NNTが20は、かなり有用な治療です。結構な治療がNNT100近いですよ。それじゃあ、それらの治療は受けたくないと考えるのは問題ありません。しかし、あくまで医学の世界では、NNTが100未満は意味がある治療と考えています。つまり、絶対リスク減少が1%以上なら意味があるのです。

 病気の頻度が31.1%だったのが30%になった。
→ほとんど変わってねえじゃん!あなたは正しいです。しかし、医学的には意味があります。

 病気の頻度が2%だったものが0.9%になった。
→もともとそんな頻度が少ないんだったら治療いらなくね?あなたは正しいです。しかし、致死的な病気であれば、やはり意味があります。

 最後にワクチンの効果を紹介しておきます。こちらの研究によれば、インフルエンザワクチンを打たないと2.3%の人がインフルエンザになるのに対して、インフルエンザワクチンを打つと0.9%に減少するそうです。絶対リスク減少は1.4%なので、NNVは100÷1.4=71.4となります。100以下ですから意味があると考えられます。
 しかし、71人にワクチンを打つと、そのうちの1人はワクチンの恩恵を受けますが、70人の人はワクチンの恩恵を受けないのです。そんなに利益がある人が少ないの?ワクチンを打たなくてもたったの2.3%しかインフルエンザにならないの??だからワクチンを打ちたくないと言う考えは正しいです。
 しかし、繰り返しますが、NNV(ここではワクチンの話をしていますからNNTではありません)が100未満は意味があります。

 また、ワクチンは個人の事だけを考えているわけではないので、NNVだけで判断してはいけません。集団としてワクチン接種をしていなければ、ワクチンを打ちたくても打てない人への感染を減らす事が出来ないからです。ワクチンは自分のためだけに打つ物ではないのです。「他の人の事なんて知らない!」「俺はワクチンなんて打たないぜ!」と言う方は仕方がないです。ただし、もし他の人からワクチンで予防できる病気をもらっても文句は言わないでくださいね。

 今日本では風疹が大流行しています。妊婦さんが風疹にかかると、先天性風疹症候群と言う病気になる可能性があります。産まれてくる赤ちゃんには何の責任もありません。耳が聞こえなかったり、長生きできなかったりするようです。「俺は風疹のワクチンなんて打たないぜ!」と言う人が風疹にかかってしまい、たまたま近くを通った妊婦さんに感染させてしまう、、、、、、、、どうお考えになりますか?

 こちらも繰り返しますが、ワクチンは自分のためだけではないのです。

 最初にNNTがないものがあると書きました。これは何故かと言うと、NNTを出すための比較研究が出来ないと言うことです。

 例えば、肺炎に抗菌薬をやる場合のNNTは?と言う場合、抗菌薬を投与しない群を作る必要がありますが、倫理的に肺炎に抗菌薬を使わないと言う事は出来ません。よって、肺炎に対して抗菌薬を投与した場合のNNTはたぶんありません。しかし、Aと言う抗菌薬にBと言う抗菌薬を追加して二種類にするとNNTはどうかと言うような研究は可能です。


nice!(4)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 4

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。