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アニオンギャップは血液ガス分析のデータを使うべきか? [研修医教育]

 血液ガス分析を行うと、必ずアニオンギャップ(Anion Gap;以下AG)を計算しなさいと言われます。計算は単純な算数ですが、面倒なのでやっていないこともあるのではないでしょうか。

 AG=Na−(CL+HCO3

 原法はカリウム(K)を含んでいたようで、ヨーロッパではこちらが一般的のようです。

 AG=Na+K−(CL+HCO3

 器械が自動的に算出してくれる場合も多いですが、その際はK(カリウム)が計算に入っているかどうかチェックしておく必要があります。私が知るかぎりカリウムが計算に入っている器械が多いです。
 またアルブミンが低いとAGが低下するため、以下の補正をすべきとされています。

 補正AG=Na−(CL+HCO3)+2.5×(アルブミンの正常値ーアルブミン値)

 アルブミンが2g/dLの場合、アルブミンの正常値を4g/dLとすれば、補正AGはAGより5上昇します。

 さて、AGが自動的に計算された場合には、NaとK、CLは血液ガス分析のデータを用います(当然アルブミン補正もされていません)。血液ガス分析装置のNaは比較的低く、CLは比較的高くなる傾向にあるようで、AGは低くなる傾向にあります(アルブミン補正もしなければなおさらです)。そうするとAGが上昇する代謝性アシドーシスを見逃す可能性があります。

 よって、AGの計算には血液生化学検査のNaとCLを用いるべきだとされています。どちらを使ったら良いのか?と言うのが今日のテーマです(久しぶりに前置きが長かったですね)。

 結論から言うと、どっちでも良いです。私は両方算出しています(血液ガスオタクなので)。激しい代謝性アシドーシスがあればどっちを用いても同じです。軽度のアシドーシスは見逃しても大丈夫ではないかと思いますし、AGの正常値はいくらか?について議論があるようで、12が正常かと言えば、高いと判断するのが最近の傾向のようです(前述のようにAGは血液ガス分析のデータでは低くなる傾向があります)。

 日本内科学会雑誌105巻第7号に載っていた症例報告です。この報告に対してLetter to the editorが載っています。これは論文に対する意見を載せ、著者の返事を載せるものです。意見を述べた先生は電解質は血清を用いるべきだと書かれておりますが、論文の著者は血液ガスデータを用いています。意見と返事をあわせて2ページなので是非読んでください。

 この議論に関して、以下の本の著者は次のように書かれています。誤植と思われる部分がありますが、原文のままです。


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 「本例で用いているHCO3ーはABGからの計算値であり、本来であれば、AGの計算はABGの電解質濃度を用いるべきであると筆者は考える。この議論において、HCO3ー濃度に測定に関する問題が認識されていないことが、日本の電解質・酸塩基平衡の診療の問題点の1つであると筆者は考えている。」

 何を言っているのかというと、以下のようなことです。

・血液ガス分析装置ではじき出されるHCO3−の値は計算値
 血液ガス分析装置に載っているHCO3-の値はpHとPCO2から計算したもので、直接測定はしていません(知っていましたか?)。

・アメリカなどでは血液生化学検査の一つとしてHCO3-(総CO2)を測定するのが一般的
 日本でも測定している病院はあるようですが、それほど多くはないと思います。アメリカでは血液ガス分析をしなくても、NaとCL、HCO3-(総CO2として測定され、ほぼHCO3-と同じ)を測定することが可能で、AGも計算できます。

・日本で電解質を生化学検査のデータを用いると別の検体のデータとなる
 NaとCLを生化学で、HCO3−を血液ガス分析でとなると、違う採血管のデータを用いる事になります。一緒に採血していることが多いでしょうから、別に良いじゃないと言えばそうです。細かいことを言えば条件が違うデータを一緒に計算するのはどうなのかと言うことになります。

 これを読破したと言ったら、医者仲間ですごいヤツと言われる(かなり分厚い本ですので、馬力があるとか頭が良いとかそう言う意味です)ハリソン内科学には、血液ガス分析の解析法として、動脈血液ガス分析と静脈血の電解質を同時に測定し、血液ガスのHCO3ーと静脈血の総CO2濃度を比較することが第一段階だと書かれているそうです。

 また、動脈血を取らなくても静脈血液ガスで大丈夫と書かれた文献は、pHやPCO2が静脈でも良いと言っているのであって、HCO3ーはもともと静脈血で電解質として測っているので、HCO3ーも静脈血で良いと記載する必要がないと言うことのようです。

 まあ、AGが上昇していなくても乳酸が高い(乳酸値とAGの相関はあまりないようで、乳酸が高くてもAGが上がらない患者さんはたくさんいるようです)のが分かって、ちゃんと治療したから良いじゃないというのが著者の方の本音ではないかと思いました。

 アルブミン補正の値が指摘した先生と論文の著者の先生では違っています。指摘した先生はアルブミンの正常値を4.4としたと思われます(補正式が書かれていませんが、AGに3を足していますので、(Alb-3.2)×2.5=3を解いてAlb=4.4となります。論文の著者の先生は4としたときちんと記載しています。私だったらアルブミン補正まで一緒にしますが、、、、、、、知らんけど。

 乳酸が高くなってもAGが上がらない場合もあるし、治療もちゃんとやってるし、そもそもそんな重箱の隅をつつく必要あるんかいな!アルブミン補正したって3ぐらいの差で意味あるんかいな!アルブミン補正の値(4.4−3.2)×2.5ぐらい書けよな!
 アルブミンの正常値くらい違う値にしたろ!と考えたのではないかと、誰かが言っていました、、、、、、たぶん。

 繰り返しになりますが、自動的に計算されるAGはカリウムが入っていることが多い(ヨーロッパはカリウムを計算に入れることが多く、検査の器械はヨーロッパ製が多い気がします)のですが、この症例では入っておらず、へえ〜と思いました。

 血液ガス分析のシリーズが数年前に内科学会雑誌であった(苦手を得意に!血液ガスOne Step more)のですが、このLetter to the editorがきっかけだったのでしょうか。

 血液ガスは難しいですが、面白いですね!と思っていただければ幸いです。

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