SSブログ

脈拍を触れることにこだわってはいけません [CPRの基礎]

 脈をとる行為は、医療ドラマなどでもよく出てきますので、患者さんの状態を把握するのに非常に有用なものです。しかし、皆さんも自分でやってみると良いですが、意外に難しいです。まず触れる場所が分かりませんから、触れる場所が間違っているので脈が触れないのか、触れる場所は正しいのに触れていないのかが分かりませんよね。我々医療従事者は、触れる場所を皆さんよりもよく知っていますが、それでもよく分からないことがあります。

 「脈拍が触れれば心臓が動いている」という検査を行うとして、もし脈が触れれば心臓が動いていると思います?実はそうでもないのです。昔書いたこちらの記事によれば、脈が触れた場合、93%の確率で心臓が動いているとのことです。逆に言えば、7%程度は心肺停止でも脈が触れる可能性があるということです。これは自分の指の拍動を患者さんの血管の拍動だと間違えてしまうのではないかと考えられます。また、脈がもし触れなかった場合には、43%の確率で心停止だと診断できます。詳細は最後に記載します。

 心肺停止の患者さんをそのまま放置すると、分単位、あるいは秒単位で悪くなってしまいます。そして、その悪さは死亡を招きますから、激しく重要度が高いです。よって、脈が触れなかったら胸骨圧迫を開始して頂くのは当然として、脈が触れたとしても7%の頻度で心肺停止なのですから、胸骨圧迫をやはり開始して頂きたいです。

 よって、脈拍を触れるという検査は、検査後の行動を変えるデータになりませんから、心肺停止の診断にはあまり役立たないと言えます。様々な蘇生のガイドラインでも、脈拍の触知にこだわってはいけないとあります。ヨーロッパ蘇生協議会のガイドラインには、エキスパート、つまり救急オタクのみが脈を触れるように推奨しています。

 また心臓が動いている人に心肺蘇生をしても大きな不利益はないとされていますので、心肺停止ではないか?脈が触れないのではないか?と思ったら心肺停止だと考えて対応してください。

 二次救命処置の講習会では、車が買えるぐらいの値段の人形を使って実習をします。設定すれば、頚動脈の拍動を実際に触れることが可能です。もっと高い人形を使えば、大腿動脈や橈骨動脈を触れることも出来ます。

 この場合も同様で、拍動にこだわる必要はありません。拍動が触れなければ、インストラクターが「足が動いてますよ」とか「咳してますよ」等と言うはずです。要するに、ROSCした(昨日の記事により、心拍再開とは言いません!)事が確認できれば良いので、人形の脈を触れて拍動を確認する必要はありません。人形の脈をさわりに行くという行動はしていただきたいですが。

 意外に知られていないのですが、あの人形は普段は動脈の拍動がなく、動脈の上を触られたら、それを感知して拍動を出すようになっています。全てのメーカーがそうかどうかは分かりませんが、あるメーカーの人形では、パソコンの画面上に、受講生の方が脈を触れたかどうかが表示されます。よって、ちゃんとした位置に指を置かなければ脈は触れないんです。実際の患者さんでは触る位置が多少ずれても脈は触れます。人形の脈の拍動を感じられなくても、落ち込む必要は全くありません。たまに人形が壊れていて、拍動が出ない時もありますし(^^)。

 実際の現場でも、講習会でも、脈拍の触知は難しいのだと思っておきましょう。

 最後に検査の事について書いておきます。詳しくは感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率などでググって頂ければ幸いです。

 今回紹介したデータの場合、感度は約90%、特異度は約50%、陽性的中率は約45%、陰性的中率は約93%となります。もし、あなたの前にいる患者さんが、データを取った患者さんと同じ状況であったとすれば(そんなことはあまりないのですが)、頚動脈を触れて脈が触れなかった場合、心肺停止である可能性が45%、脈が触れた場合、心肺停止でない可能性が93%と言う事です。
 しかし、目の前で人が倒れていて、脈拍を触れようというような場合、心肺停止の可能性は結構高く、もし脈が触れたとしても、心肺停止でない可能性は高くなりません。事前確率が高い場合に、そうでないという結果が出ても、そうでないとは言いにくいです。


nice!(5)  コメント(0) 
共通テーマ:学問

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。