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心肺蘇生のガイドラインからアドレナリンが消える? [CPRの基礎]

 最近心肺蘇生に関して大きな話題となっている論文があります。アドレナリンを院外心肺停止に使うと神経学的予後が不良(寝たきりとか何か障害の残る可能性が高くなる)となるという論文です。原文はこちらをご覧いただくとして、この論文を取り上げて、心肺蘇生にはアドレナリンを使うべきではないのではないか?と言う意見が散見されます。

 先に結論を言いましょう。新しいガイドラインが出るか、それまでに新しい声明が出るまでは、今まで通りアドレナリンを使いましょう。

 理由を述べます。例えば、ACLSプロバイダーマニュアル(英語版しか今手元にないのですみません)P.99には「アドレナリンなどの血管収縮薬が、心室細動や無脈性心室頻拍の生存率を改善するという証拠はないが、これらの薬剤は大動脈拡張気圧を上げたり、冠動脈還流圧を上げたり、心拍再開率を高めるため、アメリカ心臓協会はこれらの薬剤の使用を引き続き推奨する。」と書かれています。つまり、もともと「アドレナリンを使っても社会復帰率を高めることはない」と分かっていたのです。

 しかし、色々な人に聞いたところ、今回はこの研究が前向き研究だという所がポイントのようです。昨日の記事で、前向き研究について書いたのはその為です。今まで噂で「アドレナリン使っても社会復帰率が高くならないんじゃね?知らんけど、、、、、、、」という感じだったのが、「アドレナリンを使っても社会復帰率が高くなることはないため、アドレナリンの投与は控えるべきかも知れない。」と言うような感じになったと言うことです。

 ならば、我々はアドレナリンを使うべきではないと言えるのでしょうか?UpToDateはこの件に関して早々と意見を述べています。UpToDateについては明日記事を書く予定です。以下はメールで届いた文章です。

 Advanced cardiac life support (ACLS) guidelines for resuscitation of patients with cardiac arrest are largely based on observational data and expert consensus. For patients with ventricular tachycardia or ventricular fibrillation that persists following attempts at defibrillation, epinephrine is the initial drug recommended during ACLS, although several observational studies have raised questions about its benefits. In a randomized trial comparing epinephrine with placebo for patients with out-of-hospital cardiac arrest, the primary outcome (30-day survival) was higher in the group that received epinephrine (3.2 versus 2.4 percent), but there was no difference in survival with favorable neurologic outcome [1]. Subgroup analysis showed the survival benefit was limited to patients with a nonshockable initial rhythm. UpToDate continues to recommend following the current ACLS protocol for cardiac arrest, while awaiting additional evidence that may direct the use of epinephrine to specific subgroups that are more likely to benefit.

See 'Supportive data for advanced cardiac life support in adults with sudden cardiac arrest', section on 'VF or VT arrest and vasopressors'.

1. Perkins GD, Ji C, Deakin CD, et al. A Randomized Trial of Epinephrine in Out-of-Hospital Cardiac Arrest. N Engl J Med 2018.

 以下は私の迷訳です。何か間違いがあれば教えてください。

 心肺停止の患者さんに対する心肺蘇生の指針の一つであるアメリカ心臓協会の二次救命処置(Advanced cardiac life support)ACLSのガイドラインは、主に観察研究によるデータや専門医の意見に基づいている。ACLSでは、複数回の電気ショック後も継続する心室頻拍や心室細動に対して、アドレナリンを最初に投与する薬剤として推奨している。しかし、いくつかの観察研究において、その有用性について疑問が投げかけられている。院外心肺停止の患者さんに対して、アドレナリンとプラセボを比較した無作為化研究では、一次アウトカムである30日後の生存率に関して、アドレナリンを投与された患者さんの方が良い結果であった(アドレナリン投与群3.2%に対してプラセボ投与群は2.4%)。しかし、神経学的に良好なアウトカムに関しては差を認めなかった。サブグループ解析では、初期リズムがショック非適応のリズムであった場合にのみ、生存率の改善を認めた。UpToDateは、より利益が出ると予想されるサブグループを対象としたアドレナリンの有用性を検討した研究がさらに出るのを待ちつつ、現時点の心停止の治療指針である2015ACLSプロトコールに従うことを引き続き推奨する。

 新しいデータが出ても、それを直ちに現場に適応して良いかどうかは慎重に検討しなければなりません。また心肺停止の患者さんに有用だという事は、色々な意味があります。例えば以下のような意味での有用性です。

(1)神経学的に予後良好な退院
 先生ありがとうございました!と言って退院できる。
(2)生存退院率
 とにかく心臓が動いていて、急性期病院を退院できる。寝たきりになってしまったとしても、ここに入ります。
(3)生存入院率
 心拍が再開して集中治療室に入院できる。その後亡くなっても良い。

 通常は(1)ですよね。しかし、論文によっては(3)だったりするのです。例えば、アドレナリンは現在の所、(1)に関しては有用と言えないばかりか、むしろ害があると言うことなのですが、(3)に関しては有用と言われています。医療経済とか色々な事を考えると(1)として意味がなければアドレナリンを使うべきではないと言えます。
 しかし、行ってらっしゃい!と言って朝出かけた人が、夕方病院から電話があって救急車で運ばれたと。病院に着いたら「先ほど亡くなりました」と言われました、、、、、、、悲しすぎます。「今集中治療室にいまして、今晩が山です」と言われてしまったが、数日看病が出来たと言う事に意味はあると考えれば、(3)でしか有用性がないとしても、意味はあります。

 現在のガイドラインでは、少しでも心臓が動いている時間が長いと言うことに意味を持たせているのだと思います。よって、アドレナリンは今後も使うべきだと考えます。

 しかし、アトロピンが新しいガイドラインは推奨されなくなったのと同じように、次のガイドラインからはアドレナリンが消える可能性はあります。アトロピンは以前のガイドラインでは、それほど激しい有用性はないのだが、激しい不利益もないため使用を推奨すると言うような記載だったのですが、突然あまり有用性がないので使用しないことを推奨するという風に変わっています。アドレナリンも同じ運命をたどるかも知れません。

 私は人が突然亡くなるのは良くないと考えて、医者を目指したので、例え1分でも心臓が長く動いているのであれば、治療を行う意味があると考えています。ガイドラインが変わってもアドレナリンを使い続けるかも知れません。


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