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脳出血患者さんの気道確保法 [医師国家試験]

 昨日の記事にご質問いただきましたので、記事を作ってみました。新しく「医師国家試験」というカテゴリーも作ってみました。

 先日行われた医師国家試験の問題で、意見が割れている物があるのだそうです。私は卒業以来、医師国家試験の問題を見たことがなく、初めて見てみました。今はネットに載っていて、厚生労働省まで試験問題を公開しているのですね。知りませんでした。私が国家試験を受けた頃は、まだインターネットは普及しておらず、パソコン通信の時代でした(^^)。

 こちらが質問を受けた試験問題です。要約すれば、以下の通りです。

 高血圧と心房細動がある68歳の女性。
 降圧薬と抗凝固薬内服中でコントロールについては記載なし。INRは2.1。
 夕食の買い物中に突然右半身の麻痺が出現し、家に帰ることが出来た。
 帰宅後意識レベルが低下したため救急車にて来院。

 意識レベルはGCSで9。血圧は高く、脈拍は68/分で不整。呼吸数は10/分。酸素4L/分投与でSpO2は97%。

 CTで左の被殻出血と診断。CT後に意識レベルが突然低下し、用手気道確保ではSpO2が上がらない(いくつか記載なし)。適切な気道確保法はどれか(直ちに行うべき)という物です。

a 経口気管挿管
b 経鼻気管挿管
c 輪状甲状靱帯切開
d 経鼻エアウェイ挿入
e ラリンジアルマスク挿入

 答えはどれか?で、かなりもめているようです。確かに、、、、、、普通に考えれば、aの経口気管挿管で良いと思います。が、こう言った救急の問題で困るのは、「まず行う」というキーワードです。これを重視すると、SpO2が下がってきて気道確保が出来ないのであれば、挿管の準備をしながら、エアウエイを入れても良いと思います。ただ、何故経口ではないのか?と言うところも引っかかります。

 取りあえず、刺激によって血圧を上げてしまうのではないか?と言う点に関しては、どれも差はあるのでしょうが、どの選択肢を選んでも、血圧をより上げる可能性があるので、それによって選択が変わることはないと思います。CTに行く前に降圧薬は投与開始しているでしょうし。麻痺があって意識レベルが低下していると聞けば、脳出血の可能性が高いのですから。

 経鼻気管挿管は、特に必要だという理由(口の中を手術するとか)がない限り、あえて行いませんので不正解で良いと思います。また、抗凝固薬を内服している時など、出血傾向がある場合には禁忌となっています。
 
 輪状甲状靱帯切開は、喉頭浮腫とか挿管困難の可能性は高くありませんから、取りあえず挿管を試みて、難しかった場合でいいでしょう。

 よって、bとcは間違いで良いと思います。

 ラリンジアルマスクは慣れた人なら良いでしょうし、救急外来にいつも準備されているのであれば使っても良いでしょう。私はほとんど経験がないし、たぶん当院の救急外来にも置いてないし、この患者さんは今後も人工呼吸管理が必要で、確実な気道確保が必要でしょうから、ラリンジアルマスクをあえて選ぶ意義は低いと思います。

 とすると、経口気管挿管か経鼻エアウェイかと言うことになります。リンク先の議論を読むと、経鼻エアウェイは脳出血に禁忌と書かれています(こちらの製品の添付文書には記載がありませんが)。不勉強で知りませんでした!理由が分かりませんが、これを重視すれば、答えは自然とaになります。

 また、経鼻エアウェイは、出血傾向には禁忌と記憶しています。以下の本のP.25には、「抗凝固療法中の症例は使用禁忌である」とあります。


気道管理の疑問Q&A70

気道管理の疑問Q&A70

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 また、この患者さんはGCSが9だったのが、突然もっと低下し、たぶんJATECで習う「切迫するD」なのでしょう。この人は外傷ではありませんが、切迫するDでは気管挿管が必要です。

 どうしてもエアウェイを使いたいのであれば、経口ではダメなのかと思いますが、嘔吐する可能性があるから避けた方が良いのでしょうか?昼食後かなり時間が経っていそうですし、経口の方が患者さんにも負担が少ないですし、以前ご指導してくださった麻酔科の先生は、気管挿管するときには必ず経口エアウェイを使うと言われていましたし、、、、、、あえて経口エアウェイではなく、経鼻エアウェイを選択肢に入れている出題者の意図を是非知りたいです。

 専門医の問題もそうですが、試験問題というのは、出題者の意図があるはずで、その意図、思いを教えて欲しいです。それを多くの人に伝えることで、より良い医療が提供できるのではないかと思います。是非国家試験も出題者による解説を希望します。

 そういう訳で(一体どういう訳か?)、この問題の答えは「a」でえーと思いますし、現場でもそうする人が多いのではないでしょうか?いかがでしょう?

 試験は受からないといけないので、これは解答を教えてもらいたいですが、現場でもどれを選んでも間違いという訳ではありません。大切なのは、理由です。想いと言っても良いでしょう。例えば「経鼻気管挿管はあえて選択しないと言われている」と分かっていても、経鼻気管挿管がいいんだ!と言う想いがあれば行うべきです。仕事はそうやって行うべきだと考えます。バンドワゴンに惑わされてはいけません。無理矢理動画をリンクするために描き加えてみました(^^)。


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