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くも膜下出血の怖さを知りましょう。 [研修医教育]

 前回の記事でくも膜下出血の人を見逃さないためにどんな事を聞いたら良いかを書きました。今回は何故怖いのかを書いてみます。

 忙しい人に結論から。

 くも膜下出血を見逃してはいけません。特に6時間以内に再出血を起こし、そうなった場合には死亡率が非常に(12倍!)高まります!

 理由は以下の通りです。

 UpToDateの文献からです。型の如く私の日本語を。

「Etiology, clinical manifestations, and diagnosis of aneurysmal subarachnoid hemorrhage(動脈瘤破裂によるくも膜下出血の原因と臨床症状、診断について」より

 くも膜下出血後の24時間以内は、再出血の危険が高い事が多くの研究で示されている。特に最初の出血から6時間以内で顕著である。最初の24時間以内の再出血の頻度は2.6から4%とされており、殆どの再出血(73%)は発作後72時間以内に発生する。再出血の可能性と関連するのは以下の様なものである。
・Hunt-Hess分類(重症度を示したものです)
・動脈瘤の最大径
・初診時の血圧が高い
・発作の前に前兆頭痛(sentinel headache)がある
・発作から入院までの時間が長い
・動脈瘤の治療の前に脳室ドレナージを施行

 現在、くも膜下出血後の再出血の正確な頻度は不明である。くも膜下出血後14日以内に入院した574人の患者を対象とした三次病院での前向き研究では、3ヶ月の間に6.9%再出血を認めたと報告されている。このデータは、リスクの高い患者が含まれている可能性があるので、解釈には注意が必要である。

「Treatment of aneurysmal subarachnoid hemorrhage(動脈瘤破裂によるくも膜下出血の治療)」より

 再出血は予後不良のサインである。くも膜下出血後14日以内に入院した患者574名を対象とした前向き研究では、3ヶ月後の機能的自立と伴った生存の可能性は再出血がない患者と比較(入院時の重症度や動脈瘤の大きさにより修正した上で)して12倍低かった(オッズ比0.08、95%信頼区間0.02−0.034)。



 再出血すると死亡率が12倍になると言う事です!(たぶん)確かに研修医のころ、再出血させたら死亡するので、絶対に再出血させないような注意(診断することはもちろんですが、診断したら安静にし、血圧を下げ、、、、みたいなこと)をするよう習いました。

 再出血させないために、専門でないものが出来る事は、初回の発作の時にくも膜下出血ではないかと思い、直ちに脳外科医に相談する事です(CTを撮る事ではありません)。CTを撮っても良いのですが、異常がないからと言って帰宅させないで、専門医への相談が必要です。検査は何でもそうですが、色々なやり方があり、専門医が指示をしないと意味がない場合も多いのです。以下の文献をご覧下さい。

「Etiology, clinical manifestations, and diagnosis of aneurysmal subarachnoid hemorrhage(前出文献)」より

頭部CT くも膜下出血の診断で最も重要なものは頭部単純CTである。出血から24時間以内に撮像すれば、92%の症例でくも膜下腔に血腫を認める。脳実質内への血腫の広がりは20−40%の症例で認め、脳室内(15−35%)や硬膜下(2−5%)にも認める場合がある。少量出血に対する感度を上げるために、脳底部を中心にスライス厚を薄くして頭部CTを施行すべきである。


 最後の一文重要です。普通にCT撮ったのでは見逃すことがあるのです!検査は分かった人が指示しないとダメなんです。それから、ある病気を疑ったのだが、その病気を示唆する所見が得られなかった場合の方が怖いと言う事を知っておきましょう。

 ある病院で訴訟が起こっています。

 神経内科の先生がくも膜下出血を疑い、CTでは異常なかったので、さらなる検査をお勧めしたのですが、患者さんが拒否し帰宅。患者さんは再出血をおこして(もちろんくも膜下出血だったのです!)死亡されたそうです。ご遺族は、もっと強く検査を勧めてくれたら受けたのに、、、、、と訴えています。患者さんは、痛みがそれほどでないから痛そうな検査を受けるのは嫌だと言われたのでしょう。それぐらい大した事ない痛みである場合もあるのです!!

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ask

勉強になります。
患者さん自身が拒否されているのに、訴訟になるんですね。訴えられた先生は気の毒ではないでしょうか?患者さんによっては説明しても、検査を拒否されることは時々あるとは思うのですが。
by ask (2010-12-11 04:24) 

Kim

askさん、コメント&nice!ありがとうございます。

最近は患者さんが拒否したと言うことでも裁判になっています。北海道かどこかで肝硬変の人にお酒をやめるよう強く言わなかったと言って訴えられた先生もいます(確か負けてます)。嫌な世の中です。

説明しても納得してくれなかった、、、これで普通は問題ないですが、最近は説明の仕方が悪かったと言われるので辛いですね。

by Kim (2010-12-11 08:59) 

godspeed

説明を受ける側の認識については、咎を受けることはないのでしょうか?
「煙草をやめるように言わなかったから」という理由で裁判にされても・・・。今では、煙草は体に悪いものと多くの人が知っているはずです。お酒だって、飲みすぎはよくないと多くの人が知っているはずですよね。なのに、負けてしまうのですね。
by godspeed (2010-12-12 09:41) 

Kim

godspeedさん、コメントありがとうございます。

裁判は苦しいです。提出された資料のみで判定されます。

タバコは体に悪いと言う事は常識である → その資料を提出しなければなりません。
説明があったが、理解出来なかった → 理解したかどうかチェックした資料が、、
普通は起こらない病気がたまたま発生し、説明を受けていなかった → 起こらないから説明していないので資料が、、、

よって今は手術前の説明にかなり時間がかかります。輸血の説明、血液製剤の説明、麻酔の説明、手術の説明、、1時間以上かかることもあります。全部理解できるはずがありませんよね。

もしかしたら自殺するかも、転んで骨折するかも、病院が火事になるかも、地震で、、北朝鮮からのミサイルが飛んでくるかも、、、看護師が病気になって殺されるかも、、、、この説明が多すぎて気が狂うかも、、、

キリがないです。
by Kim (2010-12-12 11:53) 

Luv

毎回、興味深く読ませて頂いております。
医療訴訟の件は絶えずですね。
別件ですが最近話題になった、看護師が爪切りをして訴えられたあの裁判も…。起訴された看護師の勾留が累計で102日間だったそうです。私は看護師ですが、もう看護行為も何も恐怖で出来なくなりますね。

これも日本人の特異性なのでしょうか?そんなことを書いている自分も純日本人ですけど。

最近続けてSAHの関連記事を読ませていただきましたが、先日の夜勤でばっちりSAHのPtを受け持たせて頂きました(笑)
by Luv (2010-12-13 00:12) 

Kim

Luvさん、コメントありがとうございます。

SAHの患者さんの受け持ちお疲れ様です。患者さん元気になると良いですね!

102日間勾留、、、、辛かったでしょうし、もう仕事に復帰できないでしょうね。貴重な一人の医療スタッフがいなくなってしまう事に対して、訴えた人は責任とってもらいたいぐらいです。それでも訴えるべきであれば訴えても良いですが、こんな思いをする人がいなくなって欲しいと本当に思っているのか?と思う事もありますね。

現場の大変さを分かって欲しいです。

by Kim (2010-12-13 09:00) 

ルーミ

私は、くも膜下出血から生還して今年で3年目ですがやっと落ち着いた生活に戻りました。病気で倒れたのに、10ヶ月でアパートを追い出されて掛け持ちで働き前のアパートよりも高い家賃を払って暮らしています。滞納はしていません。追い出された近くにしぶとく居座ってます。意地でも、居るつもりです。
by ルーミ (2011-01-10 00:33) 

Kim

ルーミさん、コメントありがとうございます。

ご病気をされ、大変だったのですね。病気と言うのは命だけでなく、経済的な問題もあると言う事を忘れないようにしたいと思います。

by Kim (2011-01-10 07:05) 

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