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心拍再開したかも知れない時にアドレナリンを打っていいのか? [CPRの基礎]

 心肺蘇生を開始すべきかどうか悩んだり、心肺蘇生の2分ごとのチェックで心拍再開したがどうか疑わしい場合、心肺停止だと考えて胸骨圧迫を開始、あるいは再開しましょうと蘇生の講習会で教えられます。心拍がある人に胸骨圧迫をしても大丈夫とされていますし(これについては明日にでも記事をアップする予定です)、心拍がないのに心拍があると考えて胸骨圧迫をしないことの方が患者さんに不利益を与えることになると言うのが理由です。

 二次救命処置の講習会では、そうやって胸骨圧迫を開始、あるいは再開した場合、アドレナリンを投与することがあります。心拍がある時にアドレナリン1mgを急速静注したら逆に心肺停止になる可能性があります。心拍があるかも知れないと思いながら胸骨圧迫を開始した場合、アドレナリンはどうしたらいいのか?と言うのが今日のテーマです。

 結論から先に書くと、アドレナリンを投与して構いません。蘇生講習会を初めて受けた方など初心者の方はこれでいいです。

 細かいことを知りたい方は、以下をご覧ください。

 以下の二つの点についてさらに知りたい方へ向けて解説します。
・アドレナリンを投与することは許容されます。
・アドレナリンを控えても良いです。と言うか、プロの人なら控えるのが良いでしょう。

(1)アドレナリンを投与する事は許容される。
 以下の本のP.42に解説があります。


救急蘇生法の指針 医療従事者用 2015

救急蘇生法の指針 医療従事者用 2015

  • 作者: 日本救急医療財団
  • 出版社/メーカー: へるす出版
  • 発売日: 2017/01/01
  • メディア: 大型本



 「電気ショックの直後に薬物を投与した場合、その時点ではすでに除細動が成功して心拍が再開している可能性もあるが、これは容認される。電気ショック直後には、除細動に成功した場合でも心静止もしくはPEAとなる可能性が高いので、直前のリズムチェックでVF/無脈性VTと判断していれば、電気ショック直後に再度、リズムチェックのために胸骨圧迫を中断することなく薬物を投与する。」とのことです。電気ショックの2分後に再度リズムチェックは行います。
 じゃあ、PEAの時はどうするんだ?と思いますよね。それについては記載がありませんでした。私個人の考えでは、どちらでも良いと思います。カンファレンスや事後検証などで、「(結果的に)心拍再開してたのにアドレナリンを打つとは何事だ!」などと怒る必要はないと思います。
 心静止の場合、本当に心静止なら、心拍があるかどうか迷うことはないと思います。アドレナリン投与で良いでしょう。

(2)アドレナリンを控えても良い
 アドレナリンはそもそも社会復帰をアウトカムと考えれば、有効だというエビデンスがない薬です。使うかどうか迷ったら使わないでも良いです。アドレナリンは色々と悪さもしますから。

(3)一番良い方法
 ここまで読んでも、どっちにしたら良いか分からない!と言う方への朗報です。ヨーロッパ蘇生協議会のガイドライン2015を読みましょう(残念ながら日本語版はありません)。109ページやその他あちこちに書かれています。

 The use of waveform capnography may enable ROSC to be detected without pausing chest compressions and may be used as a way of avoiding a bolus injection of adrenaline after ROSC has been achieved. Several human studies have shown that there is a significant increase in end-tidal CO2 when ROSC occurs. If ROSC is suspected during CPR withhold adrenaline. Give adrenaline if cardiac arrest is confirmed at the next rhythm check.

 私の下手な日本語訳を載せておきます。
 波形表示型呼気二酸化炭素検知器を使用すれば、胸骨圧迫の中断をせずに心拍再開したかどうか分かる可能性があり、心拍再開度後のアドレナリンの急速静注を避けることも可能である。心拍再開すれば呼気終末の二酸化炭素分圧が著明に増加することが、いくつかのヒトでの研究で示されている。心肺蘇生中に心拍再開したかも知れないと思ったら、アドレナリンの投与は控える。次のリズムチェックで心肺停止が確認されれば、アドレナリンを投与する。

 ヨーロッパ蘇生協議会のガイドラインでは、心拍再開後のアドレナリン投与は避けるべきだと考えていて、そのためにカプノグラフィーを使えといっているのです。心肺蘇生の時にカプノグラフィーを使わないのは、クリープを入れないコーヒーのような物だという事ですね!

 結局、心拍再開しているかも知れないと思った場合にアドレナリンを投与しても、しなくても、どちらでも良いという事です。どちらでも良いが気に入らない方は、ご自分でどちらかに決めていいです。
 私は現場ではカプノグラフィーを用いて判断しますが、講習会では投与して良いとお伝えします。他のこともそうですが、どっちでも良いですというと、不満に思う人が多い印象ですので。

 インストラクターとして大事なことは、そう言う質問が出ないようにシナリオを進めることかも知れませんね。
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やまだ

Give adrenaline if cardiac arrest is confirmed at the next rhythm check.

「次のリズムチェックで心停止が確認されたら、アドレナリンを投与します。」

「リズムチェックのために胸骨圧迫を中断することなく薬物を投与する。」

リズムチェックは、するのでしょうか?
by やまだ (2019-09-12 23:23) 

Kim

やまださん、コメントありがとうございます。

リズムチェック(JRCではパルスチェックも含むと書かれています)は2分ごとに行います。

「リズムチェックのために胸骨圧迫を中断することなく」は直前の言葉が重要で「電気ショック直後に再度」チェックしないという事です。私が研修医の頃のガイドラインでは電気ショックをしたら直ぐにリズムチェックをすることになっていました。そう言う事をふまえての記載だと思いますし、蘇生コース中もすぐリズムチェックする方がおられますよね。

文章を追加させて頂きました。ご指摘ありがとうございました。

by Kim (2019-09-13 06:48) 

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