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ニューキノロンと非ステロイド系抗炎症薬の併用は禁忌か? [医学関連]

 先日薬剤師さん、がんばれ!と言う記事を書きました。こちらも薬剤師さんを理解するため、以下の本を買ってみました。

臨床薬物動態学 (標準医療薬学)

臨床薬物動態学 (標準医療薬学)

  • 作者: 澤田 康文
  • 出版社/メーカー: 医学書院
  • 発売日: 2009/11
  • メディア: 単行本


 その中から一つ紹介します。

 ニューキノロン系抗生物質というのがあります。たぶん、最近では最もよく処方される抗生物質の一つです。この薬は、痛み止めであるNSAIDs(エヌセイズと呼びます)と一緒に使うとけいれんを起こすため併用はダメだとされています。今回はこれについて考えてみましょう。

 P.270には、ニューキノロンがGABAA受容体阻害作用(GABAAレセプター応答抑制作用)をNSAIDsが増強するためけいれんが発生しやすくなると書かれています。GABA(γアミノブチル酸)と言う物質は脳内で抑制に働く物質だそうです。ニューキノロン単独でも起きますが、併用するNSAIDsによっても、ニューキノロンの種類によってもけいれんの発生しやすさが違うようです。

 ラットの脳を用いた実験では、NSAIDs中ボルタレンが一番良く(GABAA受容体への結合占有率あるいは遮断率が低い)、フェンブフェンが一番悪いです。ニューキノロンではエノキサシンが一番悪いです。よってエノキサシンとフェンブフェンの併用でけいれんが報告されています(が、現在フェンブフェンの経口剤は発売されていないそうです)。

 NSAIDsでは、ザルトプロフェン、ロキソプロフェン、ロルノキシカム、ジクロフェナクの順にレセプター遮断率が低いのですが、実験と人間が同じと仮定すれば、この四つはニューキノロン単独とけいれんの発生しやすさが変わりないようです。

 併用によって遮断率が上昇するのは、プルリフロキサシンとフェンブフェン、エノキサシンとフェンブフェン、ノルフロキサシンとフェンブフェンの3つのみです。

 よって、NSAIDsとニューキノロンの併用がダメ!と単純に言うのではなく、以下のように言うべきでしょうか。

・添付文書上は、ニューキノロンとNSAIDsの併用は禁忌とあるものが多いです。
・フェンブフェンという現在経口剤が存在しないNSAIDsとの併用が危険とされています。
・ロキソニンとクラビットでは、けいれんを起こしやすくすると言うデータはありません。
・クラビット単独でもけいれんを起こす可能性がゼロではありません。
・もしけいれんが不幸にも発生した場合を想定して、別の抗生物質に変更されるか、NSAIDsをカロナールへ変更をお勧めします♡。

 言われた医者の方は、、、、

・ご指摘ありがとうございます。
・患者さんには、けいれんが発生するかも知れないという話はしてあります。
・QT延長による不整脈の報告もありますから、それも伝えました。
・それらの場合には、すぐ連絡するよう私の携帯番号を教えてあります。
・ニューキノロン単独でもけいれんの発生しやすさは同じとは知りませんでした。
・今日良かったら二人で飲みに行きませんか?

 と言うと良いかもしれませんね(^^)/。


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みい

大変勉強になりました。
下から下から先生に疑義をしても、処方内容に文句を付けるなと怒鳴られるのは…諦めるべきでしょうか?笑

ドクターからの最後の一言…いいですね♡笑
by みい (2014-02-02 21:42) 

Kim

みいさん、読んでいただきありがとうございます。

これには二つ問題があると思います。

・対案を示しましょう
 たいてい、「これはダメ」と言われます。そんなこと言われても、感染があるから抗生物質は必要だし、痛みがあるから痛み止めも必要だし、カロナールは抗炎症作用が理論上ないんだから、、、、、どないせいっちゅうんや!と思います。あんたが患者さんに、痛みなんか我慢しいや!と言ってくれるのか!?って感じです。
 だから、今回だと、カロナールにしませんか?抗炎症作用はないかもしれませんが、意外に効きますよ。一回500mgとかにしても良いんですよ♡と言えば良いかも、、、、、あるいは、カルテを見せて頂きましたが、尿路感染症のようですから、クラビットからバクタに変更も良いと思いますとか。
 責任野党になりましょう、、、、たぶん。

・知らない人に処方についてコメントを求められると素直に受け入れられない
 一番はこれだと思います。私は原則検査室でも薬局でも、医事課でも用があったらそこへ行きます。面と向かって、今忙しいから知らない、あんたの言う事なんて知らないと言える人は少ないです。
 だから疑義照会の時は(院外薬局とかなら難しいでしょうが)そこへ出向けば良いんです。外来で忙しそうだからって理由になりません。だって、出向かなかったら電話してるんですよね。出向いた方が、患者さんが出てから別の患者さんが入る間に話しかけられますよ。いや薬局だって忙しいんだから、、、、、、そうかも知れません。でも、疑義照会がどのぐらい重要な仕事か考えれば、忙しくてもやれるはずです。以前の病院の薬剤師さんはトイレに入っている時以外は必ず探し出してやってきましたよ。南木先生でしたっけ、ダイヤモンドダストって小説を書いた先生、、、、日本の病院で、電話をしなければならないような用事は存在しないと言っていましたよ。
 あとは普段の交流ですね。だから飲み会は大切だと思いますが、そうでなくても、普段からの交流ですね。昼ご飯食べるのに、同じ部署の人とばかり行ってませんか?たまには医師が一人で食べているところへ行って、先生、この間の処方について教えてもらえませんか?とか話しかけてみませんか??

 あと今日飲みに行きましょうって誘いたいドクターはいっぱいいると思いますよ。薬局って病院の中で一番閉鎖的な(他とあまり交流しない)部署だという印象があります。ごめんなさい。

by Kim (2014-02-02 23:41) 

静香

初めまして。
薬学部5回生の静香と申します。京都に住んでいます。
破傷風について勉強中していた所、
Kim先生のブログに偶然たどり着きました。


救急認定薬剤師を目指して、
救急医療を日々懸命に勉強しています。
大学の授業やテキストでは決して学ぶことの出来ない
救急科の先生の貴重なお考えを沢山知りたいと思います。
今から全ての記事を読ませていただきます。

自分で調べてみても
どうしても分からないことがあれば
質問をさせてください。

朝晩寒い日が続くので、お身体大切になさってください。




by 静香 (2014-02-03 03:54) 

Kim

静香さん、コメントありがとうございます。

京都は時々講習会で行きますので、いつかご一緒できたらと思います。

分からないことは何でもどうぞ!私が分かる範囲でしかありませんが、、、、

これからもよろしくお願いいたします。

by Kim (2014-02-03 08:11) 

ムラサキシキブ

地方の小さな薬局で勤務薬剤師をしております。御ブログは私自身の勉強のヒントを探すため時々閲覧させていただいております。

私も薬剤師会などで「このようなケースは問い合わせしないといけません」と説明を受けましたが、実際に疑義照会なんてしたことがありません。

このような処方ケースはおそらく多く存在するだろうけれど、そういう副作用で大事になった事例はあまり見かけなかったためです。

とはいえ、ニューキノロン系抗菌薬と非ステロイド性抗炎症薬との相互作用が、どのくらい臨床的に重要なものか理解できなかったので、以前PubMedなどを利用して論文検索したことがありました。

この本は持っていませんけれど、もしかしたら紹介された本に書かれているこの記事の参考文献の一つかもしれませんね。

Quantitative comparison of the convulsive activity of combinations of twelve fluoroquinolones with five nonsteroidal antiinflammatory agents.
(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19430173)


また閲覧させてください。お疲れ様です。

by ムラサキシキブ (2014-02-07 22:00) 

Kim

ムラサキシキブさん、コメントありがとうございます。

原文が無料で読めますね。紹介した本には参考文献はあげられてませんが、著者らの研究によればとあり、著者の方は以下の論文の一番最後に名前がありますね。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/dmpk/24/2/24_2_167/_pdf

貴重な文献のご紹介誠にありがとうございました。

by Kim (2014-02-09 23:31) 

そらっち

はじめまして。長く調剤薬局で勤務していて、最近病院薬剤師になったものです。

NSAIDsとニューキノロンについてどこまで医師に進言すべきか迷っていて、先生のブログをみつけました。

添付文書に書いてあること全てをいちいち医師に言うのはどうかと思いますし、代替案を求められるのもわかっているので、なんとか適した情報をみつけようと試行錯誤しています(^-^;

先生のアドバイスはとても、分かりやすくて参考になります。
今回のNSAIDsとニューキノロンについての併用についても、そのように医師に伝えてみようと思います!

また、薬剤師に対する率直なご意見が頂けると大変ありがたいです。
by そらっち (2015-03-02 08:30) 

Kim

そらっちさん、コメントありがとうございます。

基本は疑義照会に躊躇をすべきではありません。患者さんのためですから。お互い誤解が解けて、そう言う事だったんですか!となればそれはそれで良いことです。

そうなんです。代案がなければ医師は困るんです。熱を下げるとかなら、下げなくて良いとなりますが、痛い時には我慢させるのはどうでしょうか。
代案はいくつかあるんですが、一緒に探していただけませんか?と資料を持って出向くのが一番ですね。

忙しくて出向けないと言う病院がありましたが、そんな事はあり得ません。そう言うのであれば、医者側も忙しくて電話に出られないと言うかもしれません。

by Kim (2015-03-02 14:39) 

山本

初めまして。貴重なデータをありがとうございます。
本日、初めてブログを拝見させて頂きました。1つ教えて頂きたいことがあります。
ニューキノロン単体のGABA A受容体の占拠率ですが、クラビット500はエノキサシンと比べてどのくらい悪いでしょうか?
もしご存知でしたらパーセンテージなど御指導頂けると幸いです。
宜しくお願い致します。
by 山本 (2017-07-20 13:03) 

Kim

山本さん、コメントありがとうございます。

文中に紹介させて頂いた本のP.274に載っています。
エノキサシン(ENX)は単独だとGABAaレセプター結合占有率は0.038%だそうです。フェルビナクと併用だと0.481%です。
クラビット(LFLX)は単独だと0.015%、フェルビナクと併用では0.018%だそうです。

参考になれば幸いです。
by Kim (2017-07-20 14:33) 

山本

早速のご丁寧な返信をありがとうございました。クラビット単体ですと、0.015%とは驚きました。受容体拮抗作用はもっと強いものだと思ってました。

話はそれてしまい増すが、逆の作用をする
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は
アゴニストとして受容体刺激作用が
数桁以上違うのを思い出しました。
2週間も飲み続けると、深刻なダウンレギュレーションが起こることは容易に想像が着きました。とてつもない薬が出回ってると改めて実感致しました。
by 山本 (2017-07-20 16:27) 

Kim

山本さん、受容体の話は苦手な部分の一つです。

ベンゾジアゼピン系の薬は桁違いに刺激をするのですね。勉強になります。私も出来るだけ処方しないように気をつけます!


by Kim (2017-07-21 08:54) 

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