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救急救命士さんに気管挿管をさせるのはいけないのか?(その3) [医学関連]

 最近大津で気管挿管をしたのだが、気管に入っていなかったという事件?が報道されていて、医師向けの掲示板で色々書かれています。だから救急救命士なんていらないんだとか、前回教えていただいた文献を引用して、考え直す時期に来ているという意見もありました。

 でも、ちょっと違うと思うので、、、、、まず事件の報道を。コピー&ペーストはいけないんでしょうが、リンクだけだと、記事が消えてしまうことがあるので、、、、


救命士、挿管ミスで女性死亡 大津市消防局 3人を業務停止処分

 大津市は30日、救急救命処置中だった80歳代の女性に対し、気道を確保するための気管内チューブを、誤って食道に挿入する事故があったと発表した。市消防局は同日、救急救命士3人に対し、口頭による厳重注意と救急業務停止14日間などの処分を行った。

 今月25日午前8時ごろ、突然吐いて意識を失った市内老人ホームの入居女性に対し、駆けつけた救急救命士が医師の指示を受けながら、気管内チューブを口から挿入。誤って食道に挿入し気道が確保できないまま、市内の医療機関に搬送し、医師の指摘で発覚した。

 救急救命士は、肺がふくらまないなど空気が正しく肺に入っていない状態を確認していたが、吐いた物で詰まっているためと思い込み、誤挿管が疑われる際にはチューブを抜き取るというマニュアルに定められた手順を行っていなかった

 女性は医療機関で死亡した。市消防局は「医師から、誤挿管との因果関係はないと確認している。正しく挿管されていても蘇生していたかどうかはわからない」という。

 市消防局は「ご家族におわびする。再発防止に向け、46人の救急救命士に対し、救急活動要領を守るよう徹底していきたい」としている。
(大文字、下線は私がやりました)

 この事件で問題なのは、気管挿管を救急救命士さんにさせるのがダメとか、そもそも挿管は難しいからとか、救急救命士なんてダメなやつばかりだとか、そう言うのではありません。プロトコール違反だと言うことです(大津のプロトコールが分かりませんが、記事には決められたマニュアルに従っていないとあるので、たぶんそうです)。「挿管した後に、胸が挙がらなかった場合には、管を抜く」というプロトコールに違反したと言うことです。医師であれば、挿管しても胸が挙がらない場合には何をしても、医師法上は問題ありません。医師にはそれだけの権限が与えられています。が、救急救命士さんには与えられていません。医師に直接相談して指示を仰がなければいけなかったのです。それだけです。気管挿管はさせるべきでないという方向に向かないことを祈ります。

 決められたマニュアルというのは、プロトコールと呼ばれる物です。例えばこちらにあります。救急救命士さんには診断などが許されていないので、観察した所見がこうだったらこうしなさいと言う単純なフローチャートになっています。考えるという判断は入っていません。ここが重要です。

 看護師さんもそうですが、病院の医師以外の職種は、多くの仕事が診療の補助と呼ばれるものです。つまり昔は医師が行っていたのだが、医療の進歩その他により、医師だけでは無理になったので、医師がこうやっておいて!って指示があれば、やっても良いと言うことです。よって医師の直接の指示が必ず必要です。指示がないと検査できませんから早くオーダーをお願いします!って融通の利かない検査技師さんがいたりしますが、本来はおっしゃる通りです。

 全ての診療の補助は、原則その場で医師が直接指示しなければなりません。しかし、特に救急隊には、直接指示を出すことが難しいです。よってプロトコールというのを定めて、こう言う場合には、こうしてくださいと言う指示を事前に出していると言うことになっています(病院でもクリニカルパスとか、発熱時の指示とかありますね)。本来は全ての病院の医師が承認しないとダメでしょうが、それは無理なので、メディカルコントロール協議会という所で、地域の医師と救急隊で相談して決めます。

 救急救命士さんは、このプロトコールに厳密に従う必要があります。医師であれば、現場で色々判断して勝手に変えても良いですが、救急救命士さんは診療の補助しか出来ませんから。この事を理解していない救急救命士さんだったのかも知れません。どんな理由があれ、救急救命士さんはプロトコールを守らないといけません。違反する?場合には、絶対に医師の直接の指示が必要です。

 医療従事者はアセスメントが大事とか、何が起こっているのか良く考えなさいと指導されていると思いますが、それは自分の仕事の範囲内で考えることであり、診断することとは違うと言うことを忘れてしまっていたのかも知れません。気管挿管をしたけれども胸が挙がらない、これは気道異物によるものでは?と言う判断をしても良いですが、それを理由にプロトコールから逸脱させたら、診断したことになります。診断は医師にしか許されない(歯科医師やお産に関しては助産師さんもいいのでしょうか?)行為です。そこを忘れないようにしたいです。

 逆に言えば、プロトコールを厳密に守って活動しているからこそ、受け入れた病院、あるいはメディカルコントロール協議会が、救急救命士さんの活動を守ると言う図式になっています。最近は救急救命士さんが訴えられることもあるようです。しかし、プロトコールに従っていたと言えば、負けることはないはずです。プロトコールは医師の指示を書いたものだからです。問題があれば、それを作った医師に問題があると言うことですから。
 医師は、例えばガイドラインに載っていたフローチャートに従ったと言っても、多少は参考にしてもらえるでしょうが、個々の患者さんで適切に判断すべきだったとか言われると思います。でも救急救命士さんは、そう言われることはありません。間違いない!


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心筋梗塞

「第一回12誘導心電図伝送を考える会」
http://clcard.umin.jp/gate/comingmeeting/
開催日 2月23日(日)午前10時半から4時
場所  TKP品川カンファレンスセンタ
出席者 救急循環器医、消防署、技師、関連者
主催  12誘導心電図伝送を考える会
会費  医師など直接関係者 1,000円

by 心筋梗塞 (2014-01-13 02:09) 

Kim

心筋梗塞さん、コメントありがとうございます。

興味深い勉強会ですね!

by Kim (2014-01-13 07:45) 

めめ

Kim先生、こんにちは。
いつもお返事下さりありがとうございます。

この記事を読んでの感想ですが、

私達一人ひとりは、同じ人間同士であり、けしてperfect,almightyの神様ではないことを、改めて謙虚に胸に刻まなければならないのでは…?と言うことです。

かいかぶった言葉をお許しください。
他人のフリ見て、我がフリ直せと言う言葉です。

ある特定の方を責めたり批判することはせずに、不適切なことは不適切だと、きちんと伝えつつ、その相手がした努力を認めることではないかと思いました。

救急医の先生、救急看護師さん達からは、呆れられてしまうかもしれませんが、
どんなに熟練したスペシャリストでも、目の前で人が倒れ、心肺停止の状態であれば、
手元が震えたり、あってはならないけれども、間違いを犯したりすると思うのです。

素人が何を言うと不快に思われた方がいらっしゃいましたら、心からおわびいたします。
by めめ (2015-05-10 13:50) 

Kim

めめさん、おっしゃるとおりです。

誰でもミスは起こすので、ミスを責めても仕方がありません。亡くなったりした人は納得いかないかも知れませんが、、、、、、、

学生の時に、麻酔の講義で、イチローや落合だって5割打つことは出来ないんだから、我々はモニターなどを駆使して仕事をしなければならないと言われたのを良く覚えています。

ただ、この記事の件は、食道に管が入ってしまったと言うのは問題ないんです。有り得る話なんです。そのままではいけないので、それを見つけるための診察をし、その所見で食道挿管が疑われたのにやり直さなかったのが行けないのです。ミスをしたことを責めているのではありません。

トイレから出たら手を洗う、、、、、、、みたいなレベルの話なんです。


by Kim (2015-05-10 14:49) 

めめ

お返事ありがとうございました。

生意気なことを書いてしまいました。
Kim先生の書かれた事を、否定したりあげつらうためにコメントしたのではない事を、理解くだされば感謝です。

持論ですが、今の医学・医療の現場で大事にされるべきことは、もちろん患者さんのいのちと健康ですが、
次は、医師、看護師さん、助産師さん、各コメデイカル、お一人おひとりのこころ、人情ではないかと思うのです。

相手から何かしていただいたら、感謝する。
なかなか現場ではそうも行かないでしょうが、頑張っていらっしゃる方々に励ましの言葉をかける、
私が中心ではなく、他の方々との連携によって、1日の診療
業務が進んで行くのだ…と言う、謙虚さであり
他者への思いやりと考えます。

私もそうありたいものだと思いますし、相手と自分が違った考えを持つことを認めることによって、
外来も病棟も、雰囲気が和やかに変わって行くのでは?と。

by めめ (2015-05-10 16:26) 

Kim

全くその通りだと思います。

が、特に医者と看護師は違う人が多いですよね。

by Kim (2015-05-10 17:38) 

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