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下肢を挙上する事は意味があるか?

 患者さんがショック状態になりました!進藤先生、お願いします!!

 などと言うシーンがテレビではよくあります。そこへかけつける医師はかっこいいですし、待っている看護師さんは超美人です。うらやましい、、、、、

 と言うのはどうでも良いのですが、その時に患者さんの下肢を挙げる(ベッドの足側が上がるようになっています)事が多いです。これは全国どこへ行っても共通です。私はいつもそれ辞めませんかと言っています。

 たまたま、それについての記載を見つけたので勉強してみましょう。

 まずCoSTRからです。原文はこちらからお読みください。

「ショック時の適切な体位」

科学に基づくコンセンサス
 LOE4の二つの研究とLOE5の3つの研究から得られたエビデンスによれば、下肢を挙上させるか、トレンデレンブルグ体位変法は、7分間継続させても平均血圧や心拍出量を著明に増加させないとされている。LOE4の二つの研究と、LOE5の二つの研究から得られたエビデンスによれば、下肢を受動的に挙上させると心拍出量や点滴に対する反応(volume responsiveness)が増える可能性があることが示されている。しかし、患者の予後を改善したとする報告は一つもなく、LOE4の一つの研究ではトレンデレンブルグ体位による有害事象の可能性が指摘されている。

推奨される治療
 ショック患者に対するファーストエイド介入として、下肢を挙上させる事は、推奨も反対も出来る十分なエビデンスは存在しない。

今後の課題
 ショックの患者において、下肢を挙上、あるいはトレンデレンブルグ体位変法を行う事による利益と不利益は何か?骨盤、腹部、胸部、頭部外傷の患者において下肢挙上は有害であるか?

 解説しよう!!
・CoSTR コスターと呼びます(たぶん)。これは「2010 International Consensus on Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science With Treatment Recommendations」と言う文献の略です。確かにこんなの言うの大変です。2000や2005と言うのもありますので、注意が必要です。
 これは世界中の心肺蘇生に関する研究を偉い先生たちが評価してまとめた物です。世界中の救急オタクの聖書と言った方が分かりやすいかも知れません。こちらに無料で公開されています。日本語版が出ると良いのですが、、、、2005年度版はこちらに日本語があります。
・LOE level of evidenceの略です。LOE1が一番信頼できる研究です。LOE4とか5とかの研究と書かれていますので、ちゃんとしたデータとは言えませんと言う事です。私がfacebookでAKB48の誰が一番好きですか?と質問して、前田敦子さんが一番だったとして、それはたぶんLOE5とかあるいはそれにも値しないデータとなる訳です。
・トレンデレンブルグ体位 頭を下げた体位です。ベッドを傾けます。もともと産婦人科で使われていた体位だそうです。
・ファーストエイド 病院の外などで応急処置などを行う事です。病院内でもスタッフや器具が集まるまでに行うべき対応法などを含みます。

 日本の救急オタクが好きなAHAのガイドラインには以下のようにあります。

 一般的に、傷病者を動かすべきでない。傷病者の体位や、倒れた原因などから推定して、脊椎損傷の可能性があると思われる時は特にそうである。しかし、以下のような場合には、傷病者を動かす必要があるかもしれない。

・傷病者が倒れている現場が、救助者と傷病者にとって危険である場合、そうする事が安全と判断されれば安全な場所に移動させる。
・傷病者がうつぶせで反応がない場合、傷病者を仰向けにする。
・傷病者の痰が粘調であったり、嘔吐があったりして呼吸に困難を伴う場合、あるいは救助者があなた一人で助けを呼ぶために反応のない傷病者を置いて行かなければならない場合、傷病者をmodified High Arm IN Endangered Spine (HAINES) 回復体位とする。これは、傷病者の腕の一方を頭の上に伸ばし、頭が伸ばした腕に乗るようにして体を横向きにするような体位である。傷病者を安定させるために両下肢は曲げる(Class IIb、LOE C)。
・傷病者がショック症状を来している場合、傷病者を仰向けに寝かせる。外傷の証拠がなければ、下肢を6−12インチ(約30−45度)挙上させる (Class IIb, LOE C)。足を動かしたり、その体位により傷病者が痛みを訴えるのであれば、下肢を挙上しない。

 下肢挙上の利点は、下肢挙上する事によって循環血液量の補充になると言う研究からの推測でしかない。ショック患者のファースとエイド介入としての下肢挙上の有効性を検討した研究は一つもなく、循環血液量の補充に関する研究からの結果は、それぞれ異なっている。ある研究では心拍出量が増えるとしているが、心拍出量には変化がないと言う研究もある。下肢挙上により平均動脈血圧は変化しなかったと言う研究もある。


 だから、、、、書いてありません(^.^)。まあやってもいいが、それを優先すべき物ではないと言うことですね。先に点滴の準備をした方がよいと思います。

 次回は、研修医の皆さんの教祖である林先生のお話を、、、、

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Kim

Facebookもやっています。そちらに自動的にこのブログが転載されるようになっています(コメントは別)。
そちらに救命センターの先生からコメント頂きました。許可を得て転載させて頂きます。ありがとうございました。

うちの救命ICUのナースもショック体位は指示しなくても自動的にやるけど、呼吸不全で人工呼吸装着中の患者に対する上半身挙上(Fowler位)は指示しないとやらない人がほとんどです。

血圧が低下した患者の片足を挙上して血圧が上昇するかどうかを観察してみるのはいい方法だと思います。血圧低下の原因がhypovolemiaかどうかが一目瞭然です。

by Kim (2011-05-08 12:19) 

Kim

こちらも先ほどの先生からのコメントです。

Fowler位の話はARDS Networkかどこかのガイドラインの中でかなり強く推奨されていたと思います。下肢挙上の話は最近のCrit Care Medあたりの雑誌に載ってました。文献引用できなくて申し訳ないのですが、ブログ転載はもちろんオッケーです。
by Kim (2011-05-08 12:20) 

はるかけこ

私も下肢挙上に関していつも疑問でした。

DNR(正式名違ってたらごめんなさい)の患者さんで、血圧の下が測れなってくると真っ先に下肢挙上する看護師がいました。私は、、下肢挙上しても見た目も良くないし、患者さんは苦痛だけではないかと思いました。言葉が悪いのですが、亡くなってしまう事には変わりないからそっとしておくのがDNRではないかと…。
急変のときに下肢挙上は看護師は医師が到着するまえに出来る限りの事をしたいと思うのです。
しかし、医師の指示がないと出来ない事が多く下肢挙上は指示がなくても出来る処置のため、なんとかしなくてはとの気持ちをこめて少しでも血圧上げようと下肢挙上するのですが、あまり効果がないとすれば残念です。
by はるかけこ (2011-05-08 18:19) 

ちぇりー

ショックじゃない状態(めっちゃ水ぶくれでパンパンのサードスペースに流れてる状態)でも足を上げていたスタッフがいたので
意味ないで
って言って元に戻しました。
だってアタマ低くして
痰はごぼごぼしてたし
血圧は上がらないだろうし。

呼吸器の患者さんは
絶対にアタマ上げてます
上げない人多かったです
VAPが…って言ったら
なあに?って言われました…
ワタシは最初に呼吸器教わったとこが
めっちゃ厳しかったので
CVP測ってるだけで「早くアタマ上げて」って怒られました。
by ちぇりー (2011-05-08 18:23) 

Kim

はるかけこさん、コメントありがとうございます。

DNRはあっていますよ。Don't resuscitateの略です。今はDNAR(Don't attempt to resuscitate)とかno CPRとか色々な言い方がされています。どっちみち亡くなってしまうので、、、は正しい考えだと思います。

看護師さんが出来るだけの事をしたいと思う気持ちは大切だと思いますし、嬉しく思いますが、意味がないあるいは有害な事はすべきでは有りません。

すごく意味があるとは限らず、患者さんの苦痛を伴う場合もあると言う事を知った上で行うのが良いですよね。

by Kim (2011-05-08 18:58) 

Kim

ちぇりーさん、コメントありがとうございます。

色々な状況があり、役に立つか立たないかを臨機応変に判断するべきですね。そうでなく、ルーチンで行う人が多いので困る訳ですね。

でも、みんな忙しくてそう言う余裕がないのかも知れません。

最初に呼吸器について厳しく指導されたちぇりーさんは素晴らしいですね。是非みんなに広めて行ってくださいね!

by Kim (2011-05-08 19:05) 

ミト

こんばんは。
人工呼吸器を装着している患者さんは、
頭を挙げると書かれていますが、どのくらい挙げるものなのでしょうか。
当院の外科の先生は、(術後を含めて)10°にしていますが、
コメントに出ているファウラー位は45°、セミファウラー位は30°、と学生時代に習いました。
人工呼吸器を装着していて30°のギャッチアップというのは、
とても高い気がしてしまうのですが…いかがでしょうか。一般的にはそのくらい挙上しているのですか?
ショック時に下肢挙上する有効性は明らかではないのですね。
DNAR時にはもちろん挙上しませんが、勉強になります。(私は血圧もできるだけ測りません。)
では、術後、例えば硬膜外麻酔(フェンタニルやアナペイン)を使用していて、もしくはそれ以外のなんらかの理由(ショックを除く)で血圧低下している場合、
下肢挙上すると血圧が上がるのですが、それもやはり同じですか?
(血圧を維持するという意味で不要な看護ですか?)

血圧低下したら下肢挙上して輸液を増やす、みたいなことを新人時代に教えられましたが、病態によるのだということもきちんと理解しないといけないですね。
by ミト (2011-05-09 20:16) 

Kim

ミトさん、コメントありがとうございます。

下肢挙上を一時的にする事はよいと思います。ただ記事に紹介した本にありましたが、人間の体は足を挙げたら多少の輸液みたいになると言うような単純なものではなく、足を挙げればそこへ動脈血を送り出そうと心臓に負担がかかったりします。

中心静脈ラインを入れる時に頭を下げますが、あれもそうすれば入れる部位の静脈が太くなると言う証拠はないようです。

あと昔教わった事と言うのは私もきちんと守ったりしているのですが、間違っている可能性もありますし、常識も変わりえます。常に勉強が必要ですね。

例えば抜糸は普通7日目にしますが、7日目は最も創の力が弱い時期だそうです。最近は早めに抜糸してステリーテープ固定しています。

by Kim (2011-05-10 10:55) 

Kim

ミトさん、コメント&nice!ありがとうございます!

詳しくは後日記事を書きたいと思います。

が、人工呼吸器中は少なくとも30度上体を挙上するべきなんだそうで、色々な利点がある事が確かめられているそうです。

by Kim (2011-05-10 11:15) 

ミト

>Kim先生
お返事ありがとうございます!

>足を挙げればそこへ動脈血を送り出そうと心臓に負担がかかったりします。
…確かにそうですね、納得です。

>最近は早めに抜糸してステリーテープ固定しています。
…そうなんですか!?知らなかったです。
DM患者で抜糸を遅らせることはしますが、抜糸を早めることは看たことなかったです。
例えばですが、最近の外科ドクターは抜糸前後の消毒もしなくなっていて、
でもお堅い?ウロ・ドクターは消毒するので、直接介助に就く時、どっちだったっけ?…と迷ってしまいます。

どんどん新しくなっていくエビデンスに基づいた医療や看護は、
どんどん吸収していかないといけないですね。
勉強になりました!!ありがとうございました。

記事も楽しみにしています☆自分でも調べてみます!
by ミト (2011-05-11 12:33) 

Kim

ミトさん、コメントありがとうございます。

大きな違いがないので、医師の好きなやり方で、、、、と言う事だと思います。消毒も本当に必要かどうかは、きちんとした研究はされていないと思います。

どちらにしても、どんどん変わって行くので常に勉強が必要ですね。頑張りましょう!

by Kim (2011-05-11 23:30) 

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