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乳頭間線は廃止?? [CPRの基礎]

 「乳頭間線」と言う言葉があります。「にゅうとうかんせん」と読みます。心肺蘇生の講習会で頻繁に出てくる言葉です。両方の乳頭を結んだ線の事で、この線と胸骨の線の交点を圧迫しましょうと教えています。しかし、この言葉は無くなるかも知れません。
 何故この様な線を想定する必要がある(正確には「あった」)のでしょう?

 胸骨圧迫の最も良い位置は、胸郭の出来るだけ足側で、剣状突起を圧迫しない位置です。胸郭は足側の方が変形しやすいからです。胸骨圧迫による血流は、心臓を直接圧迫して発生するのではなく(全く否定されている訳ではありませんが)、胸の圧力が変化する事によって発生すると言う説が有力です。結果的に心臓の真上を押す形になっていますが、心臓の真上を押すべきと言う事ではありません。
 出来るだけ足側が良いのですが、足側過ぎると今度は剣状突起が内臓を損傷する危険があります。よって下過ぎてもいけません。

 2000年ガイドラインでは、一番下の肋骨を足側の手で確認し、それを真ん中へたどって、そこが剣状突起と考え、そこから指二本頭側に手の一番足側を置いて圧迫(圧迫の中心は剣状突起から指4本分ぐらい頭側になります)すると言う風になっていました。しかし、この方法は難しく、位置を決めるのに時間がかかっていました。

 2005年ガイドラインからはこれが廃止され、AHAは乳頭間線と胸の正中の線が交差した所を押しましょうと言っていました。

 しかし、また5年経った2010年ガイドラインで変更されました!!

 知りませんでしたが、ヨーロッパ蘇生協議会(以下ERC)は、以前からこの様な乳頭間線を提唱していません。レスキュー呼吸の廃止と言い、ERCに近づいた物が結構ありますね。

 AHAのガイドラインには以下の一文があるだけです(短いので原文も載せます)。

 The rescuer should place the heel of one hand on the center (middle) of the victim's chest (which is the lower half of the sternum) and the heel of the other hand on top of the first so that the hands are overlapped and parallel (Class IIa, LOE B66–69).

 救助者は一方の手の平の付け根を傷病者の胸の真ん中(正中)つまり、胸骨の下半分に置き、もう一方の手の平を平行に重ねるべきである(クラスIIa、LOE B)。

 ERCのガイドライン2010のP.1283には以下のようにあります。

手の位置
 胸骨圧迫を受ける成人に対しては、救助者は両手を胸骨の下半分に置くべきである。講習会などでは、この手の位置を出来るだけ分かりやすい方法で伝えるべきである。例えば「手のひらの付け根を胸の真ん中において、反対の手のひらをその上に重ねます」などと。マネキンで実際に実演して見せる事を推奨する。手の位置決めの基準として乳頭間線を用いる事は適切でない。

 ERCの2005年ガイドラインには以下のようにあります。

 成人の CPRで胸骨圧迫の特定の手の位置を支持する根拠は十分なものではない。以前のガイドラインではある指を胸骨下端に置いて別の手を沿わせて胸骨の下半分の中央を見つける方法を推奨していた。胸骨下半分の胸中央に手を置くことを行って見せる指導をするならば、救助者は”手の踵の部分を胸の中央に、別の手をその上に置く”と言われるともっと早く上記と同じ手の位置を見つけることができると医療従事者向けに示されてきた。これを一般人に広めることは理にかなっている。

 CoSTR2010には以下のようにあります。

胸骨圧迫中の手の位置
 院内、院外心停止の成人と小児において、外部から胸骨圧迫を行う際の手の位置の決め方のある方法が、標準的な方法(例、胸骨の下半分)と比較して予後(心拍再開や生存率など)を改善するだろうか?

手の位置を決める方法
 院外、院内の成人・小児心停止傷病者の蘇生を行う救助者が、推奨される手の位置を決めるための特定の方法を用いる事は、標準的な方法(手を胸部の正中に置くなど)と比較してアウトカム(心肺蘇生開始までの時間、手を放している時間、心拍再開、生存率)を改善するだろうか?

科学に基づくコンセンサス
 成人、小児の心停止において胸骨圧迫を行う際に、2005年ガイドラインで推奨されている手の位置を決める方法(傷病者の胸骨の下半分を圧迫すべき)とは別の方法の使用を指示する比較試験は存在しない。
 CTスキャンを用いた研究では、乳頭間線は乳頭間線は胸骨の下3分の1よりも3cm頭側であった(LOE 5)。別のLOE5の成人の手術患者の研究では、救助者が乳頭間線に手を置いた場合、約半数で剣状突起に近いかその真上に位置しており、時に上腹部にあったと報告されている。
 胸骨の下半分に手を置いて胸骨圧迫を受けているヒトでの経食道心エコーの研究では、この手の位置により、左心室の基部と大動脈弓の付近を最も深く圧迫する事になり、血流の障害を来す可能性が指摘されている(LOE4)。
 LOE5の成人マネキンでの4つの研究で、胸部の正中に手を置いて下さいと指導して圧迫してもらった場合、2005年より前の方法と比較して、手が胸から離れている時間が減ったが、正確さは変わらなかった。乳児のマネキンを用いたLOE5の一つの研究で、推奨される圧迫の位置(乳頭間線より下)では、剣状突起や腹部を圧迫していた。

推奨される治療
 胸骨圧迫を受ける成人に対して、救助者が胸骨の下半分に手を置く事は妥当である。「手を胸部の中央に置き、もう一つの手を重ねて下さい」の用にシンプルな方法で講習を行う事は妥当である。胸骨の下半分に手を実際に置くデモンストレーションも行うべきである。手の位置を決める指標として乳頭間線を用いる事は信頼性が低い。

 日本のガイドラインはこちらの12ページにあります。

 乳頭間線は廃止になる可能性が非常に高いです。

 しかし、胸骨の下半分って、、、、難しくないでしょうか?私のようにメタボな人だとどこまでが胸骨か分からないんでは、、、、、

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