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内視鏡に鎮静は必要か? [医学関連]

 人間ドッグを受けたという記事を書きました。その時に受けた大腸ファイバーと胃カメラ、それからERCPなどの場合に鎮静剤(眠る薬)や鎮痛剤(痛み止め)を使うべきか否か?で議論があります。今回はその事について考えてみましょう。以下鎮静剤と鎮痛剤を合わせて鎮静剤と書かせていただきます。

 まず受ける患者さん側からすれば、検査は楽な方が良いですから、痛かったり苦しかったりするのは避けたいです。よって鎮静剤を打ってもらいたいです。検査中にカメラのモニターを見たいから、鎮静剤は使わないで欲しいという人もいますが。

 医療側からすると、鎮静剤を使う事は色々なデメリットがあります。

・患者さんの協力が得られない
・カメラによる合併症の危険が高い
・鎮静剤による合併症がある
・ベッド移動が大変
・その後の観察をする人員が必要

・患者さんの協力が得られない
 大きな息を吸ってもらったり、体の向きを変えてもらったりする場合がありますが、その時に患者さんが寝ているとちょっと大変です。

・カメラによる合併症の危険が高い
 例えば大腸ファイバーでは、腸が曲がっていますから、無理をすると痛みが来ます。患者さんが痛いといえば、それはファイバーが無理な形で入っているという事で、それ以上押し込むと腸に穴が開いたりする可能性があります。よって、患者さんの痛みをとってしまうという事は危険でもあります。普通にやれば患者さんは痛がらないのだから、、、、、と言う先生もいます。

・鎮静剤による合併症がある
 鎮静剤は呼吸が止まるという副作用があります。呼吸が止まったら、ちゃんと対処しないと患者さんは死んでしまいます。が、内視鏡をする時には部屋を暗くする事も多いので(モニター画面が見やすいようにするため)患者さんの顔色とか分かりにくいです。一応SpO2モニターというのをつけますが、完全ではありません。UpToDateの「Overview of procedural sedation for gastrointestinal endoscopy」と言う文献によれば、0.2〜0.5%の頻度で心肺の合併症が発生しているという事です。

・ベッド移動が大変
 検査後すぐに目が覚めるわけではないので、内視鏡のベッドからしばらく休んでもらうためのベッドに移動させなければなりません。私のように体重が90kg(ありました。完全メタボデです)もあると大変です。

・その後の観察をする人員が必要
 休んでもらっている時に、そのまま放っておく訳にはいきません。下手をすれば呼吸が止まって死んでしまう事もありますので、時々大丈夫かどうか観察が必要です。そのための人員が必要です。

 しかし、胃カメラや大腸カメラは、数年に1回は受けて頂きたい検査です。あんな苦しい検査はもう嫌だ!と言われると困りますので、当院では鎮静剤を積極的に使っています。

 また痛いと言われないよう、カメラの技術も磨いているつもりです。こちらの病院のホームページによれば、9割の人は鎮静が不要であり、その人のうち8割は次回も鎮静剤はいらない、2割の人は副作用がないのならば使って欲しいと言っているという事です。

 酸素を全例に投与すれば、検査中に低酸素になる事を予防できるそうですので、投与しています。Reshefら(PMID8865828)によれば、胃カメラの場合、鎮静を行うと27%の人に低酸素があったのですが、酸素を投与(経鼻で3リットル)すると0%になったそうです。NNTにすれば1÷0.27=3.7であり、非常に有効です。

 検査の時に眠る薬を使うかどうか、、、と言う一般の方には単純と思われることでも、これだけの(本当はもっとたくさん!)議論が必要という訳です。医療は奥が深いです。

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yangt3

循環器科に通う患者さんにも「癌検診は必要」と
お話を常々しているのですが
胃カメラは苦しい、大腸ファイバーはしんどいと
おっしゃいます.いろいろあっても
検査は楽なほうが、皆さんにオススメしやすいですね.
もちろん自分が受けるのも楽なほうがよいです.
私のカメラは先生にお願いしますね(^.^)
by yangt3 (2009-12-13 07:31) 

Kim

yangt3さん、コメント&nice!ありがとうございます。

循環器の患者さんは癌になる確率が多い印象(エビデンスレベル未確定)がありますね。検査を是非受けて頂けると嬉しいですね。

先生の場合には、強力な鎮静をかけて検査を行わせて頂きます。

by Kim (2009-12-13 19:51) 

shiraisi

大腸カメラは、もう二度と受けたくないと思う位トラウマになっています。
あの激痛が嫌です。
胃カメラの際、鎮静剤を使っても苦しい事に変わりはなかったので使わなかったら、かなりの激痛に見舞われました。
先生も、「耐えられなければ鎮静剤入れるよ」と言っていたのに、結局は入れてくれなくて苦しくて辛い思いをしました。
必要性、重要性は分かりますが、大腸カメラは辛いのでお断りしたいです。
(胃カメラは大丈夫です)
by shiraisi (2009-12-13 23:48) 

andante

kim先生今晩は。
先日の検診の結果が来ました。
体重は昨年と変らずだしメタボでもないし、ホッとしました。
ただ、脂質が高かったです。
総コレステロール(238)とLDHコレステロール(167)が基準値より高く、TGは104と過去のデータの半分以下になりました。脂質異常で精検を受けるようにとコメントがありました。アルコールは飲まないし、食事もそこそこバランスが取れていると思っていたのに、さて、何が悪いのでしょう(++)

以前、食道の内視鏡検査を受けた時、ベッドごと検査室まで行き注射をして、何時はじめるんだろうと思っていたら終わりましたよ、と看護師さん。
でも食道の検査なら苦しいかなと思っていたのに、全然記憶がなくて、少し焦りました。
ただ全身汗だくだったので、検査は受けたのだろうって感じで、後で考えるとあの注射で一瞬眠っていたのかな、と思いました。
確かに楽だったけれど、意識のない中ではなんとも不思議な感じがしました。
by andante (2009-12-14 00:35) 

Kim

shiraisiさん、コメント&nice!ありがとうございます。

苦しかったようで大変でしたね。

色々な考えの人がいるので難しいんですね。大事な事は、大腸癌は増えており、早期発見のために検査が必要であると言うことです。便潜血とかはあまり意味がありません(これについてはまた記事を書きますね)。

よってshiraisiさんみたいに二度と検査を受けたくないと思う方が増えるのは良くありません。

が、患者さんが苦しがっても鎮静をしない先生がいるのも事実です。

また詳しく記事を書きますね。

by Kim (2009-12-14 06:11) 

Kim

andanteさん、コメントありがとうございます。

脂質異常は食事だけで起こる訳ではありませんので、精密検査を受けられると良いですよ。

患者さん側からすれば、検査の記憶がないと言うのは気持ちが悪いですよね。それも鎮静の良くない点の一つですね。

これも詳しく書きますが、ケタミンと言う鎮静剤は変な夢を見るらしく、使いにくいようです。

by Kim (2009-12-14 06:14) 

oldDr

Kim先生 鎮静時の合併症に対する救急は院内急変のなるのでしょうか。
鎮静剤の選択や投与量など、大きな学会では、いくつか発表されていたりします。施設による差が大きい分野です。習慣とか歴史は変えにくいものです。
気管支鏡でも、ジャクソンを使用して声帯を目視して噴霧するところ、ネブライザーを行うところ、(海外では)輪状喉頭軟骨穿刺をして局所麻酔剤を注入するところ、など、ほんとに様々です。
ケタミンもよい薬でしたが、法的なことで使用できなくなりました。
院内救急に対応する救急医からは、なにがお勧めの鎮静剤でしょうか。
by oldDr (2009-12-14 11:32) 

Kim

oldDrさん、コメントありがとうございます。

確かにおっしゃるように、施設や検査をされる医師によって違うでしょうね。

個人的には鎮静薬としてはドルミカムが好きです。拮抗薬がありますし、、、、でもかえって暴れたりして良くない事も多いです(^.^)。お勧めの鎮静薬は、、、、、自分が打ってもらったと言う点ではサイレースとオピスタンですね。気持ちよかったです(危ないかも??)。

by Kim (2009-12-14 21:17) 

its.Dr

鎮静法下内視鏡検査の最中も内視鏡をしている医師とは別の医師が専任で被検者とモニターの変化を観察できていれば、鎮静法は許容できるでしょうね。
検査中に専任で医師が患者の状態を観察しておらず事故が発生したときには、責任はまぬがれないでしょうね。
ちなみに、合併症ではなく、偶発症では。

by its.Dr (2009-12-16 14:32) 

Kim

its.Drさん、コメントありがとうございます。

確かに専任の医師が患者さんを観察できれば良いですね。しかし、それができる施設は殆どないでしょう。そうでないと、、、と言われると難しいですね。

合併症と偶発症の違いについて考えたことがなかったので勉強になりました。が、色々調べても同じように書いてある資料が多いです。

違いをご教授いただければ幸いです。

by Kim (2009-12-16 15:22) 

its.Dr

kim先生こんにちは。
広辞苑:合併症;ある疾患に伴って起こった他の疾患。
    偶発 ;偶然に発生すること。思いがけず起こること。
とあり、内視鏡学会などでは用語の使い方として「偶発症」を採用しております。
日本麻酔(科)学会の「安全な麻酔のためのモニター指針 ガイドブック」(克誠堂出版)の「1、現場に麻酔を担当する医師が居て絶え間なく看視すること!」の解説をご一読されることをおすすめします。
by its.Dr (2009-12-16 16:54) 

Kim

its.Drさん、コメントありがとうございます。

丁寧に教えて頂きありがとうございます。内視鏡学会の考え方は、外科医の考えと違うようですね、、、、難しいです。

麻酔学会の本は是非読んでみます!ご教授ありがとうございました!!

by Kim (2009-12-16 17:02) 

TESTUDO

内視鏡が下手くそな医師が少なくないですね。上手さに応じて、☆の数を病院の前に掲示して欲しいモノです。

by TESTUDO (2013-02-24 13:43) 

Kim

TETSUDOさん、コメントありがとうございます。

上手下手というのはなかなか評価が難しいです。患者さんが苦しかったと言っても、100人中一人だったら良いのか、10人に一人ならダメなのか、、、、

内視鏡の目的はきちんと患者さんの検査をすることですので、早期のガンなどを見つけると言うのも重要です。苦しくなくて直ぐ終わるけど、見逃しが多いと言うのは我々の側からしたら「上手い」とは言いがたいです。

by Kim (2013-02-25 07:38) 

島田尚子

昨日、大腸の内視鏡検査を受けたのですが、暴れたので検査ができなかったと聞かされました。
鎮静剤をうたれた時、以前に受けた時は、先生に話しかけられているうちに意識がなくなったのですが、今回は何も話さないなぁと思っているうちに寝たようで、ベッドで起こされるまで、まったく覚えがありませんでした。
来月には胃カメラを受ける予定です。
今回のことで、また鎮静剤で暴れるのではないかと、不安になります。

原因と対処法があればおしえていただきたいのですが。
宜しくお願いします。
年齢は69歳です。
by 島田尚子 (2014-06-14 20:09) 

Kim

島田さん、コメントありがとうございます。

ご心配だとは思いますが、気にされないのが一番です。誰でも鎮静剤を打たれたら自分じゃなくなります。暴れても気にしないでください。

と言うか、暴れたって本人に報告するのはルール違反だと思います。私はそんなこと伝えません。

by Kim (2014-06-15 00:56) 

高瀬

内視鏡を調べていてこちらのブログをたどり着きました。先生に伺いたいことがあり、ぜひコメント頂ければと思い書き込みます。

ネットで体験談を読むと「効かなくて苦しんだ」「途中で目が覚めてゲホゲホした」等、鎮静剤が効かない場合もあるのだと感じます。

そこで気になるのが、「もし検査中起きてしまったらどうするのか」ということです。呼吸はどの病院でも測定していると思います。ですが、眠り・鎮静の深さは測定するのでしょうか。

検査中に起きてしまうというアクシデントが起きた時、察知できるのか。起きた・眠りが浅くなったことを察知したら、すぐに鎮静剤を追加投与して再度眠らせる、というように上手くできるのか。

鎮静がどの程度頼れるものかわからず不安です。もし宜しければ、お返事頂けたら大変嬉しく思います。
よろしくお願い致します。
by 高瀬 (2015-07-01 18:37) 

Kim

高瀬さん、確かにご心配ですよね。麻酔や鎮静に関しては、途中で目が覚めたらどうしようとか、変なことを言ったらどうしようとか思いますよね。

安心してください。まず変なことを言う確率は低いですし、言っても大丈夫です。それを患者さんに分かるように伝えるような病院は二度と行かないでください。医療従事者として人として最低です。

途中で目が覚めるという点ですが、確かに眠りの深さは測ることは出来ますが、胃カメラなどで測っている施設はほとんどないでしょう。途中で起きたら患者さんが暴れたり苦しがったりしますので、それで判断するという感じでしょうか。

で、鎮静剤を追加投与についてですが、これは私の個人的な考えです。一般的な医師の考えではなく、いわば暴言ととっていただきたいです。高瀬さんに個人的にメールする手段がないので仕方なく書きます。あくまで暴言です。こうしない医者がダメだという事ではありません。

私は今の施設では胃カメラなどをしませんが、以前はやっていました。鎮静は私は必須と考えていますので、鎮静します。緊急胃カメラは鎮静しないという人が多いですが、私は緊急であろうと苦痛を伴う処置はしてはいけないと言う考えですので、鎮静します。点滴を刺したり、採血したりは我慢して頂きますが、それ以外は鎮静剤を使います。
幸い今までそれで大変なことになったことは一度もありません。運が良いだけかもしれません。
途中で患者さんが苦しがったりしないように十分注意して投与量を調節します。鎮静が切れたと考えられればもちろん追加します。

が、色んな医者がいます。私はこれらの医者には自分で受けてみたら?と言いたいですが、言う機会もないですし、言っても喧嘩になるでしょうから、ここで書くだけです(^^)。
・鎮静剤を打つと言っても、ちょこっとしか投与しない。
 だから効かないんです。
・痛みを伴う処置には痛み止めを使うべきですが、鎮静剤を使う。
 鎮静剤の中には、痛みを感じやすくする薬もあります。寝てしまえば分からないから良いだろうってのは良くないと思います。
・鎮静が切れても追加しない。
 だったら最初から鎮静しないべきでは?

他にもカメラだけでなく、色々な処置を、鎮静や麻酔の下にやればいいのに、、、、、、、と思うことが多いです。そう言う先生は、だいたい麻酔が危ないとか、色々言われます。が、ほとんどは自分が受けたことがないからです。自分が受けて苦しめば変わると私は信じています。事実昔の上司は、ある薬は絶対に筋肉注射が良いんだ!と言っていたのですが、自分が患者になってそれを受けたら、うちに来た研修医に、静注にしてと頼んだそうです。以後その先生は筋注を辞めて静注にしてました。

危ないから鎮静しないという先生は、危ない内視鏡(確率は低いですが内視鏡そのものでも色々不利益が起こります)を何故やっているのか?と思います。必要だから内視鏡をするんですよね。じゃあ鎮静は必要ないって考えているんですか???患者さんの事を考えてますか?と思います。

私個人の暴言でした。

by Kim (2015-07-01 19:20) 

高瀬

すぐにお返事したかったのですが、長文でしたので、少し考えてしまいました。

内視鏡で眠りの深さが測られることはないんですか。がっかりです。追加投与するということは、検査中眠りが浅くなってカメラに気付いてしまった時な訳で…対策としては最初から多めに投与してもらうしかなさそうですね。それこそ「ちょこっとしか投与しない」「鎮静が切れても追加しない」医者は避けたいものです。

「苦痛を伴う処置はしてはいけない」先生のお考えに共鳴致します。海外でも内視鏡を鎮静剤なしで行われることは絶対ないと思います。日本では「危ないから鎮静しない」というリスク重視の考えで、鎮静剤なしが標準で、使われても、ごく軽いものだと思います。

鎮静剤の不利益もあるにはあるでしょう。緊急事態に対応できる麻酔の知識あるスタッフが、内視鏡を行う小規模な病院にいるとも思いません。そうは言っても、私のような「あの管を意識あるまま飲み込むなんてありえない」と思う人は決して少数ではないと思います。もっと内視鏡時の鎮静剤使用に積極的な風潮になってほしいと願います。
by 高瀬 (2015-07-02 17:19) 

Kim

高瀬さん、おっしゃるとおりです。

でも、確かに諸外国では鎮静による事故が日本より多いと聞いています。この辺は色々難しいところです。

確かに検査で重篤な合併症を起こしてはいけません。しかし、胃カメラなどは毎年うけて頂かないといけません。苦しいからイヤだと言われて、癌が見つかるのが遅くなると言うのも困ります。

その辺は担当医のさじ加減であり、鎮静をしない医師が直ちにダメな患者思いでない医師だとは言えません。

医師の方とこれを議論すると、一晩では足りません。

by Kim (2015-07-03 10:13) 

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