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検査を全員にする必要はありません [医学関連]

 新型コロナウイルスのPCR検査をすべきかどうかについて色々情報が流れています。良い機会なので、是非検査の性質について知って戴きたいです。以前にもこの検査の性質については書いているのですが、何度書いても良いと思うので書きます。

 感度(sensitivity)と特異度(specificity)という言葉が出てきます。検査の正確さを示す指標の一つです。これは以下のようなことをして算出します。以下の例えは、分かりやすいようにと考えただけで、差別などの意味合いはありません。また、検査はその程度のものだとお考えください。ブラジャーのサイズがBカップ以上なら女性であると言う検査を例に考えます。この例えがお嫌いであれば、以下は読まない方が良いと思います。

 男性のシンボルがついている人は男性、付いていない人は女性と定義します。こう言った定義は大切です。例えば、肺炎の研究ならば、この様な条件を満たした人を肺炎とした等と明らかにしなければなりません。
 そして、ある病院の職員全員に「ブラジャーのサイズを測定し、Bカップ以上ならば女性である」という検査をしたとします。その病院には、職員が1000人いて、内訳は男性が400人、女性が600人だったそうです。検査をしてみたところ、以下のような結果が出たとします。

                女性   男性  合計
Bカップ以上(検査陽性)    540    40  580
Aカップ(検査陰性)       60   360  420
  合計            600   400  1000

 感度は病気である(この場合、男性のシンボルがない人、定義上女性)人のうち、検査で陽性となる人の割合で、540÷600=0.9です。90%とも言います。
 特異度は病気でない(この場合、男性のシンボルがある人、定義上男性)人のうち、検査で陰性となる人の割合で、360÷400=0.9で、90%です。この感度、特異度は検査によって様々です。一般的にどちらも高い検査はあまりありません。例えば、Dカップ以上を女性とすると言う風に検査の閾値を変えれば、特異度は上がりますが、感度が低下します。検査が陰性だった場合に、病気でないと言える可能性が低くなります。

 感度、特異度は病気がある、ないことが分かっている集団で、どのぐらい病気の診断が出来るかという指標です。病気の可能性(確率)が分かっていると言うのがミソです。

 しかし、我々医師が知りたいのは、病気の可能性が分からない人での病気の可能性です。目の前にいる人が病気かどうかを知りたいのです。検査をしたら陽性だった、この人が病気である可能性はどのぐらいか?を知りたいのです。上の表であれば、検査をする前は60%だった可能性(これを事前確率と言います)が、検査が陽性であれば、540÷580=93%になりますが、これは事前確率が分かっているから出た数字です。

 事前確率が何%かは色々な条件で変わります。上記の検査を、男子校でやったとしましょう。生徒も職員も含めて1000人いて、女性は20人だったとします。女性である可能性は2%です。

                女性   男性  合計
Bカップ以上(検査陽性)     18    98   116
Aカップ(検査陰性)       2    882  884
  合計            20   980  1000

のようになりますので、検査が陽性だった場合、18÷116=15%で、85%の人は偽陽性です。2%の可能性が15%に上昇していますので、可能性は高くなっていますが、病気の可能性が15%あると言われて、私は病気なのか!と思えますか?

 他にも女性と男性の割合を色々変えて計算して戴ければ分かりますが、事前確率が低い場合、検査が陽性であっても、偽陽性が多いことが分かります。医師は色々な話を聞いたり、診察をしたりして、事前確率を推定し、高いと思われた場合に検査をしています(そうでない場合ももちろんありますが)。上記の例で言えば、女性が多そうな集団だと考えた場合にのみ検査を行うと言うことになります。

 新型コロナウイルスのPCR検査は感度、特異度がもっと低い(感度や特異度が90%もある検査はそんなにありません)と言われています。むやみに検査をしても意味がないことがお分かりいただけたでしょうか。それから、新型コロナウイルスに感染していることをどのように定義したのかもチェックすべき項目です。私はその定義を知りません。ある病原体に感染していると判断するのは意外に難しいです。病原体がいただけでは感染と言いませんし、患者さんが苦しんでいる病態が病原体のせいだと確定することもなかなか難しいです。感染とは病原体が体に侵入して増殖し、悪さをしているということなのですが、それを証明するのは難しいです。

 新型コロナウイルス感染の可能性が高い(例えばクルーズ船に乗っていたなど)場合、PCR検査が陰性であっても偽陰性の可能性が高いです。逆に新型コロナウイルス感染の可能性が低い場合(たぶん読んでいただいているあなたはそうでしょう)に、PCR検査が陽性であっても偽陽性の可能性が高いです。検査が陰性だったから、自由に行動していいとは言いがたいですし、検査が陽性だったから感染しているとも言いがたいのです。

 上手く説明できたかどうかは分かりませんが、理解できなくても大丈夫です。お医者さんでもこの事を理解できない人がおられますので。

 また、感度を別の意味で使っている人もいますので、言葉の定義を確認する必要があります。例えば、感度を検出感度と言う意味で使う人がいます。が、感度と検出感度は別です。上記の例で言えば、検出感度はBカップ以上とかDカップ以上ということであり、感度は、検出感度を設定すると、女性のうち検出感度以上になる人の割合です。

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