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電気ショックのエネルギーは上げていくべきか? [CPRの基礎]

 心肺停止の患者さんの心電図波形が心室細動だったり心室頻拍だったりした場合、電気ショックが適応となります。胸骨圧迫の中断を出来るだけしないようにして、でも出来るだけ早く電気ショックを行います。心室細動や心室頻拍は、心筋がエネルギーを無駄に使っており、放置すると心静止になって心拍再開率が低下するからです。

 以前のガイドラインでは、電気ショックのエネルギーはだんだん上げていく事になっていました。2000年のガイドラインまでです。二相性の除細動器が出来たりして、色々で2005年のガイドラインからは、最初から最大のエネルギーでショックするように変更となりました。2010年ガイドラインでは、大きな変更はありませんでしたが、現在作られている二相性の除細動器は、もっと高エネルギーが与えられるようになってきたので、二回目以降のショックのエネルギーは増やしても良いという風に変わりました。

 では、最新のガイドラインである2015ではどうなったのでしょうか???

 まず、世界の蘇生のガイドラインの基本となる文書であるCoSTRから見てみましょう。CoSTR2015には以下のようにあります。

Fixed versus escalating defibrillation energy levels (ALS 470)
 Among adults who are in VF or pVT in any setting (P), does any specific defibrillation strategy, such as fixed shock energy level (I), compared with standard management (or other defibrillation strategy), such as escalating shock energy level (C), change survival with favorable neurologic/functional outcome at discharge, 30 days, 60 days, 180 days, and/or 1 year; survival only at discharge, 30 days, 60 days, 180 days, and/or 1 year; ROSC; termination of arrhythmia (O)?

除細動のエネルギー量は固定すべきか?増やすべきか?
 様々な状況で心室細動や無脈性心室頻拍になっている成人患者において、ショックエネルギーの量を固定して行うような特定の治療戦略が、他の戦略と比較して生存率やアウトカムを変えるだろうか?

Introduction
 In 2010, we recommended that for second and subsequent biphasic shocks, the same initial energy level was acceptable, but that it was reasonable to increase the energy level when possible (i.e., with manual defibrillators).

イントロダクション
 2010年ガイドラインでは、二回目以降の二相性電気ショックでは、エネルギー量を固定して行うことが容認されると推奨した。しかし、可能であればエネルギー量を増やすことは合理的である。

Consensus on science
 For the critical outcome of survival with favorable neurologic outcome at hospital discharge, we identified very-low-quality evidence (downgraded for serious risk of bias, serious imprecision, and serious indirectness) from 1 RCT enrolling 221 OHCA patients showing no benefit of one strategy over the other (OR, 0.78; 95% CI, 0.34–1.78).
 For the critical outcome of survival to hospital discharge, we have identified very-low-quality evidence (downgraded for serious risk of bias, serious imprecision, and serious indirectness) from 1 RCT enrolling 221 OHCA patients showing no benefit of one strategy over the other (OR, 1.06; 95% CI, 0.52–2.16).
 For the critical outcome of ROSC, we have identified very- low-quality evidence (downgraded for serious risk of bias, serious imprecision, and serious indirectness) from 1 RCT enrolling 221 OHCA patients showing no benefit of one strategy over the other (OR, 1.095; 95% CI, 0.65–1.86).

科学に基づくコンセンサス
 221人の院外心肺停止患者を対象とした1つの無作為化試験によれば、非常に質の低いエビデンスではあるが、退院時の良好な神経学的アウトカムを伴う生存率、単なる生存率(寝たきりでもいいという事でしょう)、心拍再開率のに関して、どちらが優れているということは示されなかった。

Treatment recommendation
 We suggest if the first shock is not successful and the defibrillator is capable of delivering shocks of higher energy, it is reasonable to increase the energy for subsequent shocks (weak recommenda- tion, very-low-quality evidence).

推奨される治療
 初回ショックが成功しなかった場合、除細動器がより高いエネルギーを与える事が可能なのであれば、エネルギー量を増やすことは合理的である(弱い推奨、非常に質の低いエビデンス)。

 日本のガイドラインには以下のようにあります。

 最初の電気ショックが成功せず、より高いエネルギー量で電気ショックを行う能力を除細動器が有する場合には、引き続いて実施される電気ショックでエネルギー量を上げることは合理的であることを提案する(弱い推奨、非常に低いエビデンス)。

 弱い推奨、非常に低いエビデンス、、、、、、では何とも言いがたいですね。困りました。

 ヨーロッパ蘇生協議会のガイドラインには以下のようにあります。

 There remains no evidence to support either a fixed or escalating energy protocol, although an escalating protocol may be associated with a lower incidence of refibrillation (see below). Both strategies are acceptable; however, if the first shock is not successful and the defibrillator is capable of delivering shocks of higher energy it is reasonable to increase the energy for subsequent shocks.
 電気ショックのエネルギーを固定するか増やすか、どちらを支持するかというエビデンスは存在しないが、再度電気ショックを行う必要がある可能性は、後者の方が少ない可能性がある。どちらの方針も許容されるが、初回の電気ショックが成功せず、除細動器がさらに高エネルギーを与えることが出来るのであれば、二回目以降のショックではエネルギー量を増やすことが合理的である。

 日本のガイドラインと似てますね。と言うか、昔から日本のガイドラインは、いいところ取りなので、ヨーロッパのと似た推奨の文章が多いです。

 AHAのガイドラインには以下のようにあります。

 It is reasonable that selection of fixed versus escalating energy for subsequent shocks be based on the specific manufacturer’s instructions. (Class IIa, LOE C-LD)
 If using a manual defibrillator capable of escalating energies, higher energy for second and subsequent shocks may be considered. (Class IIb, LOE C-LD)
 二回目以降の電気ショックのエネルギー量を増やすか、増やさないかについてはメーカーの説明書通りに行うのが合理的である。
 手動式除細動器のエネルギー量を増やすことが出来るのであれば、二回目以降のショックではエネルギー量を増やす事を考慮しても良い。

 AHAはメーカーに責任を転嫁しています、、、、、、たぶん(^^)。

 と言う事で、明らかに差はないのですが、まあ弱いより強い方がいいんじゃない?という感じでしょう。電気ショックをびんたに例えたインストがいました(二相性は、往復びんた)が、どうせびんたするなら強い方がいいでしょう、、、、、、、たぶん。

 二回目以降の電気ショックのエネルギー量は、増やして行うのがいいのかも知れませんね。が、今の器械では、ほぼ90%が一回の電気ショックで除細動出来るそうですから、あまり気にしなくてもいいのかも知れません。胸骨圧迫の質が悪ければ、心室細動も続きませんし、、、、、、、
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