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インピーダンス閾値装置 [CPRの基礎]

 ITDを見たことがありますか?日本語ではインピーダンス閾値装置と言うなんじゃそりゃ?って名前のものです。

 こちらの装置です。

 これは心肺蘇生中の気道確保器具に付けて、空気の流入を妨げる装置です。AHAのガイドライン2010ではクラスIIbになっています。昨年から日本で売り出されているそうです。昨日救急医学会の機器展示で見せてもらいました。
 AHAのガイドラインはこちらが原文です。

 以下は私の下手な訳です。本が売られていますから、そちらをどうぞ。

インピーダンス閾値装置(impedance threshold device (ITD))

 ITDは、気管挿管チューブや喉頭上気道確保器具やフェイスマスクに装着され、圧を感知するバルブである。ITDは心肺蘇生の圧迫解除の間の空気の肺への流入を制限する。それにより胸腔内圧の陰圧を作りだし、心肺蘇生中の心臓への静脈還流を増やし、心拍出量を増やす。このバルブは陽圧換気や自然な呼気の場合には働かない。

 ITDはもともと、ACD-CPR中のバッグマスク換気中のカフ付き気管内チューブに用いられたものである。ITDとACD-CPR装置は静脈還流をお互い増やす方向に働くと考えられている。ACD-CPR中のITDの使用の有無について検討したある無作為化研究では生存率に有意差を認めなかったが、別の研究ではITDを用いると24時間後生存率やICU退室率を改善することが示されている。

 ITDは通常の心肺蘇生にも使われている。気管チューブにはもちろんであるが、マスクがしっかり装着されるのであれば、フェイスマスクにも用いられる。通常の心肺蘇生にITDを用いても生存率に差を認めなかったとする報告もあるが、後ろ向きコホート研究ではITDを用いると生存入院率が向上すると報告されている。通常の心肺蘇生とACD-CPRのデータを蓄積したメタ解析では、成人の院外心肺停止患者に対してITDを使用する事により、心拍再開率と短期の生存率が向上することが示されているが、生存退院率や神経学的に問題のない生存退院率などは向上していなかった。

 2005年ガイドラインに基づいた心肺蘇生にITDを追加した蘇生法を対照とした3つのコホート研究では院外心肺停止において生存退院率を改善したと報告しているが、これはITDによる効果だと断定するには十分なデータではない。ITDは、訓練された者が使用するのであれば、成人の心肺停止における補助的な方法として考慮されても良い(クラスIIb)。

 解説です。

 静脈還流と心拍出量の関係
 心臓はある程度受け身の臓器で、全身から帰ってきた血液を、その量だけ全身に送り出します。出血したりして帰ってくる血液が少なくなると、心臓は少しさぼってしまうと言う訳です。
よって静脈還流(心臓に戻ってくる血液の量)が多くなると心拍出量(心臓が送り出す血液の量)が増えます。
 また胸腔はポンプのような働きをします。陰圧がかかれば当然静脈還流は増えます。よってトイレの掃除の道具みたいなので胸を引っ張り上げるみたいな事をする場合もあります。

 胸骨圧迫をすると胸腔内圧が陽圧になり血液が送り出されます。圧迫を解除すると陰圧になりそうになりますが、気管チューブから空気が入ってきますので陰圧になりません。
 ITDはこの時だけ空気が入らないようにバルブを閉じる器械です。なのに、外から空気を強制的に入れようとしている場合には、弁が閉じないんです。どんな仕組みなんでしょうね、、、、、

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さうざんバー

凄い装置ですね~(@0@)理論はわかりますが、何故そうなっているのかは、企業秘密でしょうね(^^;)でも、ちょっと知りたいです(^^)v

by さうざんバー (2012-11-14 19:31) 

Kim

さうざんバーさん、コメントありがとうございます。

考えた人はすごいですよね!比較的単純そうなんですがね。

by Kim (2012-11-14 20:35) 

すぐるん


そんなすごい装置があるんですか(´Д` )

すいません、質問なのですが心房細動により左心房に血栓が出来、脳や腹部の動脈、下肢の動脈に詰まることがあると習ったのですが、何故、血栓は左心房に出来るのですか?右心房内には出来ないのでしょうか?時間がある時で良いので教えてください、お願いします!
by すぐるん (2012-11-14 23:29) 

Kim

すぐるんさん、コメントありがとうございます。

ご質問の件ですが、右の心房にも出来ますよ。UpToDateの「Overview of acute pulmonary embolism(急性肺塞栓の概要)」には「PE refers to obstruction of the pulmonary artery or one of its branches by material (eg, thrombus, tumor, air, or fat) that originated elsewhere in the body.(肺塞栓は肺動脈やその枝が体の別の部分からやってきた物質(血栓、腫瘍、空気、脂肪など)によって閉塞する疾患である)」とか「Most PE arise from thrombi in the deep venous system of the lower extremities. However, they may also originate in the right heart or the pelvic, renal, or upper extremity veins.(肺塞栓は下肢の深部静脈由来であるが、右心、骨盤、腎、上肢の静脈由来のこともある)」とあります。

右心房は元々血流が遅く、鬱滞しにくいのではないでしょうか?血栓は血液が鬱滞し、血管壁に異常があったりすると発生しやすいです。

ちなみに鬱滞によって発生する血栓はフィブリンの関与が強く、ワーファリンなどが適応となります。通常静脈に多いですが、左心房はうったいですから、、、、、

by Kim (2012-11-15 12:05) 

すぐるん

教えて頂き有難うございます!
血液の流れが元々、遅いから
鬱滯しにくいので
右心房には出来にくいんですねー!
医学って難しいですが、理屈を
覚えると面白いですね!
ほんとに有難うございましたー!
by すぐるん (2012-11-16 21:41) 

Kim

すぐるんさん、コメントありがとうございます。

違うかも知れませんので、分かったら教えてくださいね!

by Kim (2012-11-16 22:50) 

ささっく

こんにちは。

自然な呼気でも働かない(自然の呼吸は妨げない)のがすごい作りですね。
不思議です!

やはり、マスクの場合、胸骨圧迫の間もずっと、顔にフィットする様に押さえていなければならないのでしょうね
by ささっく (2012-11-17 18:38) 

Kim

ささっくさん、コメントありがとうございます!

あくまでこの装置を使う場合です。

普通の時にはどっちでも良いと思います。気道確保は必要でしょうが、、、、
by Kim (2012-11-17 23:00) 

スヌーピーママ

はじめまして。
ナースしてます。
とても勉強になります。
これからも拝見させてください。
by スヌーピーママ (2012-11-23 18:47) 

Kim

スヌーピーママさん、ありがとうございます。

いつでも見ていただき、ご意見いただければ幸いです!

by Kim (2012-11-23 22:52) 

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