いつまで蘇生を続けるべきか? [CPRの基礎]
今回はまじめな話題です。少し不真面目になっていますが、分かりやすいようにと考えた末の判断です(と言うほどでもありませんが)。
昨日の記事では心肺蘇生をして人を助けた話を載せましたが、、、、、、心肺蘇生は成功しない方が多いです。残念ですが、心臓が一度止まったら、それだけで心臓が再び動き出す可能性は半分以下になります(手術などで止める場合は別です)。病院の外で止まった場合には、一般的に社会復帰できる可能性は10%あるかないかです。
よって、心肺蘇生には、いつそれを辞めるか?と言う問題がいつもつきまといます。昨日の記事にあったように、蘇生を辞めると言うことは、その人の命がそこで終わると言うことで、医師の最も辛く、重大な判断の一つです。渡辺淳一さんの小説「少女の死ぬ時」には、キリギリス(だったと思いますが)が2回目に鳴いた時に蘇生を辞めると言う指導医と若い先生のやりとりが書かれていますが、実際の現場では難しいところです。(100−年齢)分蘇生を試みてもダメならあきらめるという話を研修医の時に聞いたことがあります。
蘇生を辞めたら心拍が再開したと言う報告もある(蘇生中の過換気が原因ではないかと考えられているようですが)みたいですし、、、、、
どうしたら良いのでしょうか?
まず、世界中の救急オタクのバイブルCoSTR2010からです。コスターと読みます。こちらの終わりの方にあります。英語ですので日本語にしてみます。
蘇生を中止する条件
成人の傷病者において、自己心拍再開(あるいは無駄な蘇生努力だと)を予想できる臨床的決断ルールは存在するか?
科学に基づくコンセンサス
ある質の高い成人を対象とした研究では、一次救命処置を中止するルール(ショックが不要な波形である、救急隊に目撃されていない心停止である、心拍再開が認められない)は、救急隊(AEDの使用しか出来ない)により用いられた場合には死の予想が可能であると報告している。このルールに従った場合の生存率は0.5%(95%信頼区間0.2ー0.9)であった。二つの追試が行われ、このルールの正しさが示されている。
さらなる成人における追試では、現場で心拍再開が認められない、ショック不要の波形、心停止が目撃されていない、バイスタンダーCPRがされていない、救急通報までの時間、患者の背景などの因子によって長時間の蘇生が意味をなさない事が示されている。
二つの院内、一つの救急部での検討では、蘇生の中止ルールの信頼性は証明されなかった。
推奨される治療
成人傷病者における病院前心肺蘇生を中止するガイドラインを作るための前向き研究が求められている。
様々な医療従事者(例えば院内のスタッフ)に対するルールは、方針決定の曖昧さを減らすことに役立つかも知れない。しかし、適応する前には前向きに検討、証明されるべきである。
今後の課題
新生児、小児、成人において、いつ心肺蘇生を始めるべきか。
小児と新生児において、いつ心肺蘇生を辞めるべきか。
二次救命処置を担当する者のための蘇生中止基準の作成
ちなみに、前向きとか後ろ向きというのは、気持ちの問題ではありません(^^)。後ろ向き研究とは、「AKB48のメンバーで全てのシングルの選抜に選ばれているのは、こじはるである」というような感じです。後ろ向き研究は、過去のことを調べて、こじはるはじゃんけんに強い!中間発表では順位が低い、、みたいな事から結論を出します。よって、今後もこじはるが選抜に選ばれるかどうかについての保障はありません(多少はありますが)。9月にまたじゃんけん選抜があるそうですが、負ければ選抜から外れます(が勝って欲しいです)。1年前の段階では、あっちゃんとこじはるでしたが、昨年のじゃんけん選抜であっちゃんがもれました。
前向き研究とは、こう言う条件を作って今後検討してみるという研究です。例えば、劇場版CDは奇数枚申し込むと当たる可能性が高いと言う仮説を立てて、今後、奇数枚申し込んだらどうなるかを調べます。
当然ですが、前向き研究の方が信頼度が高いです。だからこのCoSTRでも前向き研究が期待されると書かれているのです。つまり、心肺停止が目撃されず、一度も心拍再開せず、波形がショック適応でないと言う3つの条件を満たした場合、心肺蘇生は中止し、本当に死亡していたかを調査しなければならないと言うことです。しかし、こう言う研究はなかなか難しいです。3つの条件を満たしたが生きているという人がいないとも言えず、蘇生の中止は重大な不利益をもたらしますので、、、、
さて、ヨーロッパ蘇生協議会のガイドライン2010はこう述べています。
蘇生をいつ中止するか
多くの蘇生行為は成功しないので、中止しなければならない。蘇生の中止を決定するいくつかの因子がある。これらは、既往歴やいくつかの条件(心停止からバイスタンダーや医療従事者による蘇生の開始までの時間、最初の心電図波形、電気ショックまでの時間、高度救命処置中の心静止の時間、不可逆的な心停止の原因、心拍再開が得られないなど)から予想される予後などが含まれる。
多くの症例、特に院外心肺停止において、心停止の原因となった疾患は不明で、推測も難しい。よって情報を集めながら蘇生を開始すべきかどうかの決断をしなければならない。患者の基礎疾患が蘇生が無意味であると断言できる事が明らかで、全ての蘇生努力をしても心静止が続いているのであれば、蘇生は中止すべきである。事前指示(生前に蘇生はして欲しくないなどと宣言しておく)などの情報が得れるかも知れないし、倫理的に問題なく蘇生を中止する事ができるかも知れない。
一般的に心室細動が続いている限り蘇生は継続すべきである。治療可能な原因がなく、治療が継続されているにも関わらず、心静止が20分以上続いている場合には、蘇生を中止することは一般的に受け入れられている。もちろん、例外はあるが、それらは個々に検討されるべきである。最終的には、救命処置に反応がないなどの臨床的な判断に基づいて決定される。心原性の院外心肺停止では回復するのであれば、救急現場で心拍再開する事が多い。病院への移送中に心拍が再開せず、心肺蘇生を必要とする心肺停止患者は、神経学的に問題なく生存することはめったにない。
患者が小児であれば、より長時間蘇生を続けるであろう。しかし、これは科学的な見地に基づいていない判断であり、検討が進められている。それにもかかわらず、小児の蘇生というストレスのかかる状況での判断は難しいことが理解できる。小児では、虚血による脳細胞の障害からの回復能力が高いのではないかと言われているが、証明されていない。 もし、心拍のない新生児を診察し、10分異常脈拍が戻らなければ、蘇生を中止することは適切である。
AHAのガイドライン(疲れたので全文引用はやめます、、、、)は「The National Association of EMS Physicians (NAEMSP) suggested that resuscitative efforts could be terminated in patients who do not respond to at least 20 minutes of ALS care.」と言っています。NAEMSP(と言う学会でしょうか)は、高度救命処置を20分続けても反応のない患者には、蘇生努力を中止しても良いと提示しています。という感じでしょうか。
よって、これらの文献からすれば、20分やってもだめなら中止を検討しても良いという事になるでしょう。もちろんですが低体温や中毒の患者さんはもっと長くやらなければなりません。
昨日の記事では心肺蘇生をして人を助けた話を載せましたが、、、、、、心肺蘇生は成功しない方が多いです。残念ですが、心臓が一度止まったら、それだけで心臓が再び動き出す可能性は半分以下になります(手術などで止める場合は別です)。病院の外で止まった場合には、一般的に社会復帰できる可能性は10%あるかないかです。
よって、心肺蘇生には、いつそれを辞めるか?と言う問題がいつもつきまといます。昨日の記事にあったように、蘇生を辞めると言うことは、その人の命がそこで終わると言うことで、医師の最も辛く、重大な判断の一つです。渡辺淳一さんの小説「少女の死ぬ時」には、キリギリス(だったと思いますが)が2回目に鳴いた時に蘇生を辞めると言う指導医と若い先生のやりとりが書かれていますが、実際の現場では難しいところです。(100−年齢)分蘇生を試みてもダメならあきらめるという話を研修医の時に聞いたことがあります。
蘇生を辞めたら心拍が再開したと言う報告もある(蘇生中の過換気が原因ではないかと考えられているようですが)みたいですし、、、、、
どうしたら良いのでしょうか?
まず、世界中の救急オタクのバイブルCoSTR2010からです。コスターと読みます。こちらの終わりの方にあります。英語ですので日本語にしてみます。
蘇生を中止する条件
成人の傷病者において、自己心拍再開(あるいは無駄な蘇生努力だと)を予想できる臨床的決断ルールは存在するか?
科学に基づくコンセンサス
ある質の高い成人を対象とした研究では、一次救命処置を中止するルール(ショックが不要な波形である、救急隊に目撃されていない心停止である、心拍再開が認められない)は、救急隊(AEDの使用しか出来ない)により用いられた場合には死の予想が可能であると報告している。このルールに従った場合の生存率は0.5%(95%信頼区間0.2ー0.9)であった。二つの追試が行われ、このルールの正しさが示されている。
さらなる成人における追試では、現場で心拍再開が認められない、ショック不要の波形、心停止が目撃されていない、バイスタンダーCPRがされていない、救急通報までの時間、患者の背景などの因子によって長時間の蘇生が意味をなさない事が示されている。
二つの院内、一つの救急部での検討では、蘇生の中止ルールの信頼性は証明されなかった。
推奨される治療
成人傷病者における病院前心肺蘇生を中止するガイドラインを作るための前向き研究が求められている。
様々な医療従事者(例えば院内のスタッフ)に対するルールは、方針決定の曖昧さを減らすことに役立つかも知れない。しかし、適応する前には前向きに検討、証明されるべきである。
今後の課題
新生児、小児、成人において、いつ心肺蘇生を始めるべきか。
小児と新生児において、いつ心肺蘇生を辞めるべきか。
二次救命処置を担当する者のための蘇生中止基準の作成
ちなみに、前向きとか後ろ向きというのは、気持ちの問題ではありません(^^)。後ろ向き研究とは、「AKB48のメンバーで全てのシングルの選抜に選ばれているのは、こじはるである」というような感じです。後ろ向き研究は、過去のことを調べて、こじはるはじゃんけんに強い!中間発表では順位が低い、、みたいな事から結論を出します。よって、今後もこじはるが選抜に選ばれるかどうかについての保障はありません(多少はありますが)。9月にまたじゃんけん選抜があるそうですが、負ければ選抜から外れます(が勝って欲しいです)。1年前の段階では、あっちゃんとこじはるでしたが、昨年のじゃんけん選抜であっちゃんがもれました。
前向き研究とは、こう言う条件を作って今後検討してみるという研究です。例えば、劇場版CDは奇数枚申し込むと当たる可能性が高いと言う仮説を立てて、今後、奇数枚申し込んだらどうなるかを調べます。
当然ですが、前向き研究の方が信頼度が高いです。だからこのCoSTRでも前向き研究が期待されると書かれているのです。つまり、心肺停止が目撃されず、一度も心拍再開せず、波形がショック適応でないと言う3つの条件を満たした場合、心肺蘇生は中止し、本当に死亡していたかを調査しなければならないと言うことです。しかし、こう言う研究はなかなか難しいです。3つの条件を満たしたが生きているという人がいないとも言えず、蘇生の中止は重大な不利益をもたらしますので、、、、
さて、ヨーロッパ蘇生協議会のガイドライン2010はこう述べています。
蘇生をいつ中止するか
多くの蘇生行為は成功しないので、中止しなければならない。蘇生の中止を決定するいくつかの因子がある。これらは、既往歴やいくつかの条件(心停止からバイスタンダーや医療従事者による蘇生の開始までの時間、最初の心電図波形、電気ショックまでの時間、高度救命処置中の心静止の時間、不可逆的な心停止の原因、心拍再開が得られないなど)から予想される予後などが含まれる。
多くの症例、特に院外心肺停止において、心停止の原因となった疾患は不明で、推測も難しい。よって情報を集めながら蘇生を開始すべきかどうかの決断をしなければならない。患者の基礎疾患が蘇生が無意味であると断言できる事が明らかで、全ての蘇生努力をしても心静止が続いているのであれば、蘇生は中止すべきである。事前指示(生前に蘇生はして欲しくないなどと宣言しておく)などの情報が得れるかも知れないし、倫理的に問題なく蘇生を中止する事ができるかも知れない。
一般的に心室細動が続いている限り蘇生は継続すべきである。治療可能な原因がなく、治療が継続されているにも関わらず、心静止が20分以上続いている場合には、蘇生を中止することは一般的に受け入れられている。もちろん、例外はあるが、それらは個々に検討されるべきである。最終的には、救命処置に反応がないなどの臨床的な判断に基づいて決定される。心原性の院外心肺停止では回復するのであれば、救急現場で心拍再開する事が多い。病院への移送中に心拍が再開せず、心肺蘇生を必要とする心肺停止患者は、神経学的に問題なく生存することはめったにない。
患者が小児であれば、より長時間蘇生を続けるであろう。しかし、これは科学的な見地に基づいていない判断であり、検討が進められている。それにもかかわらず、小児の蘇生というストレスのかかる状況での判断は難しいことが理解できる。小児では、虚血による脳細胞の障害からの回復能力が高いのではないかと言われているが、証明されていない。 もし、心拍のない新生児を診察し、10分異常脈拍が戻らなければ、蘇生を中止することは適切である。
AHAのガイドライン(疲れたので全文引用はやめます、、、、)は「The National Association of EMS Physicians (NAEMSP) suggested that resuscitative efforts could be terminated in patients who do not respond to at least 20 minutes of ALS care.」と言っています。NAEMSP(と言う学会でしょうか)は、高度救命処置を20分続けても反応のない患者には、蘇生努力を中止しても良いと提示しています。という感じでしょうか。
よって、これらの文献からすれば、20分やってもだめなら中止を検討しても良いという事になるでしょう。もちろんですが低体温や中毒の患者さんはもっと長くやらなければなりません。
先日父が肺炎?の為急性心不全で他界しました。朝まで元気でしたが10時頃意識が薄くなったらしくこちらに電話があったのは 12時半でした。死亡時刻は1時半です。この時間の開きはなんでしょうか。後に請求書を見たところ蘇生時間は15分と書いてありました。原因が心不全で水が溜まり一週間入院し抜いた日に亡くなりました。死亡診断書には3日前より心不全とありましたが対処法無かったのでしょうか。一般的な事でもかまいません
by とのおか (2014-03-26 00:25)
とのおかさん、コメントありがとうございます。お父様が亡くなられたとのこと。お悔やみ申し上げます。
病状は様々ですので、詳細なことは分かりません。
おっしゃられたような事は良くあることです。全く違和感を感じません。
肺炎が悪化 十分あり得ます。今の日本人はほとんどの人が直接死因は肺炎です。癌の人が肺炎で亡くなると、死因は癌になります。
急性心不全 この病名が記載されているのであれば、原因がよく分からないと言うことでしょう。
朝まで元気でしたが10時頃意識が薄くなった 肺炎は急に悪化し得ます。他の病気が発生したのかも知れません。
10時半頃意識が薄く 最初に行うのは患者さんの救命です。ご家族にもちろん連絡しますが、電話に出られない方もおられます。次に連絡すべき人は誰?あれ?この番号使われていないって、、、、、としていたらあっと言う間に1時間以上かかります。
蘇生時間が15分 1時15分に心停止したのでしょう。全く不思議な開きではありません。
3日前より心不全 対応されたはずです。死なない人はいませんので、何をしても効果がない人がいます。
お父様が亡くなられたのは大変悲しいことですが、とのおかさんも私もいつか必ずその日が来ます。そのことは忘れないでください。
by Kim (2014-03-26 06:40)
もっとまめに病院連れて行くべきだったとか、もう一度自分で蘇生してみれば?とか 悔いばかりが残ります。人間の生命は偶然で左右されてしまうのでしょうか。ありがとう御座います。
by とのおか (2014-03-27 22:51)
とのおかさん、コメントありがとうございます。
どうぞ自分を責めないでくださいね。我々医療従事者でも、家族が亡くなったりすれば、もっとこうすれば良かったと思うことが多いです。たぶんベストを尽くされたのですから、、、、、、
偶然というか、人は必ず死にます。何をやってもです。それがいつ来るかだけです。
健診を受ける予定だったのだが、大雪が降って受診が伸びてしまい、半年後に受けた時には手遅れ、、、、、
肺炎で入院してレントゲンを撮ったら、たまたま早期の肺癌が見つかり、命拾い、、、、、、
どちらも偶然です。神様がお決めになっているんでしょう。私たちが何か悪いことをしたからとかではありません。
by Kim (2014-03-28 08:08)
私の妻は14年前に呼吸困難になり無痛状態になりました。大学病院の救命の方々の努力のおかげでICUにいる間は大抵の事は大丈夫なので普通では致命的な治療も試して行きましょう。他の科の先生の協力も頂き意識を取り戻しました。低酸素脳症とはなりましたがヘルパーさんにおせわになりながら生活をし、生きて居る事に感謝しております。これからは死と言う事も受け入れ、私、家族共、自分の命を大切に最善で生きて行こうと考えています。それと私達にとって救命はかけがえのない大切な物です。
by とのおか (2014-03-28 10:58)