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検査は必須のものではありません [医学関連]

 新型コロナウイルス関連でもうひとつ。

 新型コロナウイルスの検査をしてもらえないと言う報道がされているようですが、何が問題なのか考えてみましょう。

 検査をしてもらえなくて困ると言う人は、検査をして欲しいことが直接の目的ではなく、新型コロナウイルスに感染して死にそうになりたくないとか、人に感染させたくないとか、そういう気持ちのために、結果が知りたいのだと思います。

 最初に結論を言うと、検査をルチンに行う必要はありません。

 新型コロナウイルスに感染していると診断されても、皆さんの行動に変わりはありません。何しろ治療法がありませんから、死にそうにならない方法は今のところありません。また、人に感染させたくないのであれば、咳エチケット、マスク着用、人の多いところに行かないなど、すでに皆さんがされている事をするしかありません。昨日書きましたが、検査が陰性であっても、偽陰性の可能性もありますので、新型コロナウイルス感染によって重症化しないと言えませんし、何もしないで歩き回って良いとも言えません。

 検査はその結果によって行動が変わるから行います。例えば、合コンで年齢とか職業とか、長男かどうかなどを聞くのは、それによってアタックするかどうかを考えるから聞くんですよね。そう言うの気にしないという人であれば、雑談として聞くかも知れませんが、気にはしません。

 今のところ新型コロナウイルスの検査によって行動は変わりませんので、ルチン検査の必要はない(強く疑われる人以外は)と考えられます。ルチンとは、取りあえずビールのような行動です。熱が出ただけでコロナウイルスの検査をすると言う行動です。

 通常の診療でも、大切なのは医者の判断です。インフルエンザであれば、お話を伺って、診察をして、必要ならば検査をして、その情報を総合して判断するのが医者の役目です。インフルエンザの検査は採取した部位(通報は鼻の奥)にインフルエンザウイルスの残骸があったと言うことを示すだけです。インフルエンザの検査が陰性であってもインフルエンザの治療をすることがあります。医師の総合的な判断が必要なのです。検査をして、すぐに診断、治療と行くわけではなく、何段階もの医者の判断があって進んでいくのです。

 例えば、皆さんがコーヒーを飲むとします。以下のようなことをするでしょう。

・蛇口をひねって電子ケトルに水を入れ、電子ケトルのスイッチを入れます。
・コーヒーカップを出して、コーヒーの素?を入れます。
・お湯が沸いたら、コーヒーカップにお湯を入れます。
・スプーンでかき回して飲みます。

 これは無意識に色々な判断が下されて行われています。
 蛇口が高温になっていて触ったらやけどをするかも知れませんし、蛇口から出てくる水に毒が入っているかも知れません。コーヒーカップは夜中に誰かが毒を塗ったかも知れませんし、コーヒーの素はメーカーが間違えて青汁を入れたかも知れません。電子ケトルは壊れていて、お湯が沸いてないかも知れません。
 しかし、これら全ては、大丈夫だろうと無意識に判断しているわけです。蛇口をひねったら変な臭いがしたら、大丈夫かなあ?と調べますよね。それと同じで、医師も患者さんの状態が明らかにこうであると判断できれば検査はしません。うーん、あやしいなあ?と思った時だけ検査をします。

 また、水道水が100%安全であるとは誰も考えていませんよね。治療も同じで、この患者さんは100%この病気であると確定しなければならないとなると、治療は出来ませんから、80%位の可能性かなあ?と言う段階で治療をしても良いです。20%の可能性で治療をしたりすることもあります。新型コロナウイルスの治療薬がもしあれば、基礎疾患があるとか高齢だという患者さんには、熱が出てインフルエンザの検査が陰性であれば、治療を開始するかも知れません(しかし、残念ながら新型コロナウイルスの治療薬は今はありません)。

 何でもかんでも検査をすべきというのは、コーヒーを飲むのに、蛇口の温度測定から始めるような行動と同じなのです。蛇口が熱くなっている可能性は非常に低いですし、もし熱かったとしても、ちょっとやけどをするぐらいです。だから蛇口の温度測定をする事はまずありません。医療現場の検査も同じです。頻度とその出来事の重大性、検査にかかる費用とか侵襲(痛いことをするかどうかとか)など、色々なことを考えてしています。

 検査をしなくても治療は出来ますのでご安心ください。医師が検査の必要はないと言った場合には、あきらかに状態が判明しているか、検査をしても行動が変わらない、あるいは検査に不利益があって、検査の利益が不利益を上回らない場合などです。

 書いていて上手くまとめられませんでしたが、分からないことがあれば気軽にコメントに書いてくだされば対応させて戴きます。

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検査を全員にする必要はありません [医学関連]

 新型コロナウイルスのPCR検査をすべきかどうかについて色々情報が流れています。良い機会なので、是非検査の性質について知って戴きたいです。以前にもこの検査の性質については書いているのですが、何度書いても良いと思うので書きます。

 感度(sensitivity)と特異度(specificity)という言葉が出てきます。検査の正確さを示す指標の一つです。これは以下のようなことをして算出します。以下の例えは、分かりやすいようにと考えただけで、差別などの意味合いはありません。また、検査はその程度のものだとお考えください。ブラジャーのサイズがBカップ以上なら女性であると言う検査を例に考えます。この例えがお嫌いであれば、以下は読まない方が良いと思います。

 男性のシンボルがついている人は男性、付いていない人は女性と定義します。こう言った定義は大切です。例えば、肺炎の研究ならば、この様な条件を満たした人を肺炎とした等と明らかにしなければなりません。
 そして、ある病院の職員全員に「ブラジャーのサイズを測定し、Bカップ以上ならば女性である」という検査をしたとします。その病院には、職員が1000人いて、内訳は男性が400人、女性が600人だったそうです。検査をしてみたところ、以下のような結果が出たとします。

                女性   男性  合計
Bカップ以上(検査陽性)    540    40  580
Aカップ(検査陰性)       60   360  420
  合計            600   400  1000

 感度は病気である(この場合、男性のシンボルがない人、定義上女性)人のうち、検査で陽性となる人の割合で、540÷600=0.9です。90%とも言います。
 特異度は病気でない(この場合、男性のシンボルがある人、定義上男性)人のうち、検査で陰性となる人の割合で、360÷400=0.9で、90%です。この感度、特異度は検査によって様々です。一般的にどちらも高い検査はあまりありません。例えば、Dカップ以上を女性とすると言う風に検査の閾値を変えれば、特異度は上がりますが、感度が低下します。検査が陰性だった場合に、病気でないと言える可能性が低くなります。

 感度、特異度は病気がある、ないことが分かっている集団で、どのぐらい病気の診断が出来るかという指標です。病気の可能性(確率)が分かっていると言うのがミソです。

 しかし、我々医師が知りたいのは、病気の可能性が分からない人での病気の可能性です。目の前にいる人が病気かどうかを知りたいのです。検査をしたら陽性だった、この人が病気である可能性はどのぐらいか?を知りたいのです。上の表であれば、検査をする前は60%だった可能性(これを事前確率と言います)が、検査が陽性であれば、540÷580=93%になりますが、これは事前確率が分かっているから出た数字です。

 事前確率が何%かは色々な条件で変わります。上記の検査を、男子校でやったとしましょう。生徒も職員も含めて1000人いて、女性は20人だったとします。女性である可能性は2%です。

                女性   男性  合計
Bカップ以上(検査陽性)     18    98   116
Aカップ(検査陰性)       2    882  884
  合計            20   980  1000

のようになりますので、検査が陽性だった場合、18÷116=15%で、85%の人は偽陽性です。2%の可能性が15%に上昇していますので、可能性は高くなっていますが、病気の可能性が15%あると言われて、私は病気なのか!と思えますか?

 他にも女性と男性の割合を色々変えて計算して戴ければ分かりますが、事前確率が低い場合、検査が陽性であっても、偽陽性が多いことが分かります。医師は色々な話を聞いたり、診察をしたりして、事前確率を推定し、高いと思われた場合に検査をしています(そうでない場合ももちろんありますが)。上記の例で言えば、女性が多そうな集団だと考えた場合にのみ検査を行うと言うことになります。

 新型コロナウイルスのPCR検査は感度、特異度がもっと低い(感度や特異度が90%もある検査はそんなにありません)と言われています。むやみに検査をしても意味がないことがお分かりいただけたでしょうか。それから、新型コロナウイルスに感染していることをどのように定義したのかもチェックすべき項目です。私はその定義を知りません。ある病原体に感染していると判断するのは意外に難しいです。病原体がいただけでは感染と言いませんし、患者さんが苦しんでいる病態が病原体のせいだと確定することもなかなか難しいです。感染とは病原体が体に侵入して増殖し、悪さをしているということなのですが、それを証明するのは難しいです。

 新型コロナウイルス感染の可能性が高い(例えばクルーズ船に乗っていたなど)場合、PCR検査が陰性であっても偽陰性の可能性が高いです。逆に新型コロナウイルス感染の可能性が低い場合(たぶん読んでいただいているあなたはそうでしょう)に、PCR検査が陽性であっても偽陽性の可能性が高いです。検査が陰性だったから、自由に行動していいとは言いがたいですし、検査が陽性だったから感染しているとも言いがたいのです。

 上手く説明できたかどうかは分かりませんが、理解できなくても大丈夫です。お医者さんでもこの事を理解できない人がおられますので。

 また、感度を別の意味で使っている人もいますので、言葉の定義を確認する必要があります。例えば、感度を検出感度と言う意味で使う人がいます。が、感度と検出感度は別です。上記の例で言えば、検出感度はBカップ以上とかDカップ以上ということであり、感度は、検出感度を設定すると、女性のうち検出感度以上になる人の割合です。

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マスクが必要かどうか悩んでいる人へ [医学関連]

 新型コロナウイルスの流行のため、マスクが手に入らない状況が発生しているようです。マスクが欲しいのに手に入らないと困っている人がおられるようです。

 先に結論から言いましょう。マスクをした方がいいのか迷う方はマスクはいりません。勇気を持ってマスクは買わないようにしましょう。家にあるのなら、必要な時のために保存しておきましょう。
 もし、感染が怖いのなら、不要な外出は控えましょう。

 以下解説です。

 通常のマスクは、感染した人が他の人に感染させる可能性を低くする効果があるようです。目の前に病原体を排出する人がいたとして、自分がマスクをしていても、していなくても、自分が感染する可能性に変わりはないというデータがあるようで、一般の人はマスクをする必要はないと言われています。

 大切なことは、「自分が感染することを予防するためにする必要はない」と言うことで、他の理由があればマスクをしても良いです。マスクをしたから感染率が高くなることもありませんし、喉が乾燥するからとか、花粉症がひどいからとか、今日はお化粧するの忘れたからとかの理由があればマスクをしても良いです。やっぱり、私は人に感染させることも絶対嫌だとお考えになるのであれば、マスクをしても良いです。
 マスクをしていると、鼻や口を触ることが少なくなるので、手についた病原体が感染する可能性は低くなるかも知れません(が、マスクをしていても手や口は触るという人もいます)ので、マスクをしたらそう言う手段による感染は減るのかも知れません。

 よって、あなたはマスクをしていないからダメだとか、あなたはマスクもしていないなんて非常識ねとか、そう言う言葉を発しないようにしたいですね。日本はそう言う風潮になりやすいので困りますね。

 それから、このように多くの人がマスクを手に入れようとすると、必要な人にマスクが届かない事態が容易に発生します。マスクはそれなりに量産が出来るとは思いますので、そのうち手に入りやすくなると思いますが。

 もし、これがワクチンだったり、薬だったり、検査だったりしたらどうでしょうか?我々医師は、このような状態にならないよう、出来るだけ本当に必要な人にだけ出すようにしています。インフルエンザの検査も同じです。検査には検査のキットが必要で、そのキットはそんなにたくさん手に入るものではありません。よって、熱がちょっと出たから、インフルエンザが心配だからと言う理由だけで検査をしません。もし検査のキットがなくなったら(2000年ぐらいだったと思いますが、本当に検査キットがなくなりました)必要な人に検査が出来ません。

 医師は目の前のあなたのことだけでなく、今後同じような症状で来るかも知れない人や、国の財政とか、そういう事も考えて対応していますので、ご理解いただけたら幸いです。


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外科の基本手技について考えてみませんか? [興味ある本]

 久しぶりの更新です。今日は本の紹介です。

 腹膜を電気メスで切っても良いじゃないかと言う記載にひかれて購入しました。面白くて一気に読めました。ちなみにですが、基本手技を解説した本ではありません。基本手技のやり方について、理屈を知りたいという人が読む本です。





 確かに、多くの手技や治療方針とかに関して、何故?と言う事を考えないで、疑問にも思わないでやっていることが多いです。私は頻繁に研修医の先生に、何でその検査をしているの?何故そうするの?と聞いていますが、著者の先生同様嫌がられていると思います(^^)。

 私が思っていることを明解に書いてくださっている所もたくさんあり、これから何かあったら、この本を見せて説明しようと思いました。東大卒の先生がこう言ってんだよ!と。

 針を皮膚に垂直に刺そうとして、変な刺し方をしている先生が多かった(以前の勤務先の研修医の先生)んですが、その理由もよく分かったし、そうしなくてもいいと自信が持てました。

 これから外科の勉強をしようという若い先生はもちろん、指導医の先生にもお勧めです。著者の先生も書かれていますが、いやこれ違うんじゃない?と言うディスカッションのきっかけになりすぎる本です。

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