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心肺蘇生で脈を触れる行為をしない理由 [CPRの基礎]

 心肺停止の患者さんの初期対応を学ぶものに、BLS講習会があります。BLSはBasic Life Supportの略です。直訳だと基礎生命支持ですが、一次救命処置と呼ぶことが多いです。

 その講習会の中で、心肺停止(最近は心停止と呼ぶべきだという説もあります)の認識方法について学びます。心肺停止でない人に対して、心肺停止の人に対する処置(心肺蘇生)を行うのは、あまり良くないからです。もちろん、確実に心肺停止でないと言うことは困難(昨日の記事参照)なので、心肺停止が疑われたら、心肺蘇生を行って良いです。と言うか行うべきです。

 心臓が動いているかどうかを簡単に見る方法は、脈を触れることだと思われる方が多いかも知れません。しかし、脈を触れるかどうかを判定することは意外に難しく、医療従事者でも間違えます。心肺停止が疑われるような状態が悪い人ではなおさら困難です。

 ここで「脈が触れない=心停止」という検査を考えます。これが正確な検査であれば、心臓が動いていれば、ほぼ100%脈が触れ、心臓が止まっていれば、ほぼ100%で脈が触れないというデータが出ます。しかし、本当の心肺停止の患者さんで調べた研究はない(そう言う研究はほぼ不可能でしょうね)のですが、人工心肺を回していたりする患者さんで検討した研究では、脈拍がないはずなのに10%程度で脈があると判断したり、脈があるはずなのに30%程度で脈がないと判断しており、正確に判断できたのは80%程度だったそうです。

 つまり、心停止しているのに脈が触れる、つまり心臓が動いていると間違えることが結構ある(医学的には10%「も」あると考えます)ので、「脈が触れない=心停止」という検査は精度が悪すぎると言うことです。

 よって、そのような検査は行うべきではないという考えで心肺蘇生の最初の確認において、そしてその後も脈拍を触れる行為はすべきではないとされています。特に一般市民向けの講習では、脈を触れる行為は教えていないはずです。

 医療従事者は脈を触れるべきだと言う意見もありますが、蘇生に精通した者のみ脈を触れるとしているガイドラインもあります。医療従事者でも脈を触れるのは難しいのです。

 では、何を確認したらいいのか?と気になると思いますが、現在の所、反応がなく、正常な呼吸をしていなければ心停止と考えて良いとされています。
 反応とは、呼びかけたり軽く叩いたりしても動かない、声が出ない事を言います。良く意識がないという人がいますが、厳密に言うと間違いです。意識の確認とは違うことをしていますから。まあ、意味分かるので良いんですが、インストラクターをされている方は再確認をお願いします。
 正常な呼吸とは、おかしな呼吸をする人がいるためです。こんな呼吸を普段することはないと言う呼吸をしていたら、心肺停止しているのではないか?と疑ってください。例えばいびきです。普段いびきをしながら生活している人はいませんよね。
 私が研修医の時に一緒に働いていた看護師さんの一人は、患者さんがいびきをかいていたら必ず起こすと言っていました。やはり、いびきをかいていると思っていたら心停止していたと言う経験があったようです

 あなたが医療従事者で、心肺蘇生時に脈を触れようと太い動脈を確認に行った場合、明らかに拍動があると感じた時以外は、心肺停止であると考えて心肺蘇生を開始しましょう。


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