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医者は何を考えて、必要ない、必要あると判断するのか??破傷風予防注射に関して。 [研修医教育]

 病院へ行くと、患者さんは色々な希望を持ってこられるはずなのですが、それに反する事がされてしまい、がっかりしたり、怒ったり、、、、、、、色々な事が起こります。ある先生が、救急外来で最も大切なことは患者さんに満足してもらうことであり、正しい治療をすればそれで良いというものではないと言われていました。言うのは簡単なのですが、なかなか難しいです。

 同じ状態の患者さんを診ても、たぶん100人の医師がいたら、100通りの方針が立つと思います。これは何故なのでしょうか?????

 これは、医師に限らず、皆さんが普段されていることと同じです。例えば、少し前に「今でしょ!」の林先生が、「降水確率40%なら、傘を持って行かない」と言われていました。理由は以下の通りです。

 傘を持っていかないと、雨に濡れてしまうような印象があるが、60%の確率で雨が降らない。
 しかし、傘を持っていくと100%傘を持ち歩くという不快感を体験する。そして60%の確率で意味のない不快感である。

 と言うことです。雨が降っても、林先生は男ですから、少しぐらい濡れても良いでしょう。また、彼の住んでいる東京は、コンビニで直ぐ傘が買えるでしょうし、駅やホテルによっては、傘が無料で借りられます。雨宿りする所もたくさんあるでしょう。だから、降水確率40%なら、傘を持っていかなくてもいいでしょう。

 これが女性なら違うかも知れませんし、折りたたみ傘をいつも持ち歩いているという人もいるでしょうし、車通勤だから傘は車の中に置いてあるし、車から建物まで直ぐだから、傘はいらないと言う人もいるでしょう。

 つまり、雨が降るという出来事が自分に与える影響の大きさ(これをインパクトと言います)とその確率によって判断していると言うことです。医師が患者さんの治療方針に関して下す方針も同じです。利益と不利益の与える影響の大きさとその頻度、それから費用やその介入がどのぐらい容易に行えるか、自分の力でそれが出来るのかどうかなど、考えるべき要因は多くありますが。

 破傷風の話題に関しては以下の通りです。

・日本では宝くじで1等に当たる確率の10倍の確率で破傷風になる。
 破傷風は日本では100万人に一人ぐらいの発症率です。今年はこちらの資料を見ていただければ、10月6日までの時点で99人の人が破傷風になったと報告されています。宝くじで一等が当たる確率は1000万分の1だそうで、破傷風になる確率はその10倍です。少ないと考えることも出来ますし、多いと考えることも出来ます。それは自由です。

・破傷風は大変な病気です。
 破傷風になると10%弱の確率で死んでしまいます。死なないにしろ、激しい痙攣が起こって苦しみます。長期間の入院となり、リハビリも大変です。ある先生が最も診たくない病気の一つだ(治療が大変だから)と言われていました。これに関しては、あまり反論はないと思います。

・破傷風の予防注射は安全です。
 もちろん絶対に不利益がないとは言いませんが、頻度は低いですし、値段も3000円程度です(実費の場合)。効果はエビデンスレベルの高いものはないようですが、破傷風になる人のほとんどは予防注射をしていないようです。

 めったにない病気だから、まあ予防注射なんていらないんじゃないの?と考えることも可能ですが、重大な病気だから予防注射をしておこうというのが良いと思いますし、例えばアメリカの資料ではそうなっています。

 怪我をした時にあせって考えるのではなく、普段から破傷風の予防注射をしておくのが一番良いです。そうすれば、血液製剤である抗破傷風人免疫グロブリンと言う薬を使うべきかどうか悩む必要はありませんしね。

 このブログをお読みになった方は是非、破傷風の予防注射をしていただければ嬉しいです。前回いつ打ったか分からないと言う人は、是非今打っておけば、次は10年後ぐらいで大丈夫です。今まで一度も打ったことがない、分からないという人は、3回やっておけばいいでしょう。よく分からなかったら3回やりましょう。やりすぎは全く問題ありません。


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