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風邪の診断は難しい [研修医教育]

 風邪と簡単に言いいますが、実は風邪と診断するのは難しいです。風邪の診断基準は存在しないからです。風邪は除外診断と言って、他の病気ではないと診断した上で、まあ風邪でしょうね、、、、、、となる病気です。

 風邪ではないかと病院に来られた患者さんに対して、医師が最初に考えることは、本当に風邪なのか?です。風邪は万病の元と言われるように、多くの疾患は風邪症状で始まります。諸外国は病院にかかりにくい(病院へ予約なしで受診して、その日に診てもらえるのは世界でもまれなことなんだそうです)ですし、料金も高いので、初期症状の段階で病院へ行く人はあまり多くないようですが、日本は本当に初期の段階で病院を受診される方が多いので、医師としては非常にストレスです。様々な病気の可能性があり、それらを区別するためにはどうしたら良いか?ベテランの先生でも悩みます。中には致死的な病気もあります。風邪でしょうと言われてそうではなかった(最悪の場合死亡)という事例があります。なので、医師はまず本当に風邪なのか?が心配になります。薬だけくれたら良い、インフルエンザの検査をしてくれたら良いと言うものではありません。

 特に救急外来を受診された場合には、原則色々な検査をさせていただいています。検査なんていらないから薬出せよ!と仰る方もおられるのですが、こちらの言い分としては、だったら薬局で薬買って様子みて欲しいと思います。最近はコンビニでも風邪薬売っていますから。こんな夜中に病院に来られたんでしょ!重大な病気だったらどうするんですか!?とお伝えして検査をさせていただいています。

 私が学生時代に受けた脳神経外科の講義では、大学病院に入院しているくも膜下出血の患者さんのほぼ半数が初診時に風邪だと言われていると習いました。なので、脳神経外科の講義で風邪の講義がありました。当時はあまり意義が分かっていませんでしたが、良い講義を受けられたと思います。

 特に時間外や夜間に病院を受診される患者さんは、医師が重大な病気を見逃すまいと一生懸命考えていることをご理解いただければ幸いです。だから検査などを多めに行いますし、その為に一人にかける時間が長くなり、待ち時間も長くなるのです。薬だけくれればいいんだからさっさとしろよ!と思われるのでしたら、ご自分でお薬を買っていただけたら幸いです。

 風邪に関して少し専門的になりますが、勉強したい方は、こちらの資料をご覧戴くと勉強になります。研修医の先生方は必読です!私のような年寄りの内科でない医師も読むべきだと思います。


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パルスチェックかリズムチェックか?? [CPRの基礎]

 この記事は、ALS for OPコースになるかと思います。OPはOtaku Providerです(^^)。

 一次救命処置を行い、病院に到着し、電気ショックも行い、、、、、、さあ、先ほどのショックから2分たちました!となると、心電図モニターを見て、心室細動が続いているのか、はたしてPEAになったのか、心静止なのか、、、、、、、となります。

 その時に脈拍を触れるべきか?と言うのが今日のテーマです。2分ごとに行うこの処置を、リズムチェックとか、パルスチェックとか言っています。ACLSのテキストには以下のようにあります。P.99にあります。

 ショックの適応ではない心リズムが存在し、秩序のあるリズムの場合、チームメンバーは脈拍の触知を試みる。脈拍があるかどうか疑わしい場合は、直ちにCPRを再開する。
注:「脈拍チェックを行うのは(リズムの解析中であることが望ましい)、秩序のあるリズムが存在する場合のみである。」

 つまり、通常はリズムチェック(心電図モニターの波形を見るだけ)をするのですが、心室頻拍か無脈性電気活動か心拍再開したかと言う波形になった場合にのみ、太い動脈を触ってみると言うことです。この脈をみる行為は「パルスチェック」という名前がついています。脈が触れるかもしれないと考えた場合には「リズムチェック」に「パルスチェック」を加えるのです。

 パルスチェックには、胸骨圧迫を辞めて少し待ち(モニターの波形は完全なリアルタイムじゃないですよね)VF、心静止ではないという判断をし、脈を触れるため自分の指を患者さんの頚動脈に近づける、脈が触れるかどうか感じる、、、、、と言う一連の行為が含まれます。慣れた人ならあっと言う間でしょうが、慣れていなければある程度の時間が必要です。この間は当然胸骨圧迫を止めていますから、胸骨圧迫の中断は1秒でも短く!と考えると、どうなのかなと思います。
 また、特に脈を探す時間と、脈が触れているのか?判断する時間が意外に時間がかかります。医者が複数いると、複数の血管を触れたりして、どちらも同じ判断なら良いのですが、偉い方の先生が脈が触れると言ったりなんかするとちょっと大変です。胸骨圧迫を再開するのに躊躇しますから。

 私が関わっている講習会では、脈を必ず触れてもらっています。たぶん少数派であることは認識していますが、理由は以下の通りです。

・胸骨圧迫を辞める前に脈を触れる体制をとっておけば、脈を探す時間に胸骨圧迫を中断する必要がありません。脈を触れる行為が胸骨圧迫の中断を長くすると言う認識はあります。
・脈を触れる行為をすべき波形なのかどうかの判断をしなくて良いです。
・救急蘇生法の指針ー医療従事者用ー2015のP.39には「リズムチェックとは、心電図(ECG)の波形確認を行うとともに、必要に応じて脈拍の確認を行うことである。」と書かれています。必要に応じて毎回脈も触れちゃいましょう!と言う考えです。

 どちらも間違っているわけではないと思いますが、パルスチェックなのか、リズムチェックなのか、パルスチェックを含んだリズムチェックをすべきなのか?非常にややこしいですね。

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心肺蘇生で脈を触れる行為をしない理由 [CPRの基礎]

 心肺停止の患者さんの初期対応を学ぶものに、BLS講習会があります。BLSはBasic Life Supportの略です。直訳だと基礎生命支持ですが、一次救命処置と呼ぶことが多いです。

 その講習会の中で、心肺停止(最近は心停止と呼ぶべきだという説もあります)の認識方法について学びます。心肺停止でない人に対して、心肺停止の人に対する処置(心肺蘇生)を行うのは、あまり良くないからです。もちろん、確実に心肺停止でないと言うことは困難(昨日の記事参照)なので、心肺停止が疑われたら、心肺蘇生を行って良いです。と言うか行うべきです。

 心臓が動いているかどうかを簡単に見る方法は、脈を触れることだと思われる方が多いかも知れません。しかし、脈を触れるかどうかを判定することは意外に難しく、医療従事者でも間違えます。心肺停止が疑われるような状態が悪い人ではなおさら困難です。

 ここで「脈が触れない=心停止」という検査を考えます。これが正確な検査であれば、心臓が動いていれば、ほぼ100%脈が触れ、心臓が止まっていれば、ほぼ100%で脈が触れないというデータが出ます。しかし、本当の心肺停止の患者さんで調べた研究はない(そう言う研究はほぼ不可能でしょうね)のですが、人工心肺を回していたりする患者さんで検討した研究では、脈拍がないはずなのに10%程度で脈があると判断したり、脈があるはずなのに30%程度で脈がないと判断しており、正確に判断できたのは80%程度だったそうです。

 つまり、心停止しているのに脈が触れる、つまり心臓が動いていると間違えることが結構ある(医学的には10%「も」あると考えます)ので、「脈が触れない=心停止」という検査は精度が悪すぎると言うことです。

 よって、そのような検査は行うべきではないという考えで心肺蘇生の最初の確認において、そしてその後も脈拍を触れる行為はすべきではないとされています。特に一般市民向けの講習では、脈を触れる行為は教えていないはずです。

 医療従事者は脈を触れるべきだと言う意見もありますが、蘇生に精通した者のみ脈を触れるとしているガイドラインもあります。医療従事者でも脈を触れるのは難しいのです。

 では、何を確認したらいいのか?と気になると思いますが、現在の所、反応がなく、正常な呼吸をしていなければ心停止と考えて良いとされています。
 反応とは、呼びかけたり軽く叩いたりしても動かない、声が出ない事を言います。良く意識がないという人がいますが、厳密に言うと間違いです。意識の確認とは違うことをしていますから。まあ、意味分かるので良いんですが、インストラクターをされている方は再確認をお願いします。
 正常な呼吸とは、おかしな呼吸をする人がいるためです。こんな呼吸を普段することはないと言う呼吸をしていたら、心肺停止しているのではないか?と疑ってください。例えばいびきです。普段いびきをしながら生活している人はいませんよね。
 私が研修医の時に一緒に働いていた看護師さんの一人は、患者さんがいびきをかいていたら必ず起こすと言っていました。やはり、いびきをかいていると思っていたら心停止していたと言う経験があったようです

 あなたが医療従事者で、心肺蘇生時に脈を触れようと太い動脈を確認に行った場合、明らかに拍動があると感じた時以外は、心肺停止であると考えて心肺蘇生を開始しましょう。


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「骨折はありませんね」と言えなくて済みません。 [医学関連]

 先日日曜日の日直(休日の昼間に診療を担当することをそう言います)をしている時に、骨折疑いの人がたくさん来られました。レントゲンを撮っても異常がなかったのですが、「骨折の否定を非専門医がしてはいけない」と研修医の時に習いましたので、全員整形外科に行ってもらいました。

 ほぼ全員、骨折の疑い、あるいは骨折で治療しますとお返事を戴きました。明らかに折れていると書かず、疑わしいとかレントゲン撮り直してもはっきりしないなどとお返事いただき、私に配慮してくださる先生方に感銘を受けました。いい専門医の先生に紹介して良かった。

 ちなみに、骨折で一番あてになる徴候は痛みなのだそうです。レントゲンが全てと思っている方もおられると思いますが、レントゲンで写らない骨折(ひびも骨折です)も多くあります。

 以前勤めていた病院では、CT撮っても異常がなく、その病院のやや非力なMRIでも異常がなく、別の病院のMRIでやっと骨折が分かったと言う事もありました。手の舟状骨という骨の骨折でした。冗談だと思いますが、相談した整形外科の先生は、「レントゲンでもCTでも異常がないと思ったけど、木村先生が折れているかもと言われるからMRIまで撮ったんですが、異常がないので、大きな病院に紹介します」と言われました。

 なので、病院を受診して、骨折がないとは言えないと言われて不満に思わないでくださいね。

 「○○がない」と言うことはなかなか困難なのです。論理学的にも、例えば宇宙人はいないと言うことは困難だと聞いています。こちらのページにもサンタクロースがいないと言うことは論理学的に不可能だと書かれています。

 恋人がサンタクロースではないと言うことも困難だと思います、、、、、、、、、たぶん。


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医者は何を考えて、必要ない、必要あると判断するのか??破傷風予防注射に関して。 [研修医教育]

 病院へ行くと、患者さんは色々な希望を持ってこられるはずなのですが、それに反する事がされてしまい、がっかりしたり、怒ったり、、、、、、、色々な事が起こります。ある先生が、救急外来で最も大切なことは患者さんに満足してもらうことであり、正しい治療をすればそれで良いというものではないと言われていました。言うのは簡単なのですが、なかなか難しいです。

 同じ状態の患者さんを診ても、たぶん100人の医師がいたら、100通りの方針が立つと思います。これは何故なのでしょうか?????

 これは、医師に限らず、皆さんが普段されていることと同じです。例えば、少し前に「今でしょ!」の林先生が、「降水確率40%なら、傘を持って行かない」と言われていました。理由は以下の通りです。

 傘を持っていかないと、雨に濡れてしまうような印象があるが、60%の確率で雨が降らない。
 しかし、傘を持っていくと100%傘を持ち歩くという不快感を体験する。そして60%の確率で意味のない不快感である。

 と言うことです。雨が降っても、林先生は男ですから、少しぐらい濡れても良いでしょう。また、彼の住んでいる東京は、コンビニで直ぐ傘が買えるでしょうし、駅やホテルによっては、傘が無料で借りられます。雨宿りする所もたくさんあるでしょう。だから、降水確率40%なら、傘を持っていかなくてもいいでしょう。

 これが女性なら違うかも知れませんし、折りたたみ傘をいつも持ち歩いているという人もいるでしょうし、車通勤だから傘は車の中に置いてあるし、車から建物まで直ぐだから、傘はいらないと言う人もいるでしょう。

 つまり、雨が降るという出来事が自分に与える影響の大きさ(これをインパクトと言います)とその確率によって判断していると言うことです。医師が患者さんの治療方針に関して下す方針も同じです。利益と不利益の与える影響の大きさとその頻度、それから費用やその介入がどのぐらい容易に行えるか、自分の力でそれが出来るのかどうかなど、考えるべき要因は多くありますが。

 破傷風の話題に関しては以下の通りです。

・日本では宝くじで1等に当たる確率の10倍の確率で破傷風になる。
 破傷風は日本では100万人に一人ぐらいの発症率です。今年はこちらの資料を見ていただければ、10月6日までの時点で99人の人が破傷風になったと報告されています。宝くじで一等が当たる確率は1000万分の1だそうで、破傷風になる確率はその10倍です。少ないと考えることも出来ますし、多いと考えることも出来ます。それは自由です。

・破傷風は大変な病気です。
 破傷風になると10%弱の確率で死んでしまいます。死なないにしろ、激しい痙攣が起こって苦しみます。長期間の入院となり、リハビリも大変です。ある先生が最も診たくない病気の一つだ(治療が大変だから)と言われていました。これに関しては、あまり反論はないと思います。

・破傷風の予防注射は安全です。
 もちろん絶対に不利益がないとは言いませんが、頻度は低いですし、値段も3000円程度です(実費の場合)。効果はエビデンスレベルの高いものはないようですが、破傷風になる人のほとんどは予防注射をしていないようです。

 めったにない病気だから、まあ予防注射なんていらないんじゃないの?と考えることも可能ですが、重大な病気だから予防注射をしておこうというのが良いと思いますし、例えばアメリカの資料ではそうなっています。

 怪我をした時にあせって考えるのではなく、普段から破傷風の予防注射をしておくのが一番良いです。そうすれば、血液製剤である抗破傷風人免疫グロブリンと言う薬を使うべきかどうか悩む必要はありませんしね。

 このブログをお読みになった方は是非、破傷風の予防注射をしていただければ嬉しいです。前回いつ打ったか分からないと言う人は、是非今打っておけば、次は10年後ぐらいで大丈夫です。今まで一度も打ったことがない、分からないという人は、3回やっておけばいいでしょう。よく分からなかったら3回やりましょう。やりすぎは全く問題ありません。


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妊娠中に破傷風トキソイドを打っても良いのか? [医学関連]

 以前の破傷風の記事にコメントを戴いたので、再度記事をアップします。質問された方の希望により質問文は公開しておりません。妊娠中にちょっとした怪我をして、産婦人科で相談したのですが、外科に行けと言われ、外科では消毒だけしてもらい、皮膚科に行けと言われたと言う事です。破傷風のワクチンについて誰もきちんと理解をしていないという事が分かりますね。私も完全に知っているわけではありませんが、頑張って勉強しなければと思いました。

 結論から言うと、妊娠中に破傷風トキソイドを打っても問題ありません。というか、アメリカの資料では、毎回妊娠時にワクチンを打つように推奨されています。日本にはないようですが、Tdapという種類のワクチンです。

 Tは破傷風、Dはジフテリア、Pは百日咳です。aは知らなくて良いです(と言うか私も知らない)が百日咳のワクチンのタイプです。wと言うのもあるようですが、現在はaPしか作られていません。Tdapの小文字は、そのワクチンの量が少ない物で、大人になるとワクチンの量は少なくて良いようです。よって、Tdapとは、破傷風に関しては子供と同じ量のワクチンが入っているが、ジフテリアと百日咳は少なめの三種混合ワクチンだという事です。

 こちらの資料を読んでいただけば良いのですが、長文かつ英語なので、、、、、、、「Prevention of Pertussis, Tetanus, and Diphtheria with Vaccines in the United States: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP)」という名前の資料で、日本語にすれば「アメリカにおける、ワクチンによる百日咳、破傷風、ジフテリアの予防:アメリカ予防接種諮問委員会の推奨」です。アメリカのCDCと言うお役所が出しています。日本語にすれば、アメリカ疾病管理予防センターという物で、厚生労働省みたいなものでしょう。
 CDCがこう言っていると言えば、水戸のご老公様が言ったかのような権威のあるお役所です。本当に信じて良いのかは疑問を呈している人がいますが、まあ、私はははーっ!となります。以下の先生はCDCガイドラインが大好きで、三度の飯より大好きな先生のようです。


CDCガイドラインの使い方 感染対策: 誰でもサッとできる! (You Can Do it!)

CDCガイドラインの使い方 感染対策: 誰でもサッとできる! (You Can Do it!)

  • 作者: 矢野 邦夫
  • 出版社/メーカー: メディカ出版
  • 発売日: 2019/02/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



 以下のように書かれています。ACIPは米国予防接種諮問委員会のことです。

 ACIP recommends that providers of prenatal care implement a Tdap immunization program for all pregnant women. Health care personnel should administer a dose of Tdap during each pregnancy, irrespective of the patient’s prior history of receiving the vaccine.

Guidance for Use

 Tdap should be administered between 27 and 36 weeks’ gestation, although it may be administered at any time during pregnancy. Available data suggest that vaccinating earlier in the 27–36 week time period will maximize passive antibody transfer to the infant.

 Tdap may be simultaneously administered with an inactivated influenza vaccine to pregnant women.

 If a woman did not receive Tdap during her current pregnancy and did not receive a prior dose of Tdap ever (i.e., during adolescence, adulthood, or a previous pregnancy), then Tdap should be administered immediately postpartum. If a woman did not receive Tdap during her current pregnancy but did receive a prior dose of Tdap, then she should not receive a dose of Tdap postpartum.


日本語がいい方はこちら


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