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高カリウム血症のある人に乳酸リンゲルは避けるべきか? [救急救命士について理解を!]

 前にも同じ事を書いた気がしますが、大切なことは繰り返し。

 腎機能の悪い患者さんがショック状態となり、救急隊の方が点滴を確保してこられた場合、乳酸リンゲル液が使われています。
 「こんな腎臓が悪い人に乳酸リンゲル液なんて使いやがって!」と怒ってはいけません。理由は以下の通りです。

・救急隊の方は乳酸リンゲル液以外の使用を禁止されています。
・そのようになったのにはちゃんと理由があります。

 院内でも同じです。弱い犬ほどよく吠えると言います。救急外来や病棟急変で怒鳴っている人がいたら、ああ、あの人は実力がないんだな、かわいそうに、、、、、と思うようにしましょう、、、、、、知らんけど。

 参考資料を以下に載せます。英語ですが、日本語がいい方は続きをお読みください。

 There is a fear of Ringer’s lactate causing hyperkalemia and worsening lactic acidosis. To put it in perspective, Ringer’s lactate does include a concentration of potassium 4 mEq/L. Logically, if giving a patient who is hyperkalemic additional potassium would worsen hyperkalemia; however, this is not correct. A patient's potassium volume of distribution is larger than the extracellular compartment and equilibrates between the intracellular and extracellular compartments. Therefore, giving a patient, even a patient in renal failure, 4 mEq/L of potassium is not an additive effect.[5] In fact, giving Ringer’s lactate to a patient with hyperkalemia will trend the patient’s potassium level to 4 mEq/L.[6][7] Furthermore, patients' hyperkalemia may worsen with metabolic acidosis. Consequently, large-volume IV administration of normal saline may give patients a hyperchloremic non-anion gap metabolic acidosis. Ringer’s lactate does not have this effect.

 乳酸リンゲル液が高カリウム血症を起こしたり、乳酸アシドーシスを起こすのではないかという不安があります。乳酸リンゲルは4mEq/Lのカリウムを含んでいます。理論上は、高カリウム血症の患者さんにカリウムを投与すると、高カリウム血症が悪化する可能性がありますが、これは正しくありません。患者さんのカリウムの分布容量は細胞外液よりも大きいし、細胞の内外で等電位になります(ので細胞内に入るという意味でしょう)。よって、例え腎不全の患者さんであっても、4mEq/Lのカリウムを投与しても、カリウムを上昇させる作用はありません。 実際、高カリウム血症の患者さんに乳酸リンゲルを投与すると、カリウム値は4mEq/Lに向かって下がる傾向があります。さらに、高カリウム血症は代謝性アシドーシスで悪化します。生理食塩水の大量投与により高CL性非アニオンギャップ上昇型の代謝性アシドーシスをきたしますが、乳酸リンゲル液にはその作用はありません。

 少し解説しましょう。乳酸に関しては、また記事を書きます。

・カリウムの分布容量は細胞外液よりも大きい。
 人間の体液は細胞内液と細胞外液に分かれます。前者は体重の40%程度、後者は体重の20%程度と言われています。理論上は乳酸リンゲル液は細胞外液に均等に分布します。しかし、実際は体重の20%より大きい部分に広がるということです。

・細胞の内外で等電位である。
 人間の身体は電気で動いています。細胞の中と外も基本的には電位は同じです。もし差があれば電気が流れるからです。細胞外のカリウム濃度が高くなれば、細胞内にカリウムが取り込まれて、細胞外液のカリウム濃度の上昇は最小限になります。

・カリウムは4mEq/Lに向かって下がる傾向にある。
 カリウム濃度がが6mEq/Lという患者さんがおられたとします。体重50kgとしますと、細胞外液は体重の20%ですので、10Lです。6×10で60mEqのカリウムが細胞外液に存在しますね。ここに乳酸リンゲル液を1L投与したとすると、乳酸リンゲル液のカリウム濃度は4mEq/Lですので、4mEqのカリウムが投与され、溶媒は1L増えますので、64÷11=5.8mEq/Lとカリウム濃度は低下します。2L投与すれば、カリウム濃度は5.6mEq/Lになります。

・生理食塩水の大量投与
 生理食塩水の大量投与は最近避けるべきとされているようです。CLが腎臓に悪さをするとか、挙げられている高CL性アシドーシスを起こすというのです。CLが高くなると、「Na+その他の陽イオン=HCO3+CL+その他の陰イオン」のためHCO3が下がってアシドーシスになるというのです。実際乳酸リンゲル液より、カリウムを含んでいない生理食塩水の方がカリウムを上昇させると言う論文もあるようです。

 よって、緊急時は乳酸リンゲル液を選択するのが無難でしょう。酢酸リンゲルとか重炭酸リンゲルという物もありますが、激しく有用だというエビデンスはないようです。

 間違っても、なんで乳酸リンゲルなんて使ってるんだ!と怒鳴らないようにしましょう。

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