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エビデンスがあるから直ぐやるべきなのか? [研修医教育]

 最近は会ったことありませんが、研修医の先生の中には、我々指導医が、こういう事をした方が良いとお話しすると、「それはエビデンスがないからやってはいけない」と反論する人がいます。色々な意味でムカッと来てしまいますが、まあ、時代だと思って耐えています。もちろん勉強になることも多いので、ムカッとこないような努力は大切ですね。

 さて、エビデンスがあるからやった方が良い、ないからやってはいけないと言う考えは正しいのか?についてが今日のテーマです。

 最初に表現の問題です。「エビデンスがないからやってはいけない」と言う言い方ですが、正しく?言えば「有用だというエビデンスがないからやってはいけない」と言うべきでしょう。しかし、有用でないと言うエビデンス、あるいは危険だというエビデンスがないのであれば、やっても良いのかも知れません。

 それから有用だというエビデンスがあると言うことですが、これはたぶんですが、あることを行うと、行わないよりも1%以上良いことがあったと言う意味です。医学的には絶対リスク減少というのですが、それが1%以上差があれば意味があるとされています。

 例えば、日本合コン医学会において、合コンに参加する場合、最新型のApple Watchを身につけて参加すると良いというエビデンスがアメリカから出たとします。あくまで例えなのですが、合コンにApple Watch??はあ??って印象は大事です。正解です。論文ってそんなものだと思ってください。もちろん、そう言った小さな事の積み重ねが大発見に繋がることもあるので、馬鹿にしてばかりいてはいけませんが。

 Apple Watchを身につけていたら、お持ち帰り率が48%だったのですが、そうでなかった場合46%だったとします。2%の差があります。病気の場合には、お持ち帰れない率を重視しますので、Apple Watchを身につけていないと54%の人が合コン不成功(お持ち帰れない)なのですが、最新型のApple Watchを身につけると不成功率が52%に減ります。これを絶対リスク減少と言い、これはApple Watchをつけて合コンに100回参加すると、そのうち2回だけ、Apple Watchを身につけていたために成功を勝ち取るという意味です(100÷絶対リスク減少%から計算されるNNTという指標です)。このNNTと言う値が100を切っていれば、医学的に有用だとされています。少ないほど良い値で、今回であれば、50です。たぶんですが、NNTが100以下の場合には、それが有用だというエビデンスになります。

 あれ?と思ったあなた。正しいです。お持ち帰れない率が54%と52%ってそんな差があるの???と思いますよね。そうなんですよ。それ大事な考えです。でも、医学では1%差があれば充分に意味があるんです。あることをしないと2%の人が死亡するが、あることをすると死亡率が1%に減少するとすると、死亡率が1%減少、つまり絶対リスク減少は1%でNNTは100で有用だという事なのです!

 しかし、どっちも98%の人は死なないんでしょ?あんま変わらなくね??と思いませんか?そうなんです。そういう事なんです。合コンの話で言えば、合コンに50回参加したうち、Apple Watchが役立つのはたったの1回です。49回はApple Watchを身につけようが、つけなかろうが、結果は変わりません。成功する人は成功するし、しない人はしないんです。

 差があったという論文を見たら、どのぐらい差があったのかチェックしておきましょう。50回中49回は意味がないならやりたくないという思いは大事です。何回に一回になれば、意味があると感じるのか?は人それぞれだと思います。なので、医学的には一応100回に1回なら意味があるだろうとされています。何故100回に1回なのか?については決まりはないと想像しています。

 また、多くの研究は除外基準をもうけています。理由は色々なのでしょうが、今回の合コンの場合だと、BMIが25以上(つまり太っている人はダメ)、年齢40歳以上の男女は参加不可能としたなどとなります。そうすると、僕は太っていて45歳なんだけど、、、、、、、って事になります。その場合には、どうなのか分かりません。

 また、アメリカでは最新型のApple Watchは心電図をとることが出来ますが、日本では認可されていませんし、認可される見通しもないようです。そうすると、日本では合コンにApple Watchをつけていく意味がないのかも知れません。

 それから、合コンの成功とはお持ち帰りなのか?と言う点もポイントです。ただ楽しい時間を過ごせたら、それで良いんだと言う場合もあるでしょうし、いや結婚して、そして老後まで幸せに暮らせてこそ成功だという場合もあるでしょう。そうすると、結果は変わってきます。アウトカムというのですが、心肺蘇生の論文であれば、心拍が再開がアウトカムであれば、その後亡くなっても寝たきりになっても関係ありません。例えば心肺停止に対して社会復帰率を高めるというエビデンスのある薬剤は存在しません。心肺停止した人が元気に退院できなければ意味がないと考えると、蘇生の時には薬剤を使うべきではないかも知れません。しかし、心拍再開率を高めるというエビデンスはありますので、病院ではいくつかの薬を使うことが多いと思います。

 とりとめのない話になりましたが、結局ある論文にこう書いてあった、ガイドラインにはこう書いてあった、こういう事をすると有用だと言うエビデンスがあると言うお話を直ちに実施すべきかどうかはあなたの考え次第という事になります。

 まじめなことを最後に書いてみると、心筋梗塞の時にルチンに酸素を投与することに疑問を呈している論文(AHAの心肺蘇生のガイドラインに根拠として引用されています)は、メタ解析というもので、色々な論文をまとめてデータを出すというものです。どのアイドルが好きか?と言うアンケートがいくつかの雑誌社で行われ、それを総合したところ白石麻衣さんが一番人気だったみたいな感じのデータです。

 図だけ見てもらえばいいと思いますが、酸素投与と心筋梗塞について述べられた論文を調べたところ、全部で51あったのですが、条件にみあったものは何と!!たったの二つだったそうです。たった二つの論文だけでこれこれこうだと結論づけて良いのでしょうか??そして、その論文の内容はと言うと、どちらも24時間の長期間(と個人的には思います)酸素か空気を投与されています。そして、一つは酸素の投与の有無についてケアをする医療者がブラインド化されていなかったそうです。ブラインドとは盲目という意味で、患者さんが投与されているガスが酸素なのか空気なのか分からないようにすると言う事です。ケアをするスタッフが、患者さんに酸素を投与されているかどうか知っていると、色々と差が出てしまう(例えば酸素が投与されていない患者さんにはケアを熱くするとか)可能性があります。

 いや酸素を何も考えずに24時間も投与するやつおらんやろ〜と思いませんか?そうなんです。だから救急車内で、救急外来で、病棟の急変時には酸素を投与して構いません。もちろん、落ち着いていて、酸素飽和度も97%以上で、そんなに重症ではなさそうであれば、酸素投与は控える方が良いのかも知れませんが。

 と言う事で、勉強熱心な研修医の先生方は、指導医がガイドラインや論文で読んだことと違うことを言った場合、ここには(出来ればそのものを見せるのが一番良いです)こう書いてあるのですが、実際にはどうなのでしょうか?等と聞いた方が良いでしょう。「へえ〜こんなエビデンスが出ていたんだ!知らなかった!僕にもコピーもらえる?」「確かにその文献僕も読んだけれど、この患者さんのような人は除外されているし、、、、、、、、」などと言ってくれる先生には、今後も指導を賜るべきでしょうし、「そもそもエビデンスとかガイドラインなんて俺は信用していない!」などと言う先生の言うことは話半分に聞いておくのが良いでしょう。

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