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検査は上手く使わなければなりません [研修医教育]

 二つ続けて画像検査について記事をアップしました。今日は、むやみにCTやMRIを行っても意味がないというお話をします。

 CTやMRIはものすごい検査で、何でも分かると思っている人がいるかも知れませんが、それは間違いです。どんな精度の高い検査をしても、それ自体では大した検査になりません。検査を使う医師の頭によってすごい検査になったり、無駄になったりするのです。検査は、以下のようなものと同じだと言ったらびっくりするでしょうか?

・女性であれば妊娠している。
  患者さんが女性かどうかを調べれば、その人が妊娠しているかどうか分かる。
・名字が木村、あるいは名前が拓也であれば(芸能人の)木村拓哉である。
  患者さんの名字が木村、あるいは名前が拓也かどうか調べれば、その人が木村拓哉かどうか分かる。
・アイドルであれば、恋人はいない。
  患者さんの職業がアイドルかどうかが分かれば、恋人がいるかどうかが分かる。

 例えば、「女性であれば妊娠している」という検査を考えます。アホかお前は!と言う印象を受ける、精度の低い検査に感じませんか?しかし、激しく有用なのです!
 現在妊娠している人の数がどのくらいか分かりませんが、今の日本に住んでいる女性のうち100人に1人が妊娠していると仮定します(割合はあくまで適当です)。男性と女性は1:1で日本にいると仮定します。
 その辺を歩いている人が妊娠している可能性は0.5%ですね。これを検査前確率と言います。ところが、その人が女性であれば(検査が陽性)、その人が妊娠している確率は1%(何と二倍!)になります。また、その人が男性であれば(女性でない、つまり検査が陰性)その可能性は0%です。
 この検査は一般的に使用するのであれば、除外に使える検査で(感度が100%と言います)激しく有用な検査です。なぜなら、その人が男性であれば(検査が陰性)、100%妊娠の可能性はない(その病気の可能性はない)んですよ。こんな検査はまずありません。
 しかし、これを高齢者の方がたくさん入所されている施設で行った場合はどうでしょうか?もともと妊娠している人はまずいません(検査前確率がほぼ0%)ので、検査が陽性であってもその病気の可能性はほぼゼロです(疾患の確率は確かに上がりますが、たぶん妊娠している人はいないでしょう。偽陽性と言います)。検査が陰性であれば、妊娠はしていないと言えますが、もともとまず妊娠していないと分かっているのです。よって、高齢者施設でこの検査を行う必要性はゼロです。もちろん、「女性であれば妊娠している」という検査は、チェックするだけなのでやってもいいですが、診断に利益を与える可能性はほぼゼロです。
 また、三次病院(まあ大きな病院と考えて良いでしょう)ではない病院の産婦人科に入院している人はほとんど妊娠しています。女性であればもちろん妊娠しているでしょう。男性はもちろん妊娠していません(これは検査が陰性であれば病気ではないという感度が100%だから使えますが、普通は100%でないので、こう言った場合には有用ではありません)が、男性が入院することはありませんね。もともと検査をする前から妊娠しているかどうかは分かりきっているのですから検査は不要です。

 木村拓哉さんの場合は、名字の確認なんていらんでしょ!と思うでしょうし、アイドルが恋愛してないなんて嘘でしょ!と思いますよね。その通りです。検査はそんな程度のものなんです。

 検査はそんな程度の物なのですから、大事なのは事前確率とその検査がどんな特性があるのか?と言う事です。それを知っているのは医者だけだと言っても良いでしょう。

 患者さんが病気や怪我で来院された場合、医師は問診と診察をして、事前確率を高める努力をしているのです。これはどうですか?こういった事はないですか?と聞いてくるのは、事前確率を高める為に必要な質問なのです。

 例えば急性虫垂炎(いわゆるモーチョー)には、事前確率を高めるためのスコアの一つであるAlvaradoスコアが提唱されています。

心窩部から右下腹部への痛みの移動  1点
食思不振              1点
嘔吐                1点
右下腹部痛             2点
反跳痛               1点
37.3℃以上の発熱          1点
白血球数10,000/μL以上       2点
白血球の左方移動          1点

 リンク先に解説があるように、このスコアが4点以下であれば感度が99%とされています。虫垂炎の可能性は非常に低くなります。よって医師は右下腹部痛の患者さんが来たら、上記の事をチェックし、4点以下であれば虫垂炎の可能性は低いので、これ以上の検査はせずにこのまま様子を診ようかなあ?と考えます。なぜなら、虫垂炎の可能性が非常に低い訳ですから、高齢者施設で「女性ならば妊娠である」検査をするようなものです。CTで虫垂が腫脹していても、虫垂炎ではない可能性が高いですし、そもそもほぼ95%以上で所見を認めません。
 しかし、7点以上であった場合、特異度が78.8%です(特異度が高い検査は、その検査が陽性、つまり病気であると言う結果が出た場合、本当に病気の可能性が高い)から、虫垂炎の可能性は60%よりは高まりますが、虫垂炎ではない可能性も結構あるということで、こう言った場合にはエコーやCT等の追加検査が診断に役立ちます。

 細かい計算は興味のある方だけやっていただくとして(例えばこちら)、ちょっと計算してみます。

 来院した患者さんの印象として虫垂炎の可能性が60%だったとします(これは医師の直感です)。
 Alvaradoスコアが4点以下だった場合、虫垂炎の可能性は2%程度です。特異度が書いてなかったので70%として計算しました。2%の可能性はほぼゼロと考えて良いのではないでしょうか。
 Alvaradoスコアが7点以上であった場合、虫垂炎の可能性は82%程度になります。

 何%なら除外して、何%なら治療をするというのは、その疾患の重大さ、治療の利益、不利益の大きさなどによって異なります。

 こういった事を書くだけで一冊の本が出来るぐらいです。よって、CTを撮像すると言う事だけで、相当な深い考察が必要なのです。医師がCTは必要ないと言った場合、こういった事を考えた上での発言ですので、一応従っていただければ嬉しいです。

 もちろん患者さんの気持ちや考えを言って頂くのはありがたいです。それでも撮像して欲しいと言うのであれば、それは仕方がありません。しかし、いつまでも希望すれば検査をしてもらえると言う制度が続くかどうかは分かりません。お金には限りがありますから。


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