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救急車内で輸液を行う事はよいかどうか? [医学関連]

 昨日の記事の続きです。メディカルトリビューンに紹介されています(タイミングが良過ぎ??)。

 ジョンズホプキンス大学のHautらは「Prehospital Intravenous Fluid Administration is Associated With Higher Mortality in Trauma Patients: A National Trauma Data Bank Analysis.」と言う論文を発表しています。日本語にすれば「外傷患者に対して病院前で輸液投与を行うと死亡率が高くなる(外傷データバンクの解析)」と言う感じです。

 アメリカではパラメディック救急隊員が病院に運ぶ前に色々な処置をしています。ACLSなどで習う事は日本では医師しか出来ませんが、アメリカではパラメディックの人たちが実際に行っています。当然輸液も行えます。今回のデータはそれに関するものです。

 輸液を行うと死亡率が10%以上上昇したと言うびっくりするものです!!

 方のごとく論文の要約を日本語に訳してみます。

目的:外傷患者に対して病院前で輸液を行う事は一般的な処置であるが、この処置を指示するエビデンスはほとんどない。病院前で輸液を受けた外傷患者はそうでない患者よりも死亡率が高いと我々は予想した。

方法:米国外傷データバンクに登録された患者で後ろ向きコホート研究を行った。一次アウトカムとして死亡率を解析した。病院前で輸液を受けた患者とそうでない患者とを比較した。患者の住んでいる地域、外傷の原因、受けた損傷部位と重症度、他に受けた処置などを考慮に入れた。鈍的外傷か鋭的外傷か、低血圧があったか、迅速な手術が行われたか、重症な頭部外傷があったか、外傷重症度スコアなどによっても解析を行った。

結果:776,734名の患者が登録されていた。約半分の49.3%が病院前で点滴を受けていた。死亡率は4.6%。調整していない死亡率は病院前で輸液を受けていた患者が優位に高かった(4.8%対4.5%)。多変量解析では、輸液を受けている患者の方が優位に死亡率が高かった(オッズ比1.1、95%信頼区間1.05−1.17)。その他、鋭的外傷の患者(オッズ比1.25、95% CI 1.08-1.45)、低血圧(オッズ比1.44、95% CI 1.29-1.59)、重症頭部外傷(オッズ比1.34、95% CI 1.17-1.54)、迅速な手術を受けた患者(OR 1.35, 95% CI 1.22-1.50)では特に優位差を認めた。

結論:病院前の輸液と関連した不利益は外傷患者で著明である。全ての外傷患者にルーチンに行われる病院前の輸液は中止すべきである。


 これはアメリカのデータです。日本では鈍的外傷が多いです。アメリカは鋭的外傷の割合が日本より高いです。日本でこのデータを出したら(なかなか難しいでしょうが)違う結果になるかも知れません。
 死亡率はなんと0.3%も違います(皮肉です)。NNH(何人の人に点滴を行えば一人の人に点滴を行ったための害が生じるかと言う指数です。100÷0.3で求めます)は333.3です。300人以上の人に点滴を行うと一人の人が点滴をしたために死亡すると言う事です。直ちに点滴を辞めるべきと言う結論になるとは思えません(原文を読んでいないので何とも言えませんが)。前日の記事の、輸液は危険な事もあるのでと言う大学の先生の意見はだからひどい話と思います(本人もそうは言っていないはずで、記者の意訳であると思います)。

 NNHについて分かりやすく書けば、鹿児島婚活予備校に通っていた受験生のうち、東大を受験して合格した人が860人中40人(4.65%)であり、鹿児島合コン予備校では974人中42人(4.3%)で有意差を認めた場合(有意差を認めなくても良いんですが)と同じぐらいです。300人中一人が鹿児島合コン予備校でなく、婚活予備校に通ったために東大に合格できたと言う訳です。よし!!婚活予備校に入ろう!!と思うでしょうか???ほとんど差がないと思うのが普通ではないでしょうか。

 その他の注意すべき点を、、、、
 頭部外傷に関しては確かエビデンスがあります。ショック状態でも輸液をしてはいけないと言うのです。手術室に入るまでですが。信じられませんが、そういう論文を読んだ事があります。が、メディカルトリビューンの記事では低血圧は脳に悪い影響を与えるとあります。どっち??
 何故こんなことが起こるかと言えば、時間です。病院の外は色々条件が悪いです。そんな中で点滴(を行う人は、他にもやらなければならない処置が多いです)をするのは病院に到着する時間を延ばすだけです。
 外傷では時間が重要で、手術などが始まるまでに1時間以上かかったか否かで死亡率がかなり違うそうです。よって受傷してから30分以内に病院へ搬入するのが救急隊の目標です。病院では30分以内に判断して手術室へ患者さんを入れないといけません。書くと簡単そうですが、30分はあっという間です。
 論文は「ルーチンに」行う事を中止すべきと言っており、昨日の記事の事例の場合、行うべきだったか、行うべきでなかった(例えば医師が同乗していたとして)については、個別に議論すべきで、これは専門家がやればいい事です。間違っていたのであれば次回から改善すればいいのです。
 それから私は重症外傷の患者さん、大量出血している患者さんに輸液を制限した事はありません。病院内での話ですが、、、、血圧が上がれば出血量が増えると言うのです。そうかもしれませんが、病院では直ちに大量輸液を開始し、血を止める方法を行う準備をしますから問題ないかと、、、、


 救急救命士さんの中には、何でも特定医療行為をしたい!と言う人もいるかも知れませんが、ほとんどの人は、これらの行為に意味があるのかを良く勉強されていますし、訓練も行っています。点滴した方が良いのか、それともこのまま搬送した方が良いのか、いつも悩んでいます。

 救急救命士さんと関わる事がもしあれば、是非感謝の言葉をお願いいたします。
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yangt3

後ろ向きの議論ではなく、予後向上のために
前向きな議論が活発になって欲しいと思います.
by yangt3 (2011-03-08 10:09) 

rintarou

先日はお世話になりました。博多に帰ってから探し当てました。
情報量が多く、これからも楽しみに読ませていただきます。

1日過ぎましたが誕生日おめでとうございます。

by rintarou (2011-03-08 15:12) 

Kim

yangt3さん、コメント&nice!ありがとうございます。

そうですね。前向きに救命率の向上のために救急救命士さんがやれる事は何か?と言う風にしたいです。医者以外の者が、、、、と言う話にならないで欲しいです。

by Kim (2011-03-08 16:50) 

Kim

rintarouさん、コメントありがとうございます。

探して頂いたなんて申し訳ないです。また二次会に行った事を忘れるぐらい楽しく飲みたいですね(^.^)。

これからもよろしくお願いいたします。

by Kim (2011-03-08 16:51) 

ハッスル

公務員の出来事として淡々と公表、新聞記事にという流れなのでしょうが・・・

MCで前向きに対処を考えようとしても、イコール隠蔽に解釈されるようで、なかなか難しい現状だと思います。
回復=正しい判断・行為、死亡=誤った判断・行為
ではないことを、伝えていくのは難しいし、遵法と現実の狭間を法律で考えることも不可能なので、救命士にはヒーローではなくコツコツと作業することを説明しています。

輸液については、他の行為も含めて、病院前処置としてはタイムロスと治療効果を天秤にかけて考えることが求められます。緊張性気胸の脱気などは搬送そのものがタイムロスになるかもしれませんし。
by ハッスル (2011-03-08 17:51) 

Kim

ハッスルさん、コメントありがとうございます。

MCで前向きに考えた事は、きちんと公表すれば良いと思いますが、やはり隠ぺいと思われる事もあるんでしょうかね。

確かにヒーローはいりませんね。日本の救急隊の皆さんは、常に早く運んだ方が良いのか、この場で処置をした方が良いのか、考えていると信じています。

by Kim (2011-03-08 19:17) 

Yujiro

まあ、はじめから仮定がこういう条件だったから、そう言うしかなかったというのもあるのではないでしょうか?

私はこのデータをみて多変量解析でも有意差出ていますので(まあ、1,2~1.3レベルですが)刺し傷、脳関係、低血圧なんかはすぐに病院に入れましょうっていう結果のほうが重要な気がしますね。
by Yujiro (2011-03-08 20:33) 

Kim

Yujiroさん、コメントありがとうございます。

色々難しいですが、血圧が低かったり、脳に障害がありそうだったら、早期搬入を!ですね。

色々な研究が続けられ、より良い救急医療が提供出来るようお互い頑張りましょう。
by Kim (2011-03-09 12:51) 

101

ご無沙汰しております。

この地域のMCは、県単位で医師側が未だに変わっておらず、メディアに出てくる医師の方々も、貴方はいくつ??という方々みえるのが現状かと思います。

かわいそうですね…。
救命士さんがいろいろな場所で活躍できる方が、
この高齢化社会に対応できるのではないかと思えてきました。
by 101 (2011-03-09 22:07) 

ブラウンセカール

今月、救命士の国試を控えているものです。いつも興味深く拝見しております。
私は処置拡大は時期尚早と思っています。

現場救命士に対する教育体制が整っていないからです。
下記のリンクの記事が的確なのでご参照いただければと思いますが、
残念ながら我が本部でも、同じような状況です。今の知識を向上させようという気持ちの反面、維持できるかなとちう不安も強く感じています。
自主的に勉強されている先輩もたくさんいますが限界もあります。
その辺の体制を整えることがまず先決かと思います。
その前に国試に受からないと始まらないのですが(笑)

http://lohasmedical.jp/news/2009/11/19154142.php

by ブラウンセカール (2011-03-09 22:34) 

Kim

101さん、コメントありがとうございます。

色々な情報を見てみると、意外?にこの救命士さんの行動に批判的な人が多かったです(たぶん個人的に責めるつもりはないと思いますが)。

秋田の気管挿管の事例とか、色々な問題があります。どちらにしても建設的に議論をして行きたいですよね。

by Kim (2011-03-09 23:36) 

Kim

ブラウンセカールさん、コメントありがとうございます。

是非救急救命士の試験に合格して下さい!!

それから、参考URL大変勉強になりました。まあそうでしょうね。患者さんの評価をする事は簡単なようでとても難しいです。たぶん対象を医師としても同じような(あるいはもっと悪い)結果になるでしょう。

ただ、救急救命士の制度発足に関わった黒岩さん(横浜?の知事に立候補するようですが)が言っていました。国民が評価すべきは現在ではなく将来であると。
つまり今の救急救命士がレベルが低いから、例えば点滴を認めないと言う風になるとずっと認められません。救急救命士のレベルを高めるのと、心拍がある時の点滴を認めるのとは別個に考えるべきだと言う事です。救急救命士のレベルはもちろん高める努力をすべきです。高めたら許可するんであれば、許可すべきです。高める努力も同時進行です!!

逆に言えば、私はお産を取り扱えませんが、資格上は取り扱う義務があります。点滴の指示を出せない医者もいます。なのにそう言う医者が点滴をする事は(民事上は問題となっても)殆ど問題ないと言うのはおかしいですよね。

by Kim (2011-03-09 23:45) 

tsubaki

質問です。
というより、質問されたことに対して私の経験上や周りに経験者がいないためよくわからなかったのですが…
CPAで意識ありという傷病者がいる。というのはどうなのでしょうか?
その方いわく、
車内収容後明らかにこちらを黙視し、明らかに意識がある状態であるが呼吸なし、無脈性VTの状態であったとそうです。
胸骨圧迫を開始すると、20秒後に苦悶様顔貌を呈したといいます。

その質問内容に対し、別の方が
胸骨圧迫をすると意識があり、圧迫をやめると意識がなくなるCPAがあるということでした。
目前でのCPAであり、圧迫により脳血流が保たれているからだと言っていましたが私の感覚にはそういったものがないのですが、病院ではそういった患者さんを診ることもあるのでしょうか?
by tsubaki (2011-03-16 01:02) 

Kim

tsubakiさん、コメントありがとうございます。

私も話は聞いたことがありますが、そのような人に遭遇した事はありません。また、昔某大学病院で研修させて頂いていた時に、PCPS(人工心肺みたいなもの、ご存知だったらすみません)の一番良い適応は胸骨圧迫をすると意識が回復する人だと言っていました。そんな人に出会った事があるのでしょうね。

それから心停止してどのぐらいで意識がなくなるのかは誰にも分からないと思います。咳CPRと言うのもあり、あらかじめ教えておけば、心停止した時に咳をし続ける事で血流を保てると言う事です。

それから(が多いですが)意識が本当にあったかの検討必要だと思います。視線があった時に意識がなくなれば、しばらくは意識があると判定される事もあるのかもしれませんね。

by Kim (2011-03-16 09:39) 

Kim

咳CPRについて近日中にアップします。

by Kim (2011-03-16 10:20) 

tsubaki

ありがとうございます☆
胸骨圧迫の重要性がより伝わりました。
by tsubaki (2011-03-16 20:48) 

Kim

tsubakiさん、コメントありがとうございます。

是からもよろしくお願いします。

by Kim (2011-03-17 07:43) 

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