ガイドラインは作られた意味を理解しましょう(長文) [研修医教育]
今の医療はエビデンスだガイドラインだとうるさく言われています。行う事に根拠がなければならないと言う事で、ガイドラインに従わなかったと言う事で裁判で負ける事も多いです。研修医の先生も、ガイドラインにはこう書いてありますから、こうすべきじゃないのでしょうか?等と言われる時があります。
しかし、医療はそれほど単純ではありません。ガイドラインに従えば患者さんの治療が出来るのであれば、医者はいりません。臨床研修も必要ありません。セオリーではバントなんだけど、時にはヒットエンドランも必要なんです。今回はこの事について考えてみましょう。
例えば、「脳卒中治療ガイドライン2009」と言う本のP.6には以下のようにあります(何とネットでも全文が見られます)。
低酸素血症が明らかでない軽症から中等症の脳卒中患者に対して、ルーチンに酸素を投与する事が有用であると言う科学的根拠はない(グレードC2)。
理由はこちらにあります。
グレードとかクラスと言うのは多くのガイドラインで共通です。
クラスIであれば、有効と考えられる方法で研究された文献によって裏付けられており、これに反する事は常識的でないと言う事です。
クラスIIaは、研究のレベルが少し低いが、こちらも行うのが常識であろうと言うものです。
クラスIIbは、このガイドラインを作った人たちの意見も結構入っていると思います。
クラスIIIは、行うのは常識的ではないと言う意味です。多くはそれを裏付ける研究があります。利益よりも危険の方が多いと言う場合です。
クラス未確定は、裏付ける研究がないと言う意味です。どちらとも言えません(って何ていい加減な!)と言う意味です。
脳卒中治療ガイドラインではこちらのように定義されており、C2は「科学的根拠がないので勧められない」と言う事です。
若い先生は、「じゃあ、脳卒中の患者さんには酸素を投与してはいけないんだ!」と思い、自分でもそうしますし、酸素を投与して患者さんを運んで来た救急隊員に対して「ガイドラインでは酸素が禁忌とされているのに!駄目じゃないか!」と言ったりします。どんどん勘違いしてしまうと言う訳です。禁忌とは書かれていません。投与する科学的根拠がないとあるだけです。
こう言った間違いをしないためには、ガイドラインが作られた理由を理解する事が重要です。上記のガイドラインの説明を読んでみましょう。
「発症後24時間以内の脳卒中患者に100%酸素3L/分を入院後24時間投与しても、1年間の生存率は対照と差がなかった。また機能障害スコアなどの改善度にも差がなかった。しかし、有意ではないが、重症の脳卒中では酸素投与群のほうが生存率がやや良かった。重症の脳卒中患者に対する酸素投与について結論を出すには、さらに研究が必要である。
脳卒中により脳ヘルニアを起こすような例では、人工呼吸器を装着しても予後は不良である。」
つまり、3リットルの酸素を流した研究しかないと言う事です。それも対照(酸素を投与しなかった患者さんたち)と変わりがなかったと言う事です。また1年後の事を言っており、例えば救急外来でどうなるかとかについては述べていません。また、逆に投与しても良いと言う結論でも良いでしょう(差がないのですから)。重症の脳卒中の場合には、良い結果が出る可能性もあるのです。目の前にいる患者さんが重症でないと言い切れますか?
脳ヘルニアを起こしている患者さんでは何をやっても無駄と書かれていますが、患者さんのご家族を目の前にして、人工呼吸器は意味がないのでやりませんと言えますか?
ガイドラインは「低酸素血症が明らかでない」患者さんに「ルーチンに」投与することが「有用であると言う証拠がない」と書いています。ルーチンとは脳卒中の患者さんが来たら自動的に酸素を投与すると言うような行動の事です。
低酸素血症が明らかで、ルーチンワークでなければ、害になりません。間違えないようにしましょう。
中心静脈ラインについてのガイドラインの記事も先日書きましたので参考にされて下さい。
次はAHOの立場から考えてみたいと思います(つまり以下はほとんど冗談です)。
日本合コン医学会のガイドラインには以下のような事が書かれています。
合コンに参加する場合、服装は赤にすべきである(クラスIIa)。
合コンに参加する場合、携帯も赤である事が望ましい(クラスIIb)。
携帯電話はiPhoneの様な赤外線機能のないものの方がインパクトがある(クラス未確定)。
START式トリアージにのっとれば、30代以上の女性は相手にすべきではない(クラスIII)。
合コンでは相手から見て右側に座ると効果的である(クラスI)。
積極的なボディータッチは合コン成功の重要な要素である(クラス未確定)。
ガイドラインに書いてあったから、携帯も服も赤にして、29歳の女性を相手に、一番左の席に座り、隣の女性にタッチしまくったら、、、、、どうなるかはあなた次第ですね。100%成功する治療と言うのもない訳ですから、、、、
このガイドラインの根拠は別記事でいずれ紹介いたします。お楽しみにね!
しかし、医療はそれほど単純ではありません。ガイドラインに従えば患者さんの治療が出来るのであれば、医者はいりません。臨床研修も必要ありません。セオリーではバントなんだけど、時にはヒットエンドランも必要なんです。今回はこの事について考えてみましょう。
例えば、「脳卒中治療ガイドライン2009」と言う本のP.6には以下のようにあります(何とネットでも全文が見られます)。
低酸素血症が明らかでない軽症から中等症の脳卒中患者に対して、ルーチンに酸素を投与する事が有用であると言う科学的根拠はない(グレードC2)。
理由はこちらにあります。
グレードとかクラスと言うのは多くのガイドラインで共通です。
クラスIであれば、有効と考えられる方法で研究された文献によって裏付けられており、これに反する事は常識的でないと言う事です。
クラスIIaは、研究のレベルが少し低いが、こちらも行うのが常識であろうと言うものです。
クラスIIbは、このガイドラインを作った人たちの意見も結構入っていると思います。
クラスIIIは、行うのは常識的ではないと言う意味です。多くはそれを裏付ける研究があります。利益よりも危険の方が多いと言う場合です。
クラス未確定は、裏付ける研究がないと言う意味です。どちらとも言えません(って何ていい加減な!)と言う意味です。
脳卒中治療ガイドラインではこちらのように定義されており、C2は「科学的根拠がないので勧められない」と言う事です。
若い先生は、「じゃあ、脳卒中の患者さんには酸素を投与してはいけないんだ!」と思い、自分でもそうしますし、酸素を投与して患者さんを運んで来た救急隊員に対して「ガイドラインでは酸素が禁忌とされているのに!駄目じゃないか!」と言ったりします。どんどん勘違いしてしまうと言う訳です。禁忌とは書かれていません。投与する科学的根拠がないとあるだけです。
こう言った間違いをしないためには、ガイドラインが作られた理由を理解する事が重要です。上記のガイドラインの説明を読んでみましょう。
「発症後24時間以内の脳卒中患者に100%酸素3L/分を入院後24時間投与しても、1年間の生存率は対照と差がなかった。また機能障害スコアなどの改善度にも差がなかった。しかし、有意ではないが、重症の脳卒中では酸素投与群のほうが生存率がやや良かった。重症の脳卒中患者に対する酸素投与について結論を出すには、さらに研究が必要である。
脳卒中により脳ヘルニアを起こすような例では、人工呼吸器を装着しても予後は不良である。」
つまり、3リットルの酸素を流した研究しかないと言う事です。それも対照(酸素を投与しなかった患者さんたち)と変わりがなかったと言う事です。また1年後の事を言っており、例えば救急外来でどうなるかとかについては述べていません。また、逆に投与しても良いと言う結論でも良いでしょう(差がないのですから)。重症の脳卒中の場合には、良い結果が出る可能性もあるのです。目の前にいる患者さんが重症でないと言い切れますか?
脳ヘルニアを起こしている患者さんでは何をやっても無駄と書かれていますが、患者さんのご家族を目の前にして、人工呼吸器は意味がないのでやりませんと言えますか?
ガイドラインは「低酸素血症が明らかでない」患者さんに「ルーチンに」投与することが「有用であると言う証拠がない」と書いています。ルーチンとは脳卒中の患者さんが来たら自動的に酸素を投与すると言うような行動の事です。
低酸素血症が明らかで、ルーチンワークでなければ、害になりません。間違えないようにしましょう。
中心静脈ラインについてのガイドラインの記事も先日書きましたので参考にされて下さい。
次はAHOの立場から考えてみたいと思います(つまり以下はほとんど冗談です)。
日本合コン医学会のガイドラインには以下のような事が書かれています。
合コンに参加する場合、服装は赤にすべきである(クラスIIa)。
合コンに参加する場合、携帯も赤である事が望ましい(クラスIIb)。
携帯電話はiPhoneの様な赤外線機能のないものの方がインパクトがある(クラス未確定)。
START式トリアージにのっとれば、30代以上の女性は相手にすべきではない(クラスIII)。
合コンでは相手から見て右側に座ると効果的である(クラスI)。
積極的なボディータッチは合コン成功の重要な要素である(クラス未確定)。
ガイドラインに書いてあったから、携帯も服も赤にして、29歳の女性を相手に、一番左の席に座り、隣の女性にタッチしまくったら、、、、、どうなるかはあなた次第ですね。100%成功する治療と言うのもない訳ですから、、、、
このガイドラインの根拠は別記事でいずれ紹介いたします。お楽しみにね!
2010-05-15 07:00
nice!(6)
コメント(6)
ガイドラインどおりにすべて進んでくれれば本当に楽なんですけどね・・・。
by ask (2010-05-15 14:06)
AHOにおいてiPadの適正使用についての
ガイドライン作成をよろしくお願いします(^.^)
by yangt3 (2010-05-15 16:58)
askさん、コメント&nice!ありがとうございます。
ですよね。ガイドライン通りに行かないのが医療です。が、ガイドラインはしっかり勉強しておかなければなりません。
by Kim (2010-05-15 18:12)
yangt3さん、コメント&nice!ありがとうございます。
iPadのガイドラインは、次回AHO総会にて話し合われる予定になっています。が、現在iPadは普及率が低く、エビデンスレベルの高い研究が出ていませんので、ガイドラインはずいぶん先になると思われます。
by Kim (2010-05-15 18:14)
私は『ルーチン』という言葉に思うところがあって、いろいろ調べたことがあります。ガイドラインでよく見かける言葉ですね。
そのころのことを思い出したのでコメントしました。
意味はわかったんだけど、他の人に説明しようとすると何と伝えれば
良いのか・・・当時は相当考えた言葉です。
たぶん私は難しくないことを考え過ぎて訳分からなくなるタイプみたいです。
by IDFU (2010-05-15 21:57)
IDFUさん、コメントありがとうございます。
何でもきちんと調べたり考えたりする事は重要です。素晴らしい事だと思います。
ILCORのワークシートの訳毎日見せて頂いています。これからもよろしくお願いいたします。
by Kim (2010-05-15 22:38)