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脳卒中の救急診療にMRIは必要か? [CPRの基礎]

 ACLSコースでは脳卒中の講義があります。時々担当させて頂きます。AHAのコースではDVDを見てもらえば良いのでかなり楽です。

 そこで良く質問される事の中に、「脳梗塞の診断にMRIを使ってはいけないのですか?」と言うのがあります。AHAのガイドラインでは画像診断としてCTしか出てきません。何でMRIが出てこないのかと思うのは当然ですよね。

 結論から言えば、MRI使っても大丈夫です。使える時には是非使いましょう!と言う事になります。

 それならば何故MRIが出てこないのでしょうか?

 この文献によれば、緊急MRIが24時間行える施設は約20%で、日勤帯のみの施設は約30%、約50%は緊急MRIが行えないと言う事です。アメリカでは24時間MRIが行える施設は、もっと少ない数字だと思われます。

 これがMRIをアルゴリズムに乗せていない理由の一つだと考えられます。脳卒中は発症から3時間以内に血栓溶解療法を始めるか否かで成績が違うからです。緊急で出来ない検査は行うべきではありません。
 それからMRIは体内に金属を埋め込んでいる患者さんには行えません。また筒の中?に入ってしまうので、状態の変化を早期発見する事が難しいです。その点CTは状態が悪くなければ禁忌はありません(MRIも状態が悪ければ行えません)。通常の救急病院ではCT撮れるでしょうから(撮れない病院で救急を受ける事があれば、、、、、私はそんな病院での救急診療は出来ません(+_+))。

 脳血管障害画像診断のガイドライン(PDF版は古いものです。最新版は書籍で!)には以下のように書かれています。

推奨
1. 急性期脳梗塞においてMRIを行う場合は、拡散強調画像を含めるべきである(グレードB)。
2. MRI検査により治療開始時間が遅れる可能性がある場合は、MRIを施行しないよう考慮すべきである(グレードC2)。
3. 血栓溶解療法の患者選択基準にMRIを用いることを考慮してもよいが、患者予後向上を示す科学的根拠はほとんどない(グレードC1)。

別のところには、、
 CTは拡散強調画像よりも有意に急性期虚血病変の検出能が低く、早期虚血サインの客観性も劣る。現時点ではMRIとCTとの使い分けに関して科学的根拠に基づく推奨はできない。

 よって病院でMRIを早く撮影できるよう努力している所ではMRIを撮影してもよいが、それを強く支持するデータはなく、1分でも早く脳梗塞の診断を付け、血栓溶解療法の適応を決める事が重要であると言う事になります。

 また、こちらの文献によれば、急性虚血性脳卒中に対するMRIの感度は83%(95%信頼区間77-88%)、CTは16%(12-23%)、特異度はMRIが96%(92-99)、CTが98%(94-99%)だったと言う事です。

 脳卒中の患者さんは臨床診断で診断でき、CTで出血がなければ脳梗塞として良いと昔習いましたし、文献にも書かれていました。こう言った考えからMRIが必要かどうか考えますと、、、

 例えば脳卒中の患者さんが来院されます。血糖が高くないか、他の病気ではないか調べて可能性は低く、まず脳卒中であろうと考えたとすれば、その時点で脳梗塞の事前確率は60%です(古いデータですが、こちらによれば、、、、)。
 MRIで脳梗塞と診断されれば、、、、事前確率60%はオッズ比1.5で、事後確率は1.5×0.83÷(1-0.96)=31.125であり、96.8%でほぼ間違いないです。CTでも1.5×0.16÷(1-0.98)=12で92.3%ですので、こちらも間違いないです。
 MRIで脳梗塞でないと診断されれば、、事後確率は1.5×(1-0.83)÷0.96=0.265で、21%ですので、う〜ん、否定できるのでしょうか??CTでは1.5×(1-0.16)÷0.98=1.285で56.2%です。

 よって、MRIが役立つのは、CTで脳梗塞と診断できず、MRIで脳梗塞と診断できる場合のみです。どちらでも脳梗塞と診断できなかったら、、、、感度は1-(1-0.83)×(1-0.16)=0.858ですので、両者を併用する意義はありません。

 それから、MRIはくも膜下出血の感度が低い(出血量が少ない、発症から時間が経っているなどの場合)ので、くも膜下出血を否定するためにはやはりCTが必要です(MRIも同様に有効であると言う文献もありますが、症例数が少ないです)。CTを省略するのは難しいでしょう。

 長くなって済みませんでしたが、、、、MRIを使いたい場合とは、発症からまだ時間があまり経っておらず、CTを行っても血栓溶解療法の適応となるかどうか判断できない場合となるでしょう。脳卒中の救急診療では「Time is brain」なんです!


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TOMOちゃんズ

マスコミの報道の影響から
CTだけで済まそうとすると、MRIを撮って下さいという
リクエストが患者さん、ご家族からあることがあります.
心臓にしても脳にしてもTime is lifeなのですが.
こうした説明に時間をとられるのは
ちょっと苦しいですね.
市民の皆さんにもACLSのアウトラインを知ってもらえると
いいですね.
by TOMOちゃんズ (2009-01-23 08:47) 

Kim

TOMOちゃんズさん、コメントありがとうございます。

確かに何でも検査して下さいと言う人多いですよね。

検査は分かった人がオーダーしないと解析が難しいですし、分かった人でないと見逃しが多いです。よって何でも検査すれば良いと言うものではないのですが、、、、

それを短時間で納得して頂くのは難しいですよね。そのために血栓溶解療法が遅れて、、、、麻痺が残ったら訴えられて負けるんでしょうかね。


by Kim (2009-01-23 12:01) 

(の)

確かに・・・。

私は関東某県の地方都市にある大学病院に勤務する神経内科医ですが・・・。

実の所、救急外来の段階でどうしてもMRIが撮りたいという症例はそうありません。基本的に病歴と神経所見(+ある程度の度胸)で何とかなる事が多いです。特にラクナとアテローム血栓性梗塞で、基底核や放線冠にあるものについては。

問題は、脳幹&小脳で、これはCTでの検出力はだいぶ落ちます。特にめまいだけの患者で小脳または脳幹の梗塞で、かつラクナと言えないほどの大きさっていうのが一番厄介です。めまいの患者の多くはBPPVとか前庭神経炎とかだったり、梗塞でもごく軽症で、ぶっちゃけ一晩ぐらい治療開始が遅れても大勢に影響ないとかなんだけど、たまにあるんですよね。そういう時のADL的ダメージがかなり大きい(となると結構な確率で自宅退院できなくなる)ので、神内的にはやっぱり「イザって時のために」欲しいなぁと思う訳です。

ただし問題もあります。研修医がろくすっぽアナムネも神経所見もとらずに「ハイ、すぐMR行こうか」と言い出すので、ぜんぜん診断能力が上がらないんですよね。今のご時勢、救急外来ではある程度検査閾値を低くせざるを得ないのはわかるけど、もっと検査前・後確率を意識してやれ!といつも言うんですがね・・・。

血栓溶解療法の施行云々を争っている時には、それこそMRIは時間の無駄ですよね。特に普段から緊急でMRIを撮っていない施設では。むしろCTでearly CT signをしっかり見極めて、きっちりインフォームドコンセントして、「えぃ、やっ!」とやっちまうより無いでしょう。
ちなみに、当院でも本日やっと血栓溶解療法が施行できました!しかも多分成功!!(MRIはT2とDWIだけやりました)ウチの近所はみんな一晩寝てから受診するので、3時間以内なんて数えるほどしか来ません。

長々と失礼致しました。
by (の) (2009-02-05 00:43) 

Kim

(の)さん、コメントありがとうございます。

研修医指導をしながらの臨床大変だと思います。でもきっと研修医の先生には頼れる兄貴分なんでしょうね!これからも厳しく若い先生達を指導してあげて下さいね〜。

MRIについてのご意見ありがとうございました。確かに頭が疑われるというだけで、ルーチンにCTとMRIを出す傾向がありますよね。脳梗塞だと思ったら解離性大動脈瘤だったなんて症例もありますので、、、、胸部のCTも全員撮るべき??みたいに診断と言うのはとても難しいな、、、と感じます。総合診療部に最近配属されたので、、、

血栓溶解療法成功おめでとうございます!患者さんも先生も嬉しいですよね!ますますお忙しくなるとは思いますが、頑張って下さい!

これからも色々とご指導下さい。


by Kim (2009-02-05 08:17) 

Kim

マッシー池田先生のホームページにも詳しく載っています。ご覧下さい

http://square.umin.ac.jp/~massie-tmd/mrihuyou.html
by Kim (2009-10-11 14:44) 

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