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急性冠症候群に対するMONAのOについて [CPRの基礎]

 急性冠症候群に対してMONAを!と講習会では教えています。Mはモルヒネ(Morphine)、Oは酸素(Oxygen)、Nはニトログリセリン(nitroglycerine)、Aはアスピリン(aspirin)です。順番はこの通りではありませんが、覚えやすいので、、、、私は「ほら、何か忘れていませんか?山本、、、、何とかってありませんでした?」と言っています。たまに受講生の方は「????」となるのであまり使いませんが(^o^)。

 順番は酸素、アスピリン、次にニトログリセリンです。それでも胸痛が治まらなければモルヒネです。アスピリンをいつするかは問われておりません(できるだけ早く)が、通常酸素が先になります。

 今回は酸素投与について考えてみます。

 先日急性冠症候群疑いの患者さんが救急外来に来られて、研修医の先生が酸素を4リットル投与していました。MONAを知っているようで素晴らしい!のですが、SpO2が90%です。もっと高くするように酸素流量を増やすべきでは?と聞いたら、SpO2は90%以上にすれば良いと聞いていますが、、、、と言うのです。

 SpO2は100%近くに保つべきと思ってきましたが、、、、何でそんな低い値??だとするとSpO2が100%近くある人は酸素投与が必要ないと言う事になりませんか??
 なんと!研修医の先生が言う通りで、AHAのガイドライン2005によれば、全ての患者に6時間にわたり酸素を投与し(クラスIIa)、SpO2が90%以下あるいは肺うっ血がある患者では全例に投与する(クラスI)と書かれています。アルゴリズムの図にも90%以上に保つとあります(何度も読んだ気がするのですが、、、、(+_+))。

 じゃあ、、、、100%の患者さんには酸素はいらないのではないでしょうか???引用文献にも高濃度酸素を投与しても梗塞の範囲などは変わらなかったとありますし、、、、動物実験のデータが1995年にあるだけで、あとは全部1970年代の研究ばかりです。

 ヨーロッパ蘇生協議会のガイドラインは、たった一つの論文を引用して、低酸素か肺うっ血のどちらかでもあれば酸素を投与すべきであるとしています。

 以下の文献によれば、低酸素に対しては投与すべきであるが、そうでない患者に対してルーチンに酸素を投与する事については何の勧告も行えないとあります。

Nicholson C.:A systematic review of the effectiveness of oxygen in reducing acute myocardial ischaemia. J Clin Nurs. 2004 Nov;13(8):996-1007.


 高気圧酸素療法に関しての文献がありました。以下の文献によれば、高気圧酸素療法を行うと、重大心血管イベント(相対危険度0.12,、95% CI 0.02 to 0.85, P=0.03; NNT 4, 95% CI 3 to 10)と症状の消失するまでの時間(353分短かった, 95% CI 219 to 488, P<0.00001)は減少したが、死亡率は変わらなかった(相対危険度0.63, 95% CI 0.38 to 1.03, P=0.07)と報告されています。

Bennett M, Jepson N, Lehm JP. Hyperbaric oxygen therapy for acute coronary syndrome. Cochrane Database of Systematic Reviews 2005, Issue 2. Art. No.: CD004818. DOI: 10.1002/14651858.CD004818.pub2.

 しかし、酸素投与しても危険はほとんどない(COPDに対する酸素投与については別記事で)ので、低酸素を見逃さないように投与すべきと言う事なんでしょう。マニアックですが「STEMI provider manual」と言う本の23ページ、「ACLS Resource text for instructors and experienced providers」という本の193ページにも同じ記載があります。

 ちなみに脳卒中の場合には93%以上にするとあります。90と93って結構違うと思うのですが、、、、

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へびぱく

分娩中、胎児の心拍が低下すると
母体に酸素を投与します。
母体のSpO2はモニターしていませんが、100%です。
そこで酸素を投与しても胎児の状態には変わりがないと、
エビデンスがありますが、今でも普通に投与されています。
僕的には、アメフト選手がフィールドの外で酸素を吸っているようなものか、と考えています。
分娩中の妊婦さんは、ある意味アスリートですから。
by へびぱく (2009-01-21 07:56) 

Kim

へびぱくさん、コメントありがとうございます。

妊婦さんにもエビデンスはないんですね。私はエビデンスがなくても酸素やった方が良いと思いますが、研修医の先生にSpO2が90あれば良いと言われてびっくりしたので、、、、もっと高くするべきだと言う根拠がなかったのはびっくりでした。


by Kim (2009-01-21 17:27) 

TOMOちゃんズ

ガイドラインの弊害もあるのではないかと思うのですが
クラスIはやってもよいが、クラスIIは
やらないほうがよいのでは、というような風潮が
生まれる気がします.
ガイドラインはあくまでガイドラインで
悪化を防ぐという気持ちと実践が大事なような気がします.
by TOMOちゃんズ (2009-01-21 17:29) 

Kim

TOMOちゃんズさん、コメント&nice!ありがとうございます。

確かにエビデンスの確定していない事はしない方が良いと言う風に言うのは危険な場合がありますよね。

必要なのはベテランの勘です!と伝えたいと思います。


by Kim (2009-01-21 18:31) 

oldDr

呼吸器内科的考えでは、SpO2は90%以上でよいと教えています。(COPDやIPが念頭にあるため。COPDやIPで100%にするのは結構困難です)
蘇生のときや心疾患では100%近くを求めることが多いです。
エビデンスもそれを生みだした考え方によるのでは?
by oldDr (2009-01-21 22:34) 

Kim

oldDrさん、コメントありがとうございます。

そうなんですね。COPDやIP(って間質性肺炎で良いでしょうか?)の場合には上がりにくいと言う事ですね。

なので、研修医の先生が言ったように、普通の人でSpO2が90%あれば良いと言う考えではなく、出来るだけ高い方が良いが、上昇しなければ90%あれば良いと考えるのが一番無難なのでしょうかね。


by Kim (2009-01-22 07:14) 

Hirosuke

下らない話を1つ。

ワイドショー番組で
「にんしん中の山本モナさんが・・・」
と聞こえてきました。

「え!? いつの間に? ・・・っていうか、やっぱり?」

実は、僕の聞き間違い。
本当は「きんしん中の・・・」でした。
あはは。
by Hirosuke (2009-01-22 12:17) 

Kim

Hirosukeさん、コメントありがとうございます。

山本モナさんは色々問題あるのかもしれませんが、個人的には好きなので、有名であり続けて欲しいです。


by Kim (2009-01-22 13:24) 

laerdal

地方救命士をしております。
いつも楽しく勉強させてもらいながら拝見させていただいています。

救急現場ではよくSPO2の値が良いけどもAMIを疑ったり、脳卒中を疑ったりした場合にプレホスピタルの段階で酸素投与をします。

問題はその是非とその量なのですが、
院内に着くとSPO299%なのになんで酸素投与するの?と聞かれたり、怒られたりします。
一応、大事をとって・・・と伝えますが、よく分かってもらえないようです。
また酸素投与量は他覚症状がある場合は高濃度マスク6リッターから、他覚症状がない場合は4リッターから行っていますが、この場合、個人的にはカニューラでの2リッター投与くらいからでもいいのかな?と思っています。

地元の医師の方にお伺いしても酸素投与量についてはまちまちの意見で、SPO2の値が良くても、症状や病態を考えて投与すべきという意見の方もいれば、いらないという意見の方もいます。

結局のところSPO2の値で決めるのでしょうが、自分としてはなんとなくしっくりこない気がします・・。

プレホスピタルの段階で酸素投与するメリットはあってもデメリットは少ない気がするのですが、いかがお考えでしょうか?

ご意見を伺えれば幸いです。
by laerdal (2009-01-24 11:03) 

Kim

laerdalさん、コメント&質問ありがとうございます。

まず医者と言うのは救急救命士さんのようにきちんとした教育を受けておりません。医学部の講義はいいかげん(大学の先生済みません)ですし、多くの学生は出席しません。臨床実習も熱心に教育する先生は少ないので、卒業と同時にほぼ忘れられます。

臨床研修も本当にきちんとやれている所は少なく、救急に関しても同じです。救急救命士さんのように厳しく?やっていれば医者はもっと優秀になると思いますが、、、、

プレホスピタルで酸素を!と言うのは救急救命士さん達はもちろん、普通に救急を勉強している医師ならば当然の事ですが、不勉強な人が沢山いますから、、、、私も人の事言えません(数年前までは救急外来で頚椎カラー外したり、酸素外したりしていました。済みませんm(__)m)ですが、、、、よって何で酸素をやって来るんだ!と怒られたり、笑われたりしたら、この人たちは救急をしっかり勉強する機会に恵まれていないんだな、、、、かわいそう、、、と思うようにしましょう。

現場とプレホスピタルの状況の違いと言うのがよく分かっていない人が多いのです。開業医の非難をする医者も同じです。限られた施設、技術のなかで頑張っている人を理解する気持ちを持ちたいですが、、、、

話がそれましたが、プレホスピタルで酸素を10リットル投与する事は全く問題ないと思います。COPDの人だったとしても私は問題ないと思います。呼吸の観察をしっかりして下さっている訳ですし、止まったら換気をすれば良いと思います。呼吸が止まったじゃないかと怒られたら、低酸素で患者さんが死んだらどうするんですか?と言ってみて下さい。

もし病院で文句言われたら、ブログでKimと言う医者が書いていたと言って下さい。必要ならば乗り込んで怒鳴りつけてあげます(^.^)。

これからもよろしくお願いいたします。


by Kim (2009-01-24 13:25) 

laerdal

Kim先生、お返事ありがとうございます。
あたたかいお返事に本当に救われました。

救急隊員は患者の状態を悪化させないように医療機関へ搬送することが使命であると認識しています。
そのために使える手段は体位管理と酸素投与くらいしかありません。ご存知のように気管挿管や静脈路確保などはCPAでなければ行ってはいけないことになっています。
患者を悪化させないようにするための数少ない手段(酸素投与・体位管理・保温など)を、時に否定されたりすると、以降の現場で少し積極的になれない場合がありましたので・・・。

我々救急隊は日夜、救命のためにご尽力されている医師・看護師の方々には本当に頭が下がる思いで一杯でおります。
でも時には忙しくて機嫌が悪いときもありますよね・・。(汗

みなさんも我々も、患者を助けようという思いは一緒のはずです。
今後も常に患者のためになることは何かを考えて活動していきたいと思います。

ブログ、楽しみにしております。
これからも勉強させていただきます!
by laerdal (2009-01-24 14:21) 

Kim

laerdalさん、コメントありがとうございます。

問題を解決する一番の方法は合コンです(^o^)。是非病院の救急にかかわる先生や看護師さんとやりましょう!

看護師さんは、救急隊の方の鍛え上げた心と体が好きな人が多いです。医者は私のようにメタボな人が多いですから(^o^)。

そこで知り合いになれば、機嫌が悪くても良い対応をしてくれますよ〜。

もしlaerdalさんが独身であればお相手が見つかるかも知れませんし、仕事はやりやすくなりますし、一石二鳥です!

大事な事は、、、、お分かりですよね。START式トリアージです!


by Kim (2009-01-24 14:51) 

Kim

それから、患者さんを悪化させないように注意している、、、というお言葉とても重要だと思いました。

病院では救急隊の方達が注意して連れてきてくれた患者さんを悪くしないだけでなく良くしないといけないんだな、、、、と思いました。

病院でも余計な事をして患者さんを悪くしないようにと言う事が良く言われます。

救急外来で酸素を止めたり、頚椎カラーを外したりする事は救急隊の方達に対する名誉棄損でもあるのかなと思いました。


by Kim (2009-01-24 14:55) 

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